クラウン交戦中――同時刻。
「…あー、良い朝、とは言い難いな」
「おいおい、ハウンゼンス。俺を見ながら言うなよ」
「続報を聞くためにお前と二人で夜を明かすとか…どんな暴挙だと俺は思う訳だ」
「お陰で俺の魔者お手製の朝飯が食えるんだ、感謝しろ」
「………」
シュレイは眠い眼をこすりながら、バースフェリア家のキッチンで料理をする魔者の姿を見る。
黒い髪に黒いドレスを纏い、白いエプロンをした魔者の姿を。
ちなみにリリエンタールは普段ヤヨイが使用しているベッドの上で爆睡中である。
朝は弱いのだ、あの魔者は。
付け加えると、バースフェリア家在住の雪の精霊とメイドも就寝中である。
「もうすぐ出来ますよ、ヤト」
「あぁ、分かった」
「…何処の夫婦だよ…」
「何か言ったかハウンゼンス」
「なーんでも無いですよカンナギさん」
ヒュー、ご飯楽しみだなぁっ。
あえて白々しく言いながら、神薙の視線から逃れる様に顔を逸らす。
と、
コンコンッ
「ん?」
「お? 誰か来たぞ」
「……」
ノックの音に眉を顰める。
こんな朝早くに訪ねてくる手合いは居ない筈だが――
「…あ、薬剤の配送とかか?」
「自走車のエンジン音とか聞こえなかったぞ? それに、バースフェリアの処のメイドが起きて来ないんだから、それは考えられないんじゃないか?」
そんな話をしているうちに、もう一度ノックの音が響く。
無視をしても良いが、こんな早朝から来るのが薬を求めての相手だった場合、後々バースフェリア薬学錬金術工房の良くない噂に繋がり兼ねない。
諦めてシュレイは立ち上がると、裏口のドアへと近づく。
「エデンからの刺客だったりしてな」
「だったら都合がいい。今度こそ色々吐いて貰おう」
「冗談に貴様の戦闘思考で答えるな、恐ろしい」
一々返ってくる答えが物騒で困る。
無視出来ない“襲撃”と言う可能性を考慮し、術式端末の柄に手を掛け、
「誰だ? こんな早朝に」
『――あ、シュレイさんですか…?』
「朔耶ちゃんか…?」
返事は予想外の相手だった。
シュレイは警戒を解いて裏口の扉を開ける。
そこには声の人物、御盃朔耶が立っていた。
「…どしたの、本当に。こんな朝早く」
「あ、いえ、昨晩に姉から連絡があって急遽昼前の船で倭国に帰る事になったので…そこを通りかかったらお店に明かりが灯っていたので、早朝でしたがクラウンさんに挨拶でもと…」
成る程、とシュレイは頷く。
ルルカラルス首都コーラルから、港までは列車を使用して大体2、3時間は掛かる。
港で席の手続きもある筈だから、その話は納得だった。
ちらりと朔耶の背後を見てみれば、それなりの量の荷物があるのが分かる。
「そういう話か。でも悪いな、クラウンとヤヨイなら今店を空けてるよ。スゥちゃんとルルちゃんなら上に居るけど、どうする? 起こしてこようか?」
「いえ、急に押しかけてしまったのはこちらです。伝えておいて貰えば結構ですよ」
「そうかい?」
えぇ、構いません。
返答する朔耶に『ま、それもそうか』とシュレイは頭を掻いた。
本来であれば挨拶する事も出来ない時間なのだ。
それに彼女の事である、一週間か二週間か、そこまで長く倭国に居る事は無いだろう。ギルドのSランク取得を目指して大陸側に来たのだ、長く向こうに滞在する理由は無い。何かしらの引き止めが無い限りは。
そんな事をシュレイが考えていると、その背中を眺めていた夜十が欠伸をしながら口を開いた。
「…何だハウンゼンス、知り合いか? だったら朝飯でも食っていって貰えよ」
「…お前が作ってる訳じゃ無いだろうが…」
「あ、誰か居らっしゃったんですか…?」
あぁ、こいつは――
そう口に出そうとした処でシュレイは止まった。
視線を向けた先で、朔耶が固まっていたからだ。
視線の先には――シュレイを通りこして、神薙夜十が居る。
その夜十も、何やら不思議そうに首を傾げていた。
様々な予想が脳裏を過ぎるが、とりあえずシュレイは疑問を解くため口を開く。
「…えーっと、お知り合いですか?」
「まさか…夜十兄様ですか…?」
見事に無視されました。
って――
「は? 兄?」
「神薙、夜十兄様、ですよね…?」
「…? あぁ、まー確かに神薙夜十は俺だが…兄様? 生憎と、うちには義理の妹の鶴祇が居るだけで、君みたいな娘さんを妹にした記憶は無いんだがね」
「わ、私です! 御盃朔耶です!! 御盃雪乃の妹、朔耶です!!」
状況を見守っている先で、朔耶が一歩身を乗り出して名乗る。
その言葉の何処に反応する要因があったのか、あからさまに今まで不思議そうにしていただけの夜十が段々と表情を歪め、やがては『マズイ』と言う表情になった。
どうやら朔耶が誰なのか思い至ったらしい。
その姿は普段の余裕がある姿と違い、妙に人間味溢れる姿だった。
「ゲッ…ひ、人違いだ…」
「今、ゲッて言ったな」
「だ、黙れハウンゼンス!」
「夜十兄様!!」
更に身を乗り出す朔耶に、椅子に座ったまま器用に後退する夜十。
とりあえず、
「靴を脱いで入ってくれ…後でクラウンに怒られるの俺なんだからさ」
大森林地帯で戦闘が起こっている頃、ルルカラルスでも一つの物語が始まろうとしていた。
* * *
「っく、ごほっ…! 【 殺刃 】め、やってくれる…!!」
『フェイ…!』
黒煙の中から一つの影が転がりだす。
手には長大な弓。背には狙撃銃。頭から鮮血を流すエルフ――フェイ・デイレイトだ。
大樹の幹が崩れ、フェイ・デイレイトの前を轟音を発てながら落下して行く中、彼は咳き込みながら荒く息を吐く。
「銃があれ程の威力を出すとは、な…キリング・エッジも可笑しな奴なら、銃の方まで可笑しいとは…! つっ…ウェデシュ、奴はどうした…?」
ウェデシュ、と問い掛けられ、フェイ・デイレイトが持つ弓から思念が返ってくる。
術式端末――誓約魔弓に宿る彼の魔者からだ。
『分からない。こっちに撃ってきた後、僕達の攻撃に中ったのは確かみたいだけど…』
「…自爆狙い…?」
いや違う、そんな筈はない。
口中で呟きながら、頭に浮かんだ考えを払う様に頭を振る。
「アレが、そんな事を考える奴な訳が無い…」
過去相対した時の事をフェイ・デイレイトは思い出し、自爆狙い等と言う馬鹿な考えを振り払う。
色彩円卓の青を抹殺しようとした時、一番の脅威は“青”だった。暗殺する対象を一番恐れる、と言うのも変な話であるが、過去、その場面では正解だった。
ギルド公認でSSS認定を受けていると言う事はそれだけの危険が伴うのが普通なのだ。しくじれば死ぬ可能性が高い。それを考慮し、何重にも場を整え、逃げ道を確保し、その上で襲撃した。
しかし、だ――
完璧だった筈の作戦は、たった一人の存在によって覆された。
それが、【 殺刃 】――クラウン・バースフェリアである。
完全に、相手を捉えていた筈だった。
炸裂すれば、周囲を飲み込んで爆発が起こり、少なくとも二つの爆殺死体が出来上がる筈だったのだ。
だが、そうはならなかった。
飛距離と威力を上げる為に術式処理を施した矢を自分の契約精霊が宿る弓に番える。息を吸い、吐き、弦を引き絞りながら遙か先の“的”を見る。最早一寸のブレすらない動作の先で、いつも通り“的”が派手に散るのを見るだけ。
そう考え、放たれた矢は、
手を離れた瞬間に、察知されていた。
“青”ではない。
想定外の相手。
“青”に荷物を引き渡そうとした“少年”によって。
今でもその衝撃を覚えている。
絶対に外れないと確信して行っていた事が、ターゲットでは無い全く別の相手によって覆された衝撃を。自分の“絶対”が崩された瞬間を。
そして後は必死になって逃げただけだ。
縋るべき最強の手札を失い、心の一部分を“敗北”と言う言葉によって喪失したフェイ・デイレイトと言う存在は、二人の追跡者から命からがら逃げ出した。まるで相手の喉笛を噛みちぎるまで追跡を止めようとしない猟犬から、必死になって逃げたのだ。
「そんな奴が…自爆を狙うなんてありえない…」
断定し、決定する。
弓に矢を番え、先程までそうしていた様に、王女の一団へと牙を向ける。
そう、する事は最初から決まっている。
ただ、的を狙えばいい。
そうすれば、的は自ずと姿を現す。現さざるを得ない。
「やるぞ、ウェデシュ! 矢を放てば奴が生きているかはハッキリする…!」
『だねっ!』
体勢を立て直し、弓に矢を番える。
狙う先を視線で探り、すぐに見つけた。
煙だ。
一射目、二射目で上がった煙こそが目印。相手が利口ならば、下手に動く事はしない。それはクラウン・バースフェリアの成功を信じていたとしても変わる事は無いだろう。あの中にスナイパーと相対した事がある者が居るなら尚更と言える。
「【 我が瞳は世界を見通す 】…」
――自己干渉式・視覚強化
息を吸い、吐く。
目を閉じながら起動詞を呟き、ゆっくりと瞼を開く。
何時も通りの世界。遠く遠く、遥か彼方まで届きそうな視界が脳髄に叩きつけられる。
「あぁ…」
もう一度、息を吸う。
それは倭国の弓を構える作法に近い。しかし我流だからか、洗練された姿勢の中にも何処か狩猟めいた構えが混じっている様にも見えた。
「【 疾く駆ける牙は空を裂く 】…!」
キィン、と――弦に番え、引き絞る前の矢が啼く。
――風纏・飛翔螺旋牙
だが、矢はその一啼きでは輝きを収めない。
貪欲に、周囲空間の空気を吸い込み続ける。どれだけ食っても足りないと、これだけでは満たされないと、飢餓に苛まれた野犬の様に空気を喰らい続ける。
フェイ・デイレイトは矢の状態に唇の端を吊り上げて笑うと、そのまま弦を引き絞り始めた。
狙う先は未だ煙が上がる場所。
王女が居るだろう、木の陰を狙い撃つ!
「キリング・エッジ…! さぁ出てくると良い! 出てこなければ王女が―――!?」
死ぬぞ?
その声は、背筋に走った激しい悪寒によって中断された。
首元を冷たい――まるで死者の手が掴んでいる様な錯覚を覚えた瞬間、彼は吐き出していた言葉を飲み込み、姿勢を回転。今まさに超圧縮され、空気の壁すらも突き破るだろう威力を持った牙は、一見何も無い背後空間を穿った。
轟音。
射出されると同時、今まで圧縮されていた空気が激しい炸裂音を伴なって大樹を穿ち、緑光を尾に引きながら空を断つ。
居た。
確かに居た。
無音、無風。気配も無ければ姿形も無い。殺意なんて以ての外だ。
しかし、確かにそこに居たのだ。
そう、知っている。
数年前に同じ様な事を体験したのだから分かる。
「感が良いのは相変わらずか…!」
「そこに居たか…!」
声が、響いた。
フェイ・デイレイトの横、大樹の幹の上に黒い影が降り立つ。
手には黒き魔剣。
顔には無数の傷跡。
数年前に見た、大人の顔になった少年が、フェイ・デイレイトの前に立っていた。
「腐れエルフ!!」
「殺刃!!」
吐き出す言葉に互いが殺意を乗せ、ぶつけ合う。
その裏で、二人共に次手を出させない様に警戒し続けていた。
次に取る手は二人共既に決まっている。
フェイ・デイレイトは距離を取る事であり、クラウン・バースフェリアは距離を詰める事だ。
この不安定な大樹の幹の上では、攻撃を仕掛けるならば接近戦を主体とするクラウンにとっては後一歩だけ遠く、フェイ・デイレイトにとっては矢を番え放つか、背の狙撃銃を抜き放つ為にも距離を取りたい。
しかし、殺意をぶつけ合うだけでは場は動かない。燃料を積み上げるだけでは爆発しないように、投げ入れる火種がそこには無い。
一触即発。
その張り詰めた空気の中、フェイ・デイレイトは意を決して口を開く。
「久しぶりじゃないか…まさかこんな処で出会うとはな」
「全くだ。飛空艇に乗るだけの簡単な仕事が、貴様の所為でこんな事になってやがる。いい迷惑だ」
やれやれだ、とクラウンが目つきを凶悪に歪めながら『それで、』と続ける。
「…任務依頼はアサシンギルドからか」
「………」
核心。いきなりそこを突いてくるか。
フェイ・デイレイトは胸中で呟く。
次に吐き出される言葉によっては、世界中を巻き込んだ紛争に発展する可能性がある。ギルドが世界に根を張る大企業なら、アサシンギルドもまた世界中の“ニーズ”に応える地下組織だ。摘発に際した局地戦闘、ギルド要人の暗殺、裏切り者の炙り出し――ある程度どちらかが疲弊するまで、その流れは止まる事は無いだろう。そして、どちらも完全消滅はする事無く多大な犠牲を出したまま事態は終結する。
“ニーズ”がある。需要があるのだ。どちらの組織も、世界に住まう者達が求めて止まない。
フェイ・デイレイトにとっては戯れに“世界を乱す火種”を蒔いてもいい。
ここで目の前の少年だった男を殺すなら、そう話した処でどうもこうも無い。しかし、そうは出来ない。確実に殺せる自信がフェイ・デイレイトには無かった。もし“火種”を話したとして、それが持ち帰られた場合、アサシンギルドは裏切り者を狩り出す為に襲いかかるだろう。昼も夜も無く、只々死を与える為に付け回される。
いや、それ以前に――ここで死ぬ場合は全く関係が無いのかもしれないが。
「フフッ…」
「…何笑ってやがる…」
「あぁ、いや…想像した結末が面白くて、つい、な…」
面白い。そう、フェイ・デイレイトにとって、その結末は面白い話だった。
だってそうだろう? 嘗てSS+となり、色彩円卓についた自分が、世間には全く名前の出ない“殺刃”と言う一ギルド員に負ける可能性が恐ろしい程に高いと言う話は。
だが、その未来予想図は的を射ている。
フェイ・デイレイトはその類まれな超長距離狙撃能力、及び任務達成率にてSS+にまで上り詰めたのだ。クラウンの様に正面から向かって任務を達成する様な生き方はしていない。故に、互いが戦闘を生業にして生きてきたと言っても、その指向性が違いすぎる。
故にその戦闘能力の方向性では、フェイ・デイレイトにとって後一歩でも詰められたら、それは絶死の間合いに他ならない。
苦笑に歪めていた頬を再び戻すと、クラウンの質問に答える為に口を開く。
「今回の事はアサシンギルドとは無縁だ。俺の様なのを使って、あいつらがそんな事をする訳が無いだろう?」
「………」
「流石にこれは信じて貰うしか無いが、な。アサシンギルドを後ろ盾に王女を殺したら、どんな事になるかお前が分からない訳ではあるまい。両ギルドは全面戦争、そして俺は余計な事をしたとして最重要抹殺対象だ」
俺はまだ死にたく無いのでね?
再び口の端に笑みを浮かべ、フェイ・デイレイトは続ける。
「俺が言うのも何だが、アレらを敵に回すとおちおち眠れなくなってしまう。それは避けたい、と…これで満足か?」
「満足、満足ねぇ…? もう一歩満足には足らないな」
「ふん、だったら何が足りない?」
「お前、アサシンギルドの後ろ盾では王女を暗殺しないと言ったな? だからって単独犯だとも考えづらい…貴様の後ろに居るのは“誰”だ…?」
「どうしてそう思う?」
「どうして? そう言うのは最初の飛空艇狙撃でど真ん中ぶち抜いてから言えよ」
「………」
「予想するに、最初は拉致誘拐辺りが目的だったか? だからあえて飛空機関を狙って狙撃した。そうしておいて、脱出した処を攫うのが当初の目的だったのかねぇ? 俺が先に空へと飛び出したと言うのに、貴様はたったの一発も撃ってこなかった」
「………」
そして、とクラウン・バースフェリアは続ける。
「機を見計らっている途中で、お前の雇い主から変更が伝えられた。“殺せ”とな。だからわざわざ生かして降ろしたのに、夜が明けて一手目でいきなり広範囲を飲み込む様な爆撃系の術式を使用して狙撃して来た…どうだ? 当たらずとも遠からず、か?」
「ふん…一々答え合わせをしてやるとでも?」
今までの問い掛け全てを否定するような物言いに、しかしクラウン・バースフェリアは一切気を悪くしたような様子は見せなかった。否、機嫌の悪さなら既に最悪の値をマークしているのだろうか? 読み取れる様な表情は既に消え、無に等しい。
挑発を含んだ言葉を投げたのに、その反応の無さにフェイ・デイレイトの方が逆に怯んでしまいそうになる。
そんな彼を前に、クラウン・バースフェリアは、フンと鼻を鳴らし、
「構わんさ、どっちでも。ここで答えを得られなくても“上司”に黒幕は分かりませんでしたと報告して終わり。答えを得たら得たで、それも丸投げするだけだ。生憎とヒーロー気取って背負い切れない重い荷物持って自爆する様な真似はしたくない」
だから、そう――と黒い剣をフェイ・デイレイトへと向け、
「後腐れ無く、貴様がここで死んでくれるだけで結構だ」
まるで、お前の命になんて全く興味が無いと言う様な、平坦な感情の篭らない声色で、クラウン・バースフェリアは“死”を告げた。
「――相変わらず、年齢にそぐわない死生観だな。もう少し情けを敵に与えてもいいんじゃないか?」
「美談は物語の中だから美しいんだ。現実でそれをやったら、半分以上は美談になる前に自分の命が吹き飛ぶ。残り半分も、相手は恩返しでは無く死を持ってくる可能性が殆どだ」
だろう? 殺し屋。
問い掛ける言葉は只の余興。
その証拠に視線は未だ、狙撃手の首を見つめている。
だが、それが分かっていたとしても、乗るしか無い。
いや、余興を続けるしか、狙撃手が場をひっくり返す可能性は無いのだから。
「…その通り、その通りだな。生かして逃せば、報復されるなんてのは常識だ。恩? 下らない。その“余裕”ごと命を消し飛ばすだけだ。少なくとも、俺達はそうで、世界の殆どがそうだろうよ」
突きつけられている剣先が揺れる。
それは予兆。
次の一言を吐けば、問答無用で襲いかかるだろうと言う合図。
幕は上がり、舞台の上で誰かが死ぬか?
「どちらか死ぬ事こそが、我らに取ってのベスト」
「っ!!」
クラウン・バースフェリアの身が沈む。
一歩を踏み出す為、この不安定な大樹の幹を踏み抜かぬ様に足を半歩出し、
「そう、我らにとってのな」
斜め上より、飛び出そうとしたクラウンの身を穿つように、第三者が放つ牙が振り抜かれた。
#5-end
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