その攻撃に気付けたのは“異能”の力のお陰ではなかった。
クラウンは大樹の幹――足場になる様な1メートル程ありそうな幹の上、バックステップを踏みながら前方を見据える。
上方から降って来た刃の一撃に命を奪うのに直結する程の威力は無かった。であるならば、異能は未来を見ない。気付けたのは純粋に洗練された戦闘勘のお陰であった。
「………誰だ」
問い掛けに答えは無い。
刃を振り下ろしながら落ちてきたのは男。両方の手にはそれぞれ黒と白の剣。顔には何かに驚いた、と言わんばかりの表情が張り付いていた。
「へぇ、成程。今のを躱すか…完全に不意打ちだと思ったんだが」
「チッ…遅いだろうが、エスファハーン」
「悪いな、タイミングを見計らってたんだが…フハッ、まさかアレで躱されるとは思わなかったよ」
さも面白い物を見た風に、降り立った男は笑う。
そこでクラウンは直感した。
あの面白そうに笑っている男が、
『目的の変更を伝えに来たのが奴か』
『十中八九そうじゃろうな。出来れば背後関係を吐かせたいところじゃが、』
『……勝てる可能性は低い。ヤヨイ、身体系の極級術式は?』
『他の術式使用を考えるなら、後一回が限度じゃ。使って斃せる保証が無い以上、妾としては逃げる手段に用いて欲しい処じゃが…』
『どちらにしても分が悪いな』
笑えない話だと、クラウンは胸中で呟く。
思念で接続しているヤヨイと会話しながら、クラウンは一度も相手から目を離す様な真似はしなかった。それだけの相手だと、今までに培った戦闘感覚が告げている。そして何よりも今の状況が致命的だと言えた。
そう、射手に前衛がついたのだ。
今までは一歩踏み込めればソレで決着をつけられる力関係だった。近接戦闘主体のクラウンと遠距離戦闘主体のフェイ・デイレイト。二人の戦闘能力がほぼ同じだとして、距離が既にクラウンの間合いであったならどちら有利か簡単に分かる。
だが、それも先程までの話だ。
卓越した射手も、近接戦闘では負ける。だが、そこに射手が常に距離を置く事が出来る要因があったならどうか?
簡単だ。有利が不利へと逆転する。
『あらゆる要因を排して正面からぶつかった場合、俺が勝てる確率は幾らだと思う?』
『それを妾に訊くか?』
愚問じゃな、と溜息混じりにヤヨイは思念をクラウンへと投げかけてくる。
確かにな、とクラウンは内心で苦笑を浮かべた。
『ゼロじゃ。単純な戦闘能力評価上で、妾達は本来フェイ・デイレイトにすら劣る。そこに、恐らく接近戦闘技術ではお主に匹敵する存在が現れた。どうじゃ、何か言う事があるか?』
『全くもってその通りだ、と言うしかないな。しかし、まぁ――』
新しく手に入れたダマスカス鋼製の術式端末を強く握りこみ、クラウンは緩やかに腰を低くする。
『盤上の劣勢を引っ繰り返せる“あらゆる要因”は、妾達の方が絶対に多い』
『お姫様達に啖呵切った手前、せめて遠距離攻撃手段だけでも奪わなけりゃならんしねぇ』
更に体勢を低く、何時でも動ける様に筋肉を適度に緩める。
何時でも攻撃、或いは躱す為に動く姿勢を維持。エスファハーンと呼ばれた男とフェイ・デイレイトは、ゲームを落とせるだけのカードが揃った以上きっとこれ以上戦闘を長引かせる様な真似はしない。それはクラウンの直感であり、本人達を見た率直な感想である。
さて、どう出るべきか? そうクラウンが考えた時、エスファハーンは視線を投げかけてきた。その眼にある感情は――恐らく観察。
「さて、お互い準備も整った様だし、殺し合いを始めよう」
「わざわざ待ってくれたのかよ。 ありがとうございますとでも言えば良いか?」
「ははっ、分かってるじゃない――かっ!!」
「!」
開始の合図なんて物は無い。
言葉を吐き出した後に待っていたのは、挨拶と言うには余りにも凶悪な力、空気を裂く様に飛来する白い剣。
全体重を乗せただろうそれは、口の端に幾らかの笑みを貼り付けた男が放つ刺突だ。
足場は無数にあるとは言え、幹が立体に交差し、強く踏める場所が限られている場所でのその攻撃には一切の躊躇いが無かった。
クラウンは正面から突き込まれる剣を受ける事無く跳躍。あえて真正面から受ける義理は無い。加えて言えば、
「――フンッ」
始まってしまった以上、足を止めればエスファハーンの背後に存在している狙撃手が容赦なくこちらを撃ちぬいてくる。
故に、出来るだけ気を遣い、エスファハーンの背後にフェイ・デイレイトが来る様に跳躍。
背後へ着地すると同時、前方でエスファハーンが膝を曲げ体勢を低く――
次瞬、銃弾が頭を撃ち抜くのを幻視。
「クッ!?」
視えてしまった死を瞬間的に分析し、何が行われるかを察知。
成程、クソッタレめ。
胸中で毒づきながら、咄嗟に下げていた魔剣で眼前の空間を薙ぎ払う。
空を薙ぎ、手に伝わってきたのは硬質な物体――弾丸を斬り払った感覚。
あの一瞬、エスファハーンが体勢を低くし、次の跳躍の為に間を作った瞬間――頭があった位置から弾丸が飛び出してきた。クラウンはそれに毒づいたのだ。それ程の連携、戦い慣れていなければ出来る様な事ではない。仲間の頭があった位置から弾丸が飛び出してくるなんて、互いが互いの手札を熟知し、考えを察知してなければ出来ないのだ。
「はっ――やるなっ!!」
『前衛が突っ込んで来るぞ!! 斬って払えクラウン!!』
「言われんでもっ!!」
更に黒い剣での刺突!
再び高速で突き込まれる刃を、払った状態だった剣を戻す事で弾き飛ばす!
戟音――同時に、再び眉間を貫かれる光景を幻視。
「うおわっ!?」
見えた死亡未来の光景に咄嗟に首を傾ける。瞬間、何かが耳元を掠った様な感覚を覚え、同時に発砲音。間違い無く弾丸である。
鈍い痛みと、一瞬の気の緩みが死に直結する現実に歯を食いしばり、剣を握っていない左手を前へと突き出す。
先ずは張り付いてくる邪魔者を引き剥がす!! そうでなければ先は無い!
「【 炸裂する光源の刃 】!!」
「ははっは!! 中るかよっ!!」
――下位爆裂系術式・咲き誇る燈の花
橙の光を纏い、クラウンの掌の中で生まれた星が炸裂。
爆音を伴って放たれた指向性ある暴虐は、前方空間に直撃。しかし、既にそこにエスファハーンは居ない。既に直撃を免れる為、別の幹に跳躍している最中だ。
この瞬間、フェイ・デイレイトとクラウンの間に遮蔽物は無くなった。
必殺の一瞬。
しかし、
「爆煙…! 逃すかっ!!」
エスファハーンを引き剥がせば必然的に射線は空き、クラウンとフェイ・デイレイトの間に死線が繋がる。だからこその爆裂系術式。発動し、当たらなくとも周囲空間を吹き飛ばし、爆煙によって視界を遮る事が出来る。例え相手が百発百中の、歴戦の狙撃手とは言え一瞬の隙は出来る。
クラウンは出来上がった煙の壁を前に、反射的に頭を下げた。次瞬、煙の壁を突き破り弾丸が飛来する。頭上を死が通過するのを感じながら、膝を折った姿勢から横へと跳躍。
「スゥ―――ハァ」
太い幹に回り込み、呼吸。
隠れた幹に二発の弾丸が叩きつけられるのを音で知り、笑い声を撒き散らしながら双剣の使い手が再び足場の幹を蹴ったのを気配で察知する。
――冷静になれ。冷徹になれ。
心に投げる言葉は呪詛の様に心象を侵食する。
――己の全てを、世界に溶けこませろ。
深く吸い、そして吐く。
一拍の間。それで、世界は変質を来す。
隙が欲しかったのだ。只一つ、先手を取られたのが痛かったのだ。
故に、ここからが本番。
隙が出来たなら、息を整え、思考を平坦にする事が出来たのなら――
『ヤヨイ』
『理解しておる。往け』
――勝機はある。
存在――消失。
クラウンにしか出来ない事。全てをひっくり返す為の手札の一つ。
概念にまで及ぶ気配の遮断。
思考は至って単純――相手の死のみを望む。
不純物を含まない純粋な思考で、己の全てを塗り潰した上で、無色透明な意識へと変質させる。それが、クラウンが生き抜く上で得た技能。クラウン・バースフェリアが嘗ての血まみれの光景の中、白堂教会で与えられた隠形技術の極地。
この状態で、クラウンの存在を感じる事は出来ない。
それだけの技能。正面に居ようが、視線が遮られているという事にすら何秒か掛かる程の、業である。
感知は出来ない。しかし、知っている者が居れば対処する事は出来る。
「気配が――!? キリング・エッジめ…またかっ!?」
そう、過去味わった事のある単純な恐怖。
見えなくなった相手が問答無用に殺しに来る感覚を思い出したのか、フェイ・デイレイトが叫んだ。
そんな彼の横、幹を走り抜けていく姿が一つ。
向かう先は――クラウンが隠れたと思われる場所。
「おいおいどうしたぁっ!! 隠れて息を潜めれば勝てるって訳でも――」
「避けろエスファハーン!!」
「っ!?」
声が掛けられる瞬間、クラウンはエスファハーンの眼前に、居た。
故に、次の瞬間の事はエスファハーンにとっては奇跡だった。
そう、胸に斜めに紅い線が走り、鮮血が舞う程度で済んだのは。
「ぐぁあっ!?」
「っ、そこかぁっ!!」
溜め無しの風牙。
容赦の無い一撃は、しかし仕留めるに至らない。
刃を振り下ろし切った姿、瞬きの間程度見えた影。寸前で引いた相手を殺せなかった事に苦々しい表情を浮かべるクラウンが一瞬視える。それに向かって放たれた、風系術式が込められた術式高速展開弾は、仰け反ったエスファハーンを飛び越え、影の端を掠って背後の幹を穿ち抜く。
その“事実”に、それぞれが呻いた。
次の瞬間、弾かれた様に三者が距離を取る。
クラウンは再び気配を消して世界に溶け、フェイ・デイレイトは足場が安定している場所へと跳躍、エスファハーンもその隣へと降り立つ。再び振り出し。しかし、クラウンにとっては状況が好転し、二人組にとっては舌打ちしたい状況になった。
『………』
呼吸も、思考も平坦に、クラウンは彼らの死角へと回る。
若干だが乱れた呼吸を整えながら、クラウンは意識を研ぎ澄ます。
自分のこの状態を知っている相手が居るのが、今一撃を躱された原因だった。フェイ・デイレイトが居なければ、今のは確実に致命傷の筈だった。相手は完全にクラウンを捉えて居らず、声が掛けられた時に初めて拙いと直感して身を引いた。知っている者が居なければ、アレで一人――エスファハーンは確実に死んでいた筈だった。
状況は拮抗した様に見える。
だが、その拮抗状態は完全ではない。元円卓にその相棒が相手では、気配抹消も完全には通用しないだろう。この拮抗状態のバランスは、カバーし合える相手が居ないだけクラウンが敗北し易く出来ている。
「おいおい、ありゃ何だよ…知ってたのか?」
「知っているさ、知っていたからこそ、貴様が前に出た時に止めたのだろうが…!」
「見抜く策は?」
「無い…前に戦場で相対した時は相手が追ってくる道を制限し、微妙な風の変化全てに警戒しただけだ。気を緩めた瞬間、あっさりと首が斬り飛ばされるぞ…!」
「チッ…構え方からして真っ当な“騎士”じゃないとは思ってたが、“暗殺者”とかの類だったか」
そこでエスファハーンは一度言葉を切る。
互いに喋りながら、しかし警戒は怠らない。
流石に一流か、と心の奥底でクラウンが呟く。
今、ここには人殺ししか居ない。それはクラウンを含めて、である。どんなに言葉を取り繕い、出来るだけ最低限の命を奪うにとどめていたとしても、結果を見ればクラウンも人殺しである。そしてここには、その人殺しの道で方向性が違う者達が揃っている。
仕方なく殺してきた者――クラウン・バースフェリア。
仕事で殺してきた者――フェイ・デイレイト。
そして恐らく、愉悦の為に殺してきた者――エスファハーン。
それぞれが一流の“命を奪う者”であり、戦闘者。己の一部分か、或いは全てを戦闘でしか確立し、確信し、証明出来ない存在。
または、代価を支払い、一流として確立した存在か。
厄介な事だ。
結論し、魔剣を強く握り直す。
クラウンとしては、常にギリギリの緊張感を味わいながら最高の相手と切り結ぶ、なんて言うバトルジャンキー思考は理解出来ない。それは神薙夜十の範疇であると考えているし、今後も一切必要無いと思っている。
退けない場合、そのギリギリの戦いを行う事は仕方がない。だが、自分からそれを求める事は絶対にしない。
クラウンの戦いは、正面からではなく側面から。
真正面に立っていたとしても、相手の不意を打って必要最低限の労力で一瞬で片をつける戦い方。
何が言いたいかと言うと、
――先制不意打ち全力攻撃を喰らえ!!
その荒々しい思考が漏れでた瞬間、世界に閃光が迸った。
そう、クラウンの立つ場所――二人の立つ幹、その裏側で!
剣を幹に突き刺し、逆さまの状態でクラウンは二人の下に居た。魔砲銃に残弾を込めながら、二人の話を聞いていたのだ。
不意打ち。
これ以上無い攻撃は二人の立っていた場所、真下から光の奔流となって炸裂する。
「ぐぅっ!?」
「くそがっ!」
足場を吹き飛ばし、二人がバランスを崩しながらそれぞれ別の方向へと吹き飛ぶ。
これ以上の好機は無い。クラウンは体勢を反転させ一瞬で幹の側面に踊り出ると、吹き飛ぶ敵を追って跳躍。追撃する相手は、フェイ・デイレイト。少なくともこの狙撃手を討ち取ってしまえば、長距離から姫を狙われる事も無い。
「チッ…! キリング・エッジィィィイイッ!!!」
「貴様はここで死んどけ…!」
突出された狙撃銃の先に光が灯る。
その光が放出される前、クラウンは反射的に左手――魔砲銃を横薙ぎにしていた。空中での無理やりな防御行動。しかし、それは確かにクラウンの心臓を守るに至る。
銃身と銃身が接触し、金属の絶叫が木霊する。
次瞬――炸裂。
悲鳴を上げて横に逸れたフェイ・デイレイトの狙撃銃。その銃口から飛び出した極光の奔流はクラウンの心臓を穿つに至らず、脇下の結界装甲を吹き飛ばすに留まった。
「ぐ、ぅ、くそっ…!」
漏れでた声は絶望。
最後の反撃のチャンスはクラウンを仕留めるには至らなかった。
クラウンは崩れた体勢から無理やり剣だけを引き戻す。空中で既に体勢を崩す様な防御行動を取ったと言うのに、その動きは相手の生命を奪う執念が篭っていた。相手をこの一手で絶命させるという、執念が。
空気を裂く斬撃。
狙いは的確に、一撃で絶命させられる急所を。一瞬後にはフェイ・デイレイトの首を刎ね飛ばす事だろう。状況が味方してくれたとも言える。だが、運はクラウンの味方では無かった用だった。
ぞわり、とクラウンの背筋を悪寒が這い登る――と同時、幻視。
その光景は背後から爆撃が的確にクラウンの頭を吹き飛ばす光景だった。
舌打ちする暇は無い。これだけ中ればこいつを殺せる、何ていう欲を出す欠片も無い。そう、隙が無い。天秤にかけられた物は、この状況の続行か、フェイ・デイレイトを討ち取った隙を狙われ自分が爆殺される状況の二つに一つ。
であるならば、取る選択肢は実質一つしかない。
クラウンは一瞬で判断を下すと、歯を食いしばり自分の終わりを直視するフェイ・デイレイトを蹴って姿勢を変える。ごふ、と呼気を漏らしながら、全く想像していなかった腹に突き刺さる衝撃に疑問符を浮かべながらクラウンから狙撃手が遠ざかり――瞬間、爆発の概念を纏った矢がクラウンの頭があった場所を通り抜ける。
目で追う真似はしない。
クラウンはそのまま剣を頭上の幹に突き立て、腕の力だけで体を持ち上げ、反転。幹を蹴って緑の中へと紛れる。
「ハハッ! 猿かよお前!! 【 炎撃:穿ち燃やす火焔の槍 】!!」
一度集中が途切れた以上、再び気配を完全に絶つにはもう一度息を整える場所が要る。気配を消せばかなりの能力を発揮出来る技能であるが、それを発動させるには一種の瞑想が必要だった。
大抵の場合、高度な技能を発動させるにはそれに見合った代償が必要である。それは魔力だったり、時間だったりするだけの話。
無制限に、簡単に大きな力を奮える何てのは、ごく一部だけだ。
「くっ…後一歩で首を吹っ飛ばせたのを…!」
『あの馬鹿笑い男厄介じゃな…! こちらが引くか押すかの選択肢を迫られる場所を突いて攻撃してきおる。先ほどの一撃、フェイ・デイレイトが死んで、剣を振り切って隙が出来たお主を狙う物じゃった。あ奴とフェイ・デイレイト、そこまで関係は深くない事の裏づけになるが――』
『裏を返せば、互いの死すら敵を殺すのに利用するって事か…!』
エスファハーンから放たれる集中砲火を掻い潜りながら、クラウンはヤヨイとの思念通話を続ける。
互いの不得意距離をカバーし合っているだけではなく、敵の命に対して執着的。それは味方が死ぬ瞬間を利用して敵を殺そうとする程にだ。
非人道的な、という感想はクラウンとヤヨイにはない。確かに正か負かで言えば明らかに負であるが、こと戦闘の場面で言えば合理的の一言に帰結する。
『全く忌々しい状況だ! あいつらの仲間意識を読み間違ったな…!』
『こっちの戦力がお主一人なのが痛手じゃな。何とかしようにも、味方の命を利益に入れてないのであれば出来る隙は限りなく少ない』
『背後に何も無いってんなら撤退してる場面なんだがねぇ…!!』
背後を抜ける火槍の熱を感じながら、クラウンは立体的に逃げ回る。
上に跳ねてはそのまま幹を駆け上り、または反転して下の幹へと逃げる。
猿、とエスファハーンは表現したが、こんな動きを猿は出来ない。クラウンが閉鎖空間内における立体戦闘技術を高い錬度で修めているからこその動きだった。だからこそ、クラウンは未だ敵の砲火を掻い潜り続けていられるとも言える。
『これ以上は逃げるのは無理か。そろそろ痺れを切らす頃だ』
視線だけを向ければ、再びフェイ・デイレイトがエスファハーンの横で銃を構えるのが見える。立ち止まった瞬間にこちらを殺す準備が出来たと言う事だろう。
であれば、これ以上砲火に晒されながら飛び回るのは得策ではない。
『ここは腹をくくるしか無いのぅ…?』
『信じてるよ、ヤヨイ』
『ふふっ…今更じゃな』
がちり、と歯を食いしばり、一際低い姿勢からクラウンは跳躍。そこで、
「【 惹かれ合う星々の領域 】!」
――月界・重域緩和式
術式を発動――と、同時クラウンは跳躍。
そのまま反転すると、クラウンは頭上にあった幹へと着地し、そのまま走り出した。
「はは、やはり面白いな貴様! 曲芸師か何かかよ!?」
「黙れエスファハーン! 来るぞ!!」
天地が逆転しているクラウンの視点から見て上方で、二人が構える。
クラウンの術式は何も重力方向を完全に逆転させている訳ではない。あくまで緩和だ。正確に言えば、クラウンに影響する重力のみを1/6――ブルースフィアと比例した月世界の重力へと変質させる術式。本来重力系術式に関して言えばクラウンは使用する事が出来ないが、“月”に関係する精霊であるヤヨイが居るからこその芸当である。
故に、クラウンが完全に重力を制御して天井を走っている様に見えるのは、そう出来る体術を持っているからに他ならない。とは言え、重力制御はあくまで緩和どまり。クラウンの技能でも六歩が天井に張り付いていられる限界だった。
「っ!」
銃撃――同時に、クラウンは刃を足元へと振るっていた。
それは確かな手ごたえと共に、クラウンの進行方向を無理矢理変える力になる。
脇を抜けていく銃弾を目で追うような真似をせず、クラウンは方向を変えた力を使い回転。最早天地逆さまの状態でやる様な芸当ではない。
視界の端で、更にエスファハーンが口元を歪めたのを捉えながら、クラウンは変則的に跳躍。迫る第二射を舞うかのような動きで回避する。
「今回は正面からかっ! 歓迎するっ!!」
「歓迎ついでに死んでくれ! 【 蛍舞い、落ちる燐は大地を焼く 】!!」
――月燐・七星塵
術式発動。ヤヨイが宿る魔剣を中心として、漏れ出た光が計七つの星を象る。
出来れば斬戟強化の“纏威”術式を使用し、一撃で足場ごと襲撃するのがベストであるが、そうも言ってられない。相手は二人、そんな大振り高威力ともなれば、出来る隙も馬鹿には出来ない。先ず間違い無く一人に集中した瞬間、命を狩り取られる事だろう。
標的はエスファハーン。
しかし刃を引き絞った状態のまま七つの星が一足先に対象を襲う。舌打ちはフェイ・デイレイトから。エスファハーンは迎え撃つ体勢を崩さないままなのに対し、彼は突き出していた銃を引くと星々が着弾する前に一足飛びに距離を開ける。
隙とも言えない微妙な間。
これでは二合もエスファハーンと打ち合う事も出来ないだろう。二合目を打ち合う前に、フェイ・デイレイトは体勢を戻し弾丸を撃ち込んでくる筈だ。
だったら一刀で決着させられる秘策があるのか?
答えは――否。
一刀で終わる、何て考えが元よりクラウンの頭の中には存在しないだけだ。この攻撃は必殺の為の物ではなく、ただ次へと繋いで行く為の攻撃。
「シッ!!」
「ハッハァ!!」
振り下ろされた漆黒の剣閃は激しい金属音と共にエスファハーンの黒い刃によって遮られる。クラウンが刃の向こうに見たのはエスファハーンの瞳。愉悦の込められた瞳だ。
神薙とは方向性の違う瞳の色。神薙は強者と戦う事に意味を見出している。しかし、今目の前にある瞳は違う。
弱者も強者も関係無い。ただ、誰かを、何かを殺す事を目的としている瞳だ。
「っ!」
斬戟の接触を利用し、クラウンは反動で上体を反らす。
そこを二つの攻撃が通過した。エスファハーンの放った白い剣の一撃と、フェイ・デイレイトの放った銃弾だ。全く以って見事の一言に尽きる。一切誤射する事無く弾丸を撃ち出すフェイ・デイレイトもそうなら、その弾丸が通る道を絶妙なタイミングで作り出すエスファハーンもそうだった。確かにこの二人は、完成された連携を発揮している。
身体を反らしながら、クラウンは更に二つの動作を行う。上半身を捻り左手を素早く足場へと伸ばすと言う動作と、右足を跳ね上げると言う動作。左手は言わずもがな体勢をいち早く立て直し逃げる為の物。そして右足は、
「足刀だっ!」
「っ!」
「チッ…!」
フェイ・デイレイトの言葉にエスファハーンが反射的に行動。先程と同じように、一歩下がった行動は致命傷を避けるに一役買う。
接近戦を第三者として観測出来る奴が居るのは面倒だな…!
毒づきながら電光石火の如く繰り出された一撃は、本来エスファハーンの顎を打ち抜く筈だったが一歩届かない。鼻先を抜けたつま先は、彼の前髪を巻き上げるだけに留まった。
――ガチャンッ
少し離れた位置から響く音に、突発的なチャンスが巡って来た事を悟る。
弾切れ。再装填時間の発生だ。フェイ・デイレイトが行うのであれば、想定する弾層交換時間、並びに再照準の為の時間を合わせたとして凡そ2秒弱。もう一つの彼の武装である魔弓に持ち替えるにはもっとかかる。
持ち替えてくれた方が連続攻撃の間隔が長くなって逆に戦い易いんだがねっ!
発生した僅かな隙。
それを突いてクラウンは回避行動を止め、そのまま身体を捻る動作を攻撃へと繋げる。
斬戟では遅い。出来るだけ最短で、息の根を止めれる手を。
「いい加減死にやがれ!!」
一気に体勢を起こすと同時、右足を前に――踏み込み、震脚。
「こっ…!?」
こいつっ、そんな叫びはエスファハーンの喉奥に押し込まれる。
繰り出された攻撃は、何かを掴もうとする――手。狙う先は、たった今声を封じた喉だ。
この瞬間に、助けは無い。
フェイ・デイレイトはリロードの途中。手助けをする仲間は他におらず、そしてこの世界に神は不在。祈りは届かない。であれば、クラウンの攻撃から身を守る術は最早己の技量一つしかない。
エスファハーンは体勢ごとクラウンが繰り出す魔手より逃れる為、倒れ込む様に上体を反らすが、一歩死から遠のいたのみ。クラウンの一撃は狙いを変え、エスファハーンの左肋骨に伸ばしていた。
クラウンの手、そこに込められる握力は通常の状態でも凡そ150Kg。そこに術式の加速がかかるなら、握力は単純に200Kgを超える。それは過去の遺物。ありとあらゆる魔技を継承された過去の遺物である。
ボキリ、と両者の脳髄にその音は響く。
クラウンは手応えとして、エスファハーンは激痛として。苦痛に一瞬だけ顔を歪めるエスファハーンを見ながら、更なる追撃を仕掛ける。折れた肋骨を押し込み、肺に突き刺すのだ。如何に治癒力を高めている事象操作騎士と言えども、呼吸器官の一部に傷を負ってしまえば動きを止めざるをえない。
そこまで考えた瞬間、脳髄にイメージが叩き付けられる。
銃弾が頭と胸を貫くのを幻視。
時間切れか、と胸中で呟きながら、瞬間的にクラウンは指先――へし折った骨と接触している中指に力を込めながら身体を回避の体勢に移行する。反射的な行動は相手に致命傷を与えるには遠い、がしかし――離れる瞬間に見たエスファハーンの顔は、今度こそ苦悶の表情を浮かべている。
だが、甘い。刺さりが浅かった。
横へとクラウンが跳躍し、身体の端を弾丸が掠めて行く。真横に流れる視界の中、エスファハーンはたたらを踏みながら倒れまいと白い剣を幹に突き刺し身体を支えている。膝を折らない、と言う事は致命傷ではないと瞬時に判断し、クラウンは再びフェイ・デイレイトの放つ魔弾から逃れる為に跳躍。背後を殺意が駆け抜けていくのを感じながら、再び太い木の幹の裏へと姿を隠す。
「ぐ、つっ、はぁっ――」
「おいエスファハーン!」
「――っはぁっ!! あぁ、畜生クソッタレめ!! 楽しいじゃないか!」
「エスファハーン! 冷静になれ!!」
「あぁ、最高に俺は冷静だ! 久しぶりに緊張感を持って戦える相手が目の前に居る、居やがるんだ! 冷静に、命の削りあいを、相手の一手一手を読む戦いを行わないと失礼だろうが!!」
「それの何処が冷静だ!」
くそ、これだから…そんな呟きを聞きながら、クラウンは呼吸を今一度落ち着けていた。
致命傷を与える様な隙は流石に出来ないが、蓄積ダメージは確かに与える事が出来ている。このまま行けば或いは、
『しかし、浅い。手札を知られている上に、空気の乱れを読めるあ奴が居るのが痛いところじゃ』
『フェイ・デイレイトか。だが、こちらの攻撃を当てるにはどうしてもエスファハーンとか呼ばれてた奴を退かせないと、届かない。やはり一か八か、極級術式を使って切り込むか?』
『――妾はやはりその案は勧めん。使ってしまえばクラウン、流石にもう大きな術式を使うだけの魔力は無くなるんじゃ。しくじればもう巻き返す事は不可能になる』
『そうだな。さて、どうするか?』
胸中で呟くと同時、背後――幹の向こうで気配の変化。
感じるのは悪寒。経験則から来る、嫌な予感とも言うべき空気が漂っている。
「二人でやれば十分だと思っていたが、予想外だった! くっく、そう、本当に―――」
幹の端から背後を覗き、
「なっ…」
驚愕。
「――面白いじゃないか!」
「おいっ! エスファハーン! その機能はっ」
「非常事態だ非常事態っ。あぁ、そうだ! だから使ってでも完全にぶち殺すんだよっ!!」
「まっ」
待て、と言う叫びはエスファハーンの叫びに飲まれる。
「【 多重人工精霊起動 】!!」
馬鹿な、と咄嗟に口から出た言葉は否定。
しかし、眼に映る光景はその言葉を否定し、戦場で培った思考はいち早く適応し考えを巡らせている。
魔者、或いは人工精霊の同時多重接続。
一般的にも広く知られている事ではあるが、誓約者はリンク状態の時に更に他の魔者や人工精霊とリンク状態を作り上げる事が出来ない。これは互いの存在に“ズレ”がある事が原因であり、そのズレによって形成される互いのリンクに干渉し、優先権を奪い合い、消失してしまう為である。この話は魔者との契約の場面にも存在し、人工精霊を扱っていたりすると魔者がその“臭い”を嫌がり召還する事が出来ないという物がある。また、魔者と契約している場合は、その存在の力に流されてしまい、人工精霊を扱う事が出来ないのだ。
しかし、クラウンの視線の先では、その一般常識を否定するような光景が広がっていた。
人工精霊の二重接続。
人工精霊であっても、先の常識は当てはまる。今まであらゆる術式学者が製作環境を整えて作っても、その同時接続と言う分野に関しては失敗しかしてこなかったのである。
それが、今まさに、“脅威”として実現していた。
『…ヤヨイ、考えられる多重接続の利点って何だったか覚えてるか?』
『シン・グラリティや異種の中でも天才にしか使えないと言われる術式の多重起動や、術式展開速度の向上じゃったかのぅ…』
『…勝ちは無くても最悪引き分け狙いだったが、それも怪しくなったな』
『あー…うむ、そうじゃな』
余りにも予想外な事態に眩暈を覚えそうになる。
さっきまで近接主体だった存在が、今ではオールレンジの超高火力連射機能付き砲台の性能まで手に入れたに等しい。しかもそれが高速で動き回る力も持っているのだから、本当に相手にしたくない。
先程までのエスファハーン単体戦闘能力はクラウンよりも1ランク下だったのが、今ではクラウンと同等か若干上回っていると言う状況。しかもそれに加えて狙撃手は未だ存在している。
『最善手はさっさと撤退する事じゃが…』
『出来るなら元色彩円卓に増援が加わったと言う時点で尻尾巻いて逃げてるさね』
『全くじゃな』
ため息を二人同時に吐き出す。
潮時だった。
これ以上の戦闘は自分の命を高確率で失いかねない。
であれば、どうするのか? 敵は防ぎきれるラインを超える力を手に入れ、暴虐を奮おうと狙っている。この状態で戦いを挑むのは只の自殺と変わらない。
『…この場所で狙わせないのが最終目標さ。だったらやる事は一つだ』
『そうじゃな。さて、気を抜けぬ時間の始まりじゃぞ? しくじるなよ?』
『当然』
胸中で告げ、魔砲銃と魔剣を構え、
「さぁ、戦闘開始だキリング・エッジィィィイイイイッ!! 出てこなければその幹ごと吹き飛ばすだけだぜぇぇぇえええっ!? 【 短縮:炎熱を持ち、雷刃となり世界を断て 】!! 死ねぇえええっ!」
――煉刃・渦粛雷珠弾
『炙り出す気ないだろうが!? 消し炭になるわ!!』
胸中で絶叫しながらクラウンは幹の影から咄嗟に逃げ出した。
瞬間、クラウンが今まで居た幹を光の弾丸が炸裂し、爆散。
激しい炸裂音と共に木の幹は原型すら留めず吹き飛び、着弾と同時に放出された熱線は周囲空間に拡散し、燃やすと言う過程を吹き飛ばして炭化現象を引き起こしていた。
その威力に頬が引き攣りそうになる。
恐らくは電磁制御によって指向性を持たせた超高温のプラズマによる爆撃。人間一人程度は掠っただけでも瞬間的に消し炭になるような術式だ。
対象が単体で上級術式という枠の中で絞れば、該当する様な術式が存在するが――それはあんな簡略な起動詞で発動出来る物ではない。
今のが上級術式だと仮定して、発動時間が極端に短いと言う事はそれだけで脅威である。気が引ける状況を前に、クラウンは目を細め舌打ちを一つしながら魔砲銃を構えた。狙う先は、
「させるか!」
発射、同時に炸裂音。
魔砲銃から放たれた白光は、気付いたフェイ・デイレイトによって撃ち落とされる。これ程の距離で剣ではなく、銃弾によって攻撃を吹き飛ばすと言う腕前。流石としか言いようが無い。
本来エスファハーンを狙った攻撃は途中の空間で弾け、四方八方に飛び散り爆音を奏でる。周囲からの爆風が吹き荒れる中、エスファハーンは白と黒の不気味に輝く二本の剣を掲げ、詠唱。
「【 二重励起:突風は吹き荒れ、爆炎は世界を舐める 】!」
――中級術式・空槍・狙射風韻刃
――中級術式・炎熱・延焼夷尽火
続けざまに発動された術式は二つ――二つを、同じ人物が起動していると言う事実。
――本当に並列起動を行っている、か…。
頭を切り替える。ここからは拮抗を狙う戦いではなく、狩られる立場として命を失わない為の戦いをしなければならないのだと。せめて一矢報いて敗走しなければならないと。
『ヤヨイ、極級術式は無しだ。荒らして逃げる』
『…成る程。うむ、それしか無いのぅ』
簡潔に意思を伝えながら、エスファハーンの放つ暴虐を避けようと跳躍。
瞬間、殺意が世界を舐めあげた。
彼の前から放たれたのは真空の刃の群れと、魔力を擬似燃料として粘着質に燃え盛るナパームの火炎放射である。真空の刃はともかく、ナパーム火炎に触れてしまえば消火する事は容易ではない。燃料と化した魔力が尽きるまで、そのまま燃え続けるだけだ。
「…っ!」
脇を真空の刃が通り過ぎ、肩を刃が掠めて鮮血が舞い散る。一瞬痛みに表情を歪めるが、戦闘続行に問題は無いと思考を切り替え次の動作へ移行。魔剣を横に薙ぎ、迫るナパームの一撃を斬り払う事で回避。飛び散った魔力残滓が結界装甲の端に飛び散り燃え上がるが、幸いにも付着した粘質魔力炎は小さい。
魔剣は迫る炎を斬り払った事で燃え上がるが、無視。こちらはクラウン自身にも、また魔剣の中に存在するヤヨイにもダメージは無い。
『おぉ熱いのぅ…ふむ――頃合じゃな。敗走の準備と洒落込むかのぅ。あわよくば巻き込まれて死んでくれるかもしれぬぞ?』
『そんな事全然思ってないくせに言うもんじゃないぜ、ヤヨイさんよ』
さて、と小さく呟き、炎を纏いながらクラウンは先程のナパーム火炎によって燃え上がる木々の中を跳ね回る。敵の目は離れない。だが、それももう終わりだ。
「――【 月の荒野は果て無く 】」
「ははっ! はははははははっ!! さぁまだまだ行くぜ! 燃え尽きて死ねえっ!!」
「チッ…少しは理性を働かせろクソ…!」
「【 深寂にして、儚く 】――」
紡ぎ出される起動詞は広範囲殲滅術式のソレである。
擬似流星雨を降らせ、周囲空間を一気に吹き飛ばす殺戮の為の術式だ。
しかし、この術式は広い範囲の有象無象を消し飛ばすと言う側面が強く、単体の強者に向かって使うには効率が良いとは言えない。また、高い殺傷性を持つ魔弾が降り注ぐとは居え、高位の事象操作騎士なら自分にだけ迫る物を冷静に撃ち落とす事が出来れば無傷で逃れる事も可能だ。
であれば、何故この場面で使うのか?
答えは――場の破壊である。
目的は狙撃を阻止すると言う事。であれば、狙撃手を抹殺する以外にもう一つ手段はある。つまりは、絶好の狙撃ポイントの破壊――ここ森林地帯を見渡せるこの大樹林を吹き飛ばしてしまえば、相手は狙撃と言う手段を失うのだ。
「【 生者無き 】」
「っ!? あいつ何を…!?」
「おいおいキリング・エッジィィイ! そっちには空しか無ぇぜぇえっ!?」
幹を蹴り、宙へと舞う。
飛び立つ先は空。このまま重力落下に身を任せれば只の敗走。しかし、
「一矢報いる、ってな――【 否定の世界 】!!」
「なっ…!? クソ…逃がすかぁぁぁあああっ!」
「―――!? フハッ! ハハハハッ! あっさりと逃げるんだなお前はよぅっ! 最後の最後まで予想外な男だぜ、おい!!」
重力に従い身体が落下する。
約100メートルの落下は直ぐに終了する事だろう。
風を浴びながら視線を背後に向ければ、展開される天蓋の星々を生み出す術式と、
「っ!!」
「死ね! キリング・エッジ!!」
――フェイ・デイレイトが背中を狙う光景!
不安定な状態から魔砲銃のトリガーを咄嗟に引くが、狙いが甘い。
放たれた弾丸はフェイ・デイレイトの光条を吹き飛ばす事も、本人を掠める事すら無く天蓋の術式を透過して空へと抜けた。
舌打ち、何てする暇は無く――
「ぐっ!?」
『クラウン!!』
身体を弾丸が貫く感覚を得ながらクラウンは眼下の森へと墜ちる。
木々の幕が空を隠す前にクラウンが見た光景は、大樹を星々が吹き飛ばし、轟音を立てながら崩れ落ちる光景だった。
#6-end
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