広大な台地、世界の中央とされる大陸―ノスティード
――その東のある大陸
約数千年の時が緑を育む大陸―グラストール
その奥にある遺跡の中から物語りは始まる

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-1 The girl of an inheritance-遺産の少女 ―――





























#1 名を持たぬ少女T



































「ふ〜ん、ふん、ふん、ふ〜ん…」

グラストールの奥に在る未攻略遺跡
その遺跡の中を一つの曲が鼻歌になり、流れて行く
曲名は『夜空へ祈る』
古代遺跡の上層階を歩く彼が、ここ最近で聴いたバラードナンバーだ
彼は鼻歌を響かせ、黒いコートに手を突っ込み練り歩く
――左腰には純白の剣
――右腰には黒い大型の魔道銃
特に変哲の無い回廊を、彼は歩き回っていた

「―――…さて…と」

カツン、と音を立てて急停止
そしてその場で上を下を、さらに左右を確認して再び前を確認
行き止まりでこんな事をやるのは可笑しな事かもしれない
だが、これでいい

「い、き、ど、ま、り…とっ」

そんな事を言いながら、懐から出したメモ帳
『激安!マッピングブック!!』と書かれた物に簡単な地図と、×印を描いて行く
そして再びそれを懐にしまうと今来た道を引き返して行く
そしてまた、調子外れの鼻歌
そう、彼――『相沢祐一』は冒険者だった

冒険者―――

その言葉はかなり古い
しかし、目立つ言葉になったのはここ最近の事だった
世界を歩く者――冒険者
それは一人の人物が確立させた言葉だと云っても過言では無い程のものになった
数十年前、当時遺跡発掘がメジャーでは無かった頃
冒険者ワイス・ラクターにより一つの《遺産(ロスト)》が持ち帰られた
――それが魔道銃
古代において使用されていた兵器の一端だった
彼はそれを解析し、量産をはかる
そうして、今の時代すっかり誰もが大抵は持つ様になった魔道銃の歴史は始まったのだ
それを期に、今まで賞金稼ぎだった者達やギルドでの仕事を請け負う者達は彼の様な成功を求めて、今まで立ち入る事の無かった地域へと足を踏み込む様になる

段々と調べられて行く異大陸
踏み込まれる古代遺跡

未開だった地域は人の手が加わり、段々とその領域を広げていく
それは勢いを増し、世界中に広がった
世を潤す遺産――
旧時代の遺物を発見した者は、その殆どが大富豪となる
その為、近年ではハンターズギルドの中にも攻略遺跡の紹介や未開遺跡の情報を扱う部署が出来た程になったのだ

だが、全ての者が大金の為に冒険者になる、というのは間違いだ
それはここを歩く祐一みたいな人種が居るからだ

彼らは未だ発見されない“未知”を、“古代の神秘”を追い求めている
彼等にとって大金は行動の邪魔以外の何者でもない
必要最低限のお金があればそれでいいのだ
ギルドのメンバーには可笑しいと云われるが彼等は進む
夢を捜して―――











「はー…歩いたなぁ…」

どっかと、遺跡の通路に腰を下ろし祐一は息を吐き出し懐からメモ帳を取り出した
そして今まで溜め込んだここの遺跡の情報を見直す

「……地上八階までの建築物、何処にも窓は無いし…一体何の為の場所だ? ここは…」

頭を掻きながら祐一は思案する
建物に窓が無いという事は、人が住む事を前提としてはいないという事
少なからず人は、外の景色を眺める事で神経を癒し、時間の感覚を調整している
それが無いという事は―――

「外からの侵入を恐れていたか、もしくは―――」

“何か”を外に出したくなかった?

そこまで考えて、祐一は片手で頭を掻くとバタリと金属製の通路に転がる

「あー…そうだとしても上の階にはこれといって珍しい施設があった訳じゃないしなぁ…分からん…」

そしてうつ伏せに転がるともう一度メモ帳を見る
今まで殆ど人が立ち入らなかったグラストール大陸
その森林地帯の奥にあった地上八階の建造物
通路は綺麗で、今まで誰も入った事が無いのを示している

古代の建造物は、石造りの遺跡とは違い綺麗な事が多い
それは建物に使用されている金属がそうなのか、劣化が進みにくいのだ
祐一は遺跡に踏み込む時、新しい靴跡が無いかチェックしている
だが、そこは綺麗なままの床
かなりの時間放置されていたのを裏付けている

「あ゛ー…折角かなり奥まで踏み込んだのになー…、これだったら今メジャーな浮遊都市群にでも行けば良かったか?」

愚痴を垂れながら祐一はメモ帳を見直す
そこら辺はやはりプロ、ヒントを探し出そうと目を走らせ調べる

「…………」

二つ気付いた事があった
一つ目は一階だけ他の階と通路の造りが違うという事
そして二つ目…

「そう言えば…電力を管理する為の制御室を見てない…」

一階から八階を見回ったが、それらしい物は何一つ見ていない
こういった旧時代、今とは違う、もっと進歩した技術を誇るこの旧時代の建物において、電力の供給システムが無ければいけない事を祐一は知っていた

大気エーテル変換と日光等による生活電力の供給
《遺産》が眠るこういった旧時代の建造物には無くてはならないシステムである
だが、全てを見回ってもそれらは発見する事が出来なかった

「ふむ…上もあれば下もあるってか?」

祐一はニヤリと笑うと立ち上がり、一階の構造を見直す
二階から八階は大体大きな変化が無い通路の造りをしているが、一階だけは違う

円を描いた通路

見た所中に入れる場所は無い、しかし二階以上から分かる様に吹き抜けでは無い
ただの建造上の土台…という訳でも無いだろう
旧時代の建造物は、かなり外れた物が多い
こんな土台が無くても立つ事は知っている

「なら…入り口の割り出しだな」

そう言うと祐一は歩き出し、円を描く通路に出て歩き出す
右手は強めに壁へ当ててある

「んー…構造状ではここら辺…に…」

そしてある一角で、祐一はそこに手を当て、目を凝らし壁を調べる

「―――――っ…あった…全く…まるで融合してるみたいに隠し扉とかあるからな…普通の遺跡みたくもうちょっと分かり易くてもいいのに…」

ぶつぶつ文句を垂れながら祐一は何かスイッチが無いか調べる
前を、上を、下を調べ、そして最後に振り返って向かいの壁を調べる

「…何で逆側に、“差込口”があるんだよ…」

その光景に辟易しながら、祐一は腰から魔道銃を抜くと“差込口”に押し付けてグリップを強く握り、構えた

「悪いな、カード持ってないんだ」

ドンッドンッドンッ!!

最後にニヤリと笑い、祐一は三発の魔法弾を撃ち込み破壊
それと同時に背後から「プシュッ…」という音を立て、隠し扉が一度引っ込むと横にスライドし暗い空間への口を開ける

「―――さて、行くか」

祐一は眼の前の空間に悠然と入っていった











――異界、という言葉がある

祐一が入った部屋から繋がる地下への階段を下りると、そこはまさに異界だった

――未だ輝く電灯
――広く長い通路
そして―――目が痛くなる様な、病的なほど白い白い空間

「――――――」

言葉を失うとはこういう事だ
何か面白い物があると考える以前に、頭は危険だと訴える
祐一はその思考を無理矢理ねじ伏せると前に進む

未だ電力が供給されている施設
少なくとも旧時代が崩壊したのは二千年前だとされている
では、最低でもこの施設は二千年も電力が通っている事になる
未だ働く電力供給システムにも驚くが、なにより完全な状態の旧時代の施設に祐一は驚いていた

「………」

壁に書いてある失われた旧言語(ロストワード)
強化ガラスの向こうに覗ける、打ち捨てられた書類とディスクの数々

祐一にとって分からない物ばかりだが、そのどれもが貴重である事は何となくだが理解した
きっと、ここにある物を持ち帰っただけで、専門の研究者に引き渡せばかなりの額で取引が出来るだろう
だが祐一にとって金は普段貧相な暮らしをしない程度でいいと思っている物
今は後回しにして、祐一は白い通路を歩く

「ここは―――教室?」

祐一は一つの部屋に入ると中を見渡す
そこには数人掛けの椅子と、それに合わせた机
そしてその上に在るのはディスプレイ

「これって確か映像を映す遺産だよな…すげぇ…始めて見た…」

未だ街には出回らない“調査中”の遺産だったと思う
カチャカチャと弄り回す祐一
途中で画面が映ったりしたが、何か映している訳でもない
祐一は弄り疲れると、教室の様な部屋を後にする

「俺以外の冒険者が見たら狂喜乱舞しそうだよな、ここにあるのって…」

自分の感性が何処かずれている事には気付いている
それに対して再び自分で確認すると笑えて来る
祐一は一つ小さく笑うと、大きな隔壁の前で歩を止めた
でかい…
通路も広くて高いが、今までの部屋は普通サイズの扉の大きさだった
祐一はそこで隔壁の横についている小さな扉を発見し中を覗く

「さて…、それじゃここ…は…?」

打ち捨てられた機械類
損傷も無い物が転がってはいるが、ここは十中八九あれだろう

「廃棄場?」

中に入ると、そこら辺にある物を見て行く
流石に施設とは違い、ここに在る物は朽ちている物が多い
そんな中、一つそれなりに大きい物を発見する

「これって、もしかして遺産の―――機械仕掛けの殺戮者(キリングドール)じゃねぇか…物騒な物まであるな…」

光の灯らないモノアイを確認してから、祐一は手を触れ調べ始める

『 機械仕掛けの殺戮者(キリングドール) 』
侵入者の抹殺等に使われるセキュリティシステムの一環
大抵の機械仕掛けの殺戮者(キリングドール)が実弾を装備し、侵入者を発見次第抹殺に取り掛かる事が多い
ハッキリ言って上位の魔物と遜色が無い程性質が悪い相手でもある
しかし―――

「何の魔術効果も無い弾丸は人間には効くけど、魔物には効かないんだよなぁ…」

はぁ、と溜息を吐くと祐一は腰を上げる
機械仕掛けの殺戮者(キリングドール)は強いが、魔物には酷く弱い
あくまで対人間用の兵器なのだ
だからなのか、人間は今まで術式を編み込んだ武器で戦って来た
そして今に至り、人が制御する事によって扱える魔道銃が普及したのだ
昔の人間も苦労する…そんな事を考えながら祐一は奥へ奥へと歩いて行く

「ん? あれは――――」

歩いていると一箇所だけ明るい所を発見した
明るい、暖かい光だ
思わず誘蛾灯を思い出し、自分の貧相な感性に笑いを上げる―――しかし―――

「―――え…これは…」

灯の中心、その中で祐一は一つの“入れ物”を発見した

人が―――入った―――

顔だけが見れる直立したカプセル
中で眠る少女は―――美しかった―――

――白銀の髪
――透き通る肌

顔だけしか見えない、しかし――
見惚れるには十分だった

祐一はハッとなり慌てて自我を取り戻す
そこで頭を振って、一息

「は――――――」

深く深く呼吸を繰り返し、そして再びカプセルを除く
夢じゃ―――ない、みたいだ…
何故かそこで安心すると、ホッと胸を撫で下ろす

「だけど…何で人が…」

今まで見つかった《遺産(ロスト)》の中に、流石に人は居ない
どれもが武器であったり、道具であったり、本だったりしたのだ
それに、ここから見る限り未だ生きている様な気がする
とても不思議な気分だ、だけど―――悪くは無い

「旧時代の、人…か…」

眠る彼女の顔を眺めて祐一は思う
過去はどんな世界だったのだろうか?、と
だが―――

「何でこんな所で――――」

続きは言わない、生きてるのか死んでいるのか分からないから
だが、その疑問は的を射ている
今は伝わらない旧時代、大崩壊前の世界
多分――その頃から存在する少女

どくんっ

一人だけ――この場所に存在している
取り残された…?
そうだとしたら、何て――――

「残酷…」

決め付けでもいい
その考えに至った瞬間、手はカプセルに伸びていた
無機質な手触り
黒い光沢の表面を、さする様に探っていく

カチッ…

何かに触れた
よく見ると、そこにはロストワードで何かが書かれている
読めない――が、祐一はある種の感でそれが開閉スイッチだと確信する
そして、手に、指先に、力を――込めた

ブシュゥーーーーッ!!

低温の霧が、スイッチを押したと同時に吐き出され
少女の身体に温もりが還って行くのが肌の色で見て分かる
そして粗方霧が出尽くすと、ガコンという音を立ててカプセルは開いた

「!!」

しかし、開いた瞬間にゆらりと少女の体勢が揺れ
祐一に向け倒れ込んで来た

「っ…」

倒れ込んで来た少女を受け止めると、祐一は足を取られそのまま地面に倒れ込む

そう―――

祐一は

“全裸”の少女に、押し倒されたのだ

「どあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」











to next…

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