そこは世界の牢獄
番人は最後の時まで宝を守る
騎士と姫は、それに立ち向かう

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-1 The girl of an inheritance-遺産の少女 ―――





























#4 灼陽の騎士



































「一緒に行こうか?」
「えっ?」

どれだけ抱き締めていたのか
一分か、十分か、それとも一時間か
それは分からないけど、長い事は確かだった
既に泣き止み、ただしがみ付いている少女に、祐一は思いを伝える

「だから、外…見たいんだろ? それだったら、俺と行かないか?」
「――――――」

少女がハッとなって祐一から離れる
その表情は驚きに染まっていた

「どうする?」

祐一は優しく少女に話しかける

「私は…何も知りません…迷惑をかけます…」

少女が俯き、祐一の問いに返答する
祐一はそれに苦笑すると少女の頭を撫でる

「だったら教えてやるよ、最初は皆、何も知らない物だからな」
「私は…兵器ですよ…それでも…いいんですか?」

祐一は予想していた言葉に、大きなリアクション付きで溜息を吐き出す
やれやれ、このお嬢さんは…といった感じだ
少女はその動作を見て、眉を少しだけ険しくした

「はぁ…いいか? 悪いけど俺の前に居るのは、ただの女の子だよ。 兵器? 馬鹿な事を云っちゃいけない。 どんなに戦闘技術が優れていようと、どんなに魔法技術が優秀だとしても、だ…君は、涙を流す事が出来る…これは使い古された言葉だけど――完全な兵器になる奴はそんな――純粋な涙を流す事は出来ない。 そんなに自分の事で苦しんだりしない。 確かに俺がここから連れ出して、魔物と戦う時…君は残酷になるのかもしれない。 だけども、それは俺だって同じだ…その姿を見られたくないとも思う。 だから、か…」

そこで一度だけ祐一は宙を見て、息を吐き出し、少女の――
そのスカイブルーの瞳、その双眸に焦点を合わせる

「荒んで行く心を見過ごせない…悲しむ心を一人に出来ない…傷付き、磨り減る心と身体を見過ごせないんだ…」

少女の視線は真剣に祐一の眼を射抜く
それと同時に、少女の瞳には動揺が浮かんでいる

生まれて初めて、純粋に優しく接してくれる人
研究対象として、丁重に接して来るモノとは違う
だから堪らなく嬉しい
その言葉が魂を揺さぶるほどに、心の奥に響いてくる
だから、こちらも確認しなければならない
もう一度、確認を

「いいんですか?」
「あぁ」
「私は、今の時代を知りません」
「俺が教えるって」
「迷惑を掛けるかも知れません」
「ドンと来い」

「私は、祐一さんと、共に居て…いいんですか?」

最後の質問
少女の、決意の時
祐一の、決意の確認の時

「俺は、それを受け入れた上で、来て欲しいんだ」

ぽろぽろと、涙が流れる
一滴、二滴、止め処なく涙は流れ落ちる
唯一つ今までの涙と違うのは―――暖かかった事











「落ち着いたか?」
「はい…」

起きてから何度泣いたか
少女はそんな事を考えながら、祐一の胸に埋めていた顔を離す
見上げると祐一の顔が、少し困った様な表情をしていた
多分、きっと、向こうも同じ事を考えているに違いない
どうやら眠っている間に自分は随分と涙もろくなってしまったらしい
だけど、そんな感情があるという思いは、昔とは違いとても嬉しく思えた

「さて、それじゃ改めて歴史を調べよう…色々と知っておきたいからな」
「そうですね、では続きの項目からお願いします」

少女は目尻に残る涙を拭うと再びディスプレイに向き合った





―――星歴 2093年―――

世界の二割が魔王・グラウシアスの軍に占領
発生源であるミナル大陸は、完全に魔の大陸と化した


―――星歴 2095年―――

外見年齢を約十五歳にまで成長させた最初の【 対魔・殺戮天使(バトル・マリア) 】―――No・ゼロを実戦投入
一対多の絶望的戦争は被害一人(No・ゼロ)に対し一千の魔物を排除する事に成功
より完璧な【 対魔・殺戮天使(バトル・マリア) 】の研究が始まる



―――星歴 2095年―――

魔王の軍が侵攻を停滞、一時的な停戦状態となる
(【 対魔・殺戮天使(バトル・マリア) 】に危機感を抱いたと思われる)







「成長速度を弄る技術か…胸糞悪いな…完全に物扱いじゃないか…」
「私の…私達のお姉さん…これでは余りにも不憫です…」

祐一が少女の肩に手を置く
その手を握ると、少女は“終わり”を知る為再び視線を戻す





―――星歴 2097年―――

【 第三次降魔戦争 】
魔王は軍の侵攻を再開
停滞していたハウルス平原に陣を張っていた大陸中央軍を撃破し、都市ハウルスを占領した


―――星歴 2100年―――

完成型の【 対魔・殺戮天使(バトル・マリア) 】が誕生
完成型No.003300〜003399、その百体の教育が始まった







「2100年…私達が誕生した年です」
(何年前だかも分からない誕生日…か)

ディスプレイに向けられた瞳は、何を視ているんだろうか?
今とは何もかもが違う時代に生まれ、そして育った彼女は、そこに何を視ているのか?
祐一にそれは分からない
分かって上げられないそれが、ただ悲しかった





―――星歴 2105年―――

世界の三割が魔王の軍勢の手に渡る


―――星歴 2112年―――

【 対魔・殺戮天使(バトル・マリア) 】の教育が終了
成長促進因子の通常化を確認、外見年齢約二十前後で全ての天使が成長を停止した
天使は成長促進の因子が停止した為、新陳代謝を繰り返すのみとなる
最低でも実年齢が四十を越えるまでは老化現象が著しく遅くなる事が判明している
生物学の権威リース博士は、プロジェクトの副産物として降魔戦争終結後、老化現象の遅延現象を学会に発表する事を上層部に申告した







「ちょっと待て…今何歳だ?」
「へ?」

真剣にディスプレイを覗き込んでいた少女に祐一は声をかける
それは、今機械音声に告げられた“歴史”を確認する為だ

「えっと…最低で二千歳じゃ…」
「そうじゃなくて…起きてた時の時間ではだ」
「?、一応外見年齢は20歳に設定されていますが、私が生きた時間は教育終了後一年ほど続きましたから…13歳でしょうか?」

眼の前の少女が祐一に告げる
――――約2000歳
――――20歳
――――13歳
もう訳分かんねぇよ…

「何だか頭痛くなってきた…」
「大丈夫ですか?」
「あぁ…一日で一生で体験する不思議体験を幾つもこなしたせいだ…きっと俺はこの後一生、余程の事が無い限り驚かなくなるだろう…」
「?…肝が据わったという事ですか?」
「そうだな…どんなもんでも来いって感じだ」

少女は未だ空中にクエスチョンマークを浮かべているが、祐一が何でもないからと告げると少し訝しく思いながらも視線を元に戻した





―――星歴 2113年―――

退魔戦闘者、中央軍の前に突如白銀の髪の女性達が出現
白銀の女性達は前線に立ち、五割まで奪われた領域を四割奪還するのに成功した
この時、人々は口々に「天使が舞い降りた」と発言している
奇しくもこの日は12月25日、聖者誕生の日である


――以下・歴史記録待機――







「……ここで歴史は途切れています…」
「この後に何かあった…という訳か…」

ふぅ…と、祐一は溜息を吐き出し背筋を伸ばす
旧時代の歴史、本来では知る事が出来ない様な事を知ってしまった
そこに後悔も優越も無い、ただ胸のつっかえが取れた感じがするだけ
もう少し少女に関する事があって欲しかったが、贅沢は良くないだろう
結局の処、少女が生きているのは過去ではなく現在なのだ、そして生きていくのは未来
それよりも今考える事は少女の名前
色々あって忘れる所だったが、それが一番の重要事項だ
これにはプライドが掛かっている、負ける訳にはいかなかった
だが、祐一が思考の海に入ろうとした時、少女は祐一の服を引っ張る

「ん?」
「祐一さん、記録更新日が2114年の物を発見しました。 これは―――映像データですね…見ますか?」

少し逡巡してから祐一は頷く
もしかしたら『 旧時代の幕切れ(ラグナロク) 』のヒントがあるかもしれないという興味だけは失っていなかった
そしてそれは、少女が居た時代の最期の歴史
ディスプレイにデータが再生される

「………」
「………」

画面が切り替わり、映像用にフレームが出る
その中に、一人の人物が映し出された

「―――この人は…」
「?、知ってるのか?」
「はい…この人は―――」

そして映像が動き出す

『ふぅ…私はここのラボで働いていた科学者・スタナル、これからの歴史で―――汚名を着る事を覚悟して、ここに記録を残す』

「―――スタナル先生…私達に学問を教えてくれた人です…」
「そうか…だけど…何でこんな疲れた表情を…?」

それに“汚名”……?

『―――バトル・マリア九十九名は2114年、1月5日に魔王との戦闘に突入した。 その後、破壊の波は世界中に飛び火…潜在魔力が低い者は魔力の衝突の際に出る衝撃波に似た純粋魔力の見えない、感じない力により全てが死亡した。 私も驚きだよ…退魔戦闘者の様に魔力を鍛える術を持たない自分が潜在魔力の高さにより生き残るとは……上層部…同僚…その殆どが死亡、この計画を知っていた者は私と数名を残し皆死んでしまったよ…』

「なっ…」
「そん…な…」

それは最悪の事実
人類に救いをもたらす筈だった“天使”
それは魔王との戦いに入った時、希望を絶望に変えた
まさか本人達も思わなかっただろう…
自分達と魔王の力が激突した際に出る力の余波で人々が死ぬとは
何て皮肉…
助ける為に戦う筈が、死に導いていたのだ

『…魔王は天使に敗れた…実践的な訓練を怠ったのが悪かったのか…いや、彼女達には経験が足り無すぎたんだろう……天使はその殆どが死亡した…天使一人の実力が一騎当千だとしたら、魔王は最低で三千、良くて倍の六千程度しか無かったと私は見ている…戦闘経験の差だ…効率的な戦闘技術、魔法を使用するタイミング、接近戦、物量に負けない程の――それを回避する為の頭の回転…急速度で教え込んだ技術では、天使の分が悪かったんだ……生き残った天使が世界各地の何処に墜落したかは分からない状態だ…流石に最終決戦では、ね…それに高速で上空を移動しながら戦う彼女達を追うのは難しくてね…これでも終幕を見届けるのだけでも苦労したんだ……そして生き残った彼女達…多分大丈夫だろう…彼女達には完璧な道徳観念がある、人は殺さないだろう…まぁ、彼女達が敵に回った場合、今度こそ世界は滅びるだろうけど…あははははははっ…』

本当に疲れた、失った者の笑い方をしている
祐一には多少こういった者を見る経験があったが、大抵は発狂している
未だ正気を保っていられる、ディスプレイに映る人物は正に賞賛に値する人物であった

ごくりと、唾を飲み込み祐一は冷たい汗が背を伝うのを感じた
横では少女が下唇を噛み締めて、その映像を見ている

『くくく…は、はぁ…失礼…私も疲れているものでね…さて、想定被害数を残しておこう…全人類の人口は約70%が死亡したと考えられる。 これは研究中にあった魔系遺伝子の優劣性から割り出された物だ、潜在的に魔性資質が高い者く優秀な者が生き残る事になった……退魔戦闘者の様に自身の魔力ポテンシャルを引き上げられない私達は完全に、この数字に左右される。 この数字で正しいだろう…』

「全人類の70%が死亡…だと…? そんな…」

祐一の力無い呟きは宙に消えた

『次に魔王の軍勢…基本的に奴等は魔道生命体であり、純粋魔力の波では死なない。 だが中央魔都――ギーリの上級魔道生命体はその殆どが天使により破壊された。 生き残っていたとして絶対数の少ない上級は5・6%だろう…元々人類は退魔戦闘者だけで一度ギーリまで攻め込む事が出来たんだ、それ程心配する事でもない』

「魔物が生き残っている訳は…それだったんですね…姉妹達は…滅し切れなかった…」

祐一は少女に魔物が居る事が普通だと告げた時、少女が暗い表情を作っていた事を思い出す
少女は、姉妹達が必ず敵を滅ぼすと信じて眠りについていたのだろう
だからあの時、やり切れない様な表情を作ったのだ

『……さて、これで最後の報告は終わりだ…こんな辺鄙な場所にある施設だ…何年後に聞かれるか分からない。 もしかしたら聞かれないのかもしれないが…もしこれを聞く人が居るならば、私の我儘を聞いて欲しい…』

ディスプレイに映る男の表情が変わる
これは…?

『たとえ天使達の被害により人々が死んだとは言え、その元凶は私達だ…確かに我ら人類はこの時に何かを失った…そして崩壊した文明の中、また全てを最初から始める事だろう…しかし、彼女達を決して責めないで欲しい…彼女達は唯、純粋に世界を救おうとしただけなのだから…』

汚名を着る…そう云う事か…
祐一は何処か冷静な頭で考える
全ては作った者の責任だと、ディスプレイに映る彼は云いたいのだろう
この事態を予想出来なかった者の責任だと…
そして―――

『そして最後にもう一つ…最終的に残す事になってしまったNo.003325の入ったカプセルは廃棄場に残ってる』

「私の…事…?」

『どうか、これを聞く人よ…あなたが良識ある人だと願い、私は頼む』

「………」

『彼女は唯一自己の感情を持つ天使だ…他の者が失敗作だと言っていたが私はそう思わない…これを聞く人よ…彼女にどうか…世界を見せてやってくれないだろうか? 私の心残りはこれだ…彼女が質問した世界の情景を、私は仕事上答えてやる事が出来なかった…ディスプレイだけの外の世界…さぞ辛かっただろう…頼む…彼女に世界を見せてやってくれ…どうか私達の――――』

どうか私達の―――娘を―――頼む…

ヴンッ…
そこで映像は途切れた

祐一は横に居る少女を見る
しかし、少女は先程の様には泣かず、ただ目を瞑り何かを感じる様に顔を上に向けていた
それを見て、既に何も映っていないディスプレイに祐一は目を向ける

(その願い、引き受けます…どうか、安らかに…)

少し長く目を瞑ると、祐一は心の中で黙祷を捧げる
そして再び目を開けると、少女に目を向けた

「―――マザーコンピュータがどうとか云ってたよな? それは何処に?」

今直ぐ少女を連れ出すのは拙い
いずれここも他の冒険者や歴史探求者が訪れる事になるだろう
だから―――

「えっ…?」
「マザーだよマザー、言葉からして本体だろ? 何処にあるんだ?」
「えっと…もう一層下にありますけど…それが?」
「ぶっ壊しに行く」

少女は祐一の言葉に眼を見開き心底驚いた表情を作る
祐一は腰にある魔道銃を抜き、弾丸のストックを確認し始めた

「なっ…どうしてですか?」
「俺は、連れてくって云ったけど…今のままじゃ連れて行けない。 だからマザーを破壊する」
「?」
「今の記録はそう簡単に知ってしまって良い物じゃ無い…一人の男の懺悔は俺が聞き届けた…それでいいだろ? それに何時かここが発見された時…ここに残っている物が悪用されたら、今度こそ取り返しがつかなくなるかもしれない…だからその前にここを破壊する」
「………」
「道を教えてくれ、行って来る」

そして何よりも恐れるのは少女の存在、天使が明るみに出る事
今見た情報の中には無かったが、天使一人一人の情報が存在した場合――世界は少女を捜すだろう
生憎と記録は残ってしまっている
それならばもう二度と人の目に触れさせない様にして、封印してしまえば良い
だがら破壊し――過去の歴史に終止符を打つ
それもきっと願いに入るだろう
生きるのは今だ…過去じゃない

「私もついて行きます」
「………」

少女の表情に祐一は何も云わずその先を待つ

「私には…ここで生まれた私にはそれを見届ける義務があります…だから、私にも“最後”を見届けさせて下さい」

その言葉に祐一は息を吐き出すと、苦笑しながら少女の瞳を見つめる

「その調子じゃ…連れてかないと教えてくれそうにも無いな」
「はいっ」

少女が楽しそうに微笑む
今度こそ祐一は笑った

「ははっ、分かった分かった…“最後”…見届けに行こう」
「はいっ!!」

そして祐一と少女は『 記録室 』を後にした











―――施設・B2階―――

一層から二層へと下りた祐一と少女
二人は一際大きい部屋に出ていた

「広いな…それに何も無い…」

大きさで言えば横40メートル、縦100メートル程の空間
見る限り今出てきた入り口、そして奥に見える無骨な門しかめぼしい物は存在しない
後、そこに存在するのはただ白い空間のみ
祐一は扉の前に着くまで、辺りを見回し続けていた

「マザーコンピュータは重要ですからね…セキュリティシステムが何台も配置できる大きさになってるんです」
「へぇ…」
「それじゃ、開けますよ?」

少女がコンソールパネルに何かを打ち込んでいく
今、この施設で最高の権限を持つのはバトル・マリアである少女
少女は、『 記録室 』に入ろうとした時の様に声紋、指紋、網膜、そして…血液からのDNA検査をする
ちくりと玉のような血を付着させ、少し経った所でコンソールパネルの画面にOKの表示が出る

(何だ…どちらにせよ連れて来なければ開ける事さえ出来なかったとはね…)

ガコン!!
音と共に二重三重のロックが外れて行き、大きな門がゆっくりと開いて行く
そしてそこに姿を現す、一際大きな機械――この施設のマザーコンピュータ

カチャリと魔道銃の銃口を、その中心へと向ける

「…いいか?」
「はい、お願いします…」

(私はここから旅立ちます…だから…さよなら…)

ドウンッ…!!

引き金を絞り撃ち出された魔道弾は、寸分違わずその中心に――

ドンッ!!

――吸い込まれた

ヴンッ……

今まで活動を表示していた幾つかの光点が一斉に消え始める
それと同時に、施設内を照らしていた灯が、祐一が地下に下りてきた時と同じ様に少しだけ明度が落ちた

終焉―――そして――始まる…か…

祐一が魔道銃を下ろし、少女に振り返―――

ビィーーーッ!! ビィーーーッ!!

「なっ!?」
「えっ!?」

突如鳴り響く警報
祐一は身構え、全ての事象に対処出来る様に体勢を整える

『マザールームに侵入者を発見、セキュリティ独自稼動を承認、マザーが損傷した疑い有り、全てのセキュリティは侵入者の抹殺を最優先、職員は退避を――――』

「……完全に侵入者として扱われてます…最悪です」

少女が呟くと同時に真っ白な空間の天井が割れ、一台のセキュリティシステムが落下してくる

「 機械仕掛けの殺戮者(キリングドール) !!」

確認した瞬間に祐一は魔道銃を向け、完全に落ちて来ないうちにトリガーを連続して引き絞る!

ガガガガガガガッ!!!

装弾数二十発――後期量産型・改――リベリオンの銃口から連続して七発の魔道弾が一発も外れる事無く着弾、爆発音を上げ視界を塞ぐ
祐一は、側に立っていた少女の腰を抱くと、マザールームに入り扉の所に隠れた

「くっそ…弾丸だって安くないんだぞ!」

大金には拘らないが小金には拘る祐一
マザーに撃ち込んだ一発と今撃ち込んだ七発を補給し再び撃鉄を倒す

「祐一さん、私がやりましょうか?」
「起き抜けで、完全に魔法を制御する自信は?」
「うっ…」
「歴史の講釈で魔法が異常に強いのは分かってるが、この施設を吹き飛ばす様な威力は出せないぞ?」
「でも…」
「まぁ任せろ…俺だって弱い訳じゃ無いからな…」

扉に隠れる祐一は少女に笑いかけると、顔を少し出し外の情報を得ようと瞳を動かす
段々と晴れる煙、その中からは八足の内ニ足を失っただけで未だ稼動するセキュリティシステムが現れた

「アレは…」
「?、分かるのか?」

一緒に外を覗いていた少女が呟く
祐一は再び顔を隠しながら少女に質問した

「祐一さん、アレと闘う場合は対物理障壁(ミスティック・ガード)で防御する手段は取らないで下さい」
「何でだ?」

セキュリティシステムが魔物に対して弱い訳がここにある
通常弾等の何の魔法効果の無い弾丸は、魔道生命体が張っている“盾”――対物理障壁(ミスティック・ガード)を貫く事が出来ないのだ
人が扱う魔道銃は特殊な弾丸に持つ者の魔力を流し込み使用するが、セキュリティシステムにはそれが無い為、魔物に対しては殆ど意味が無い
現在の人はこれを応用して、戦闘に障壁を張り攻撃を防ぐ事が出来る

「歴史で退魔戦闘者の他に軍が出ていた訳がここにあります。 絶対数は少ないですが魔物のミスティック・ガードを貫ける通常兵器もあったんです」
「マジか…」
「ミスティック・ガードは研究により一定以上の破壊衝撃が“一点”に加わった場合、破壊する事が出来るのが分かっています。 あの形状は後期型のセキュリティシステム、間違いなくレールガンユニットを積んでいます」
「レールガンユニット?」
「そうです、Electromagnetic Lnuncher――電磁飛翔体加速装置と呼ばれ、二本の伝導物質から成るレールの間に可動伝導体を挟み、そこへ電流を環流させる際にフレミング左手の法則にしたがって起こる作用によって可動伝導体を加速・射出する物をレールガンと言います」
「は、はぁ?」
「…難しすぎましたね…つまり物凄い威力なので防げないという事です。 私が張る対物理障壁(ミスティック・ガード)でなら耐えられるでしょうけど…祐一さんでは…」
「ま、当たらなければいいんだろ?」
「簡単に言いますね…発射の際に発生する衝撃波と、弾丸が通り過ぎる時に発生するソニックブームはそれだけで普通の人は死に至ります…絶対にミスティック・ガードを解かないで下さい」
「分かった」
「後、私達がマザーコンピュータと一直線上に居る場合は、セキュリティシステムもレールガンは撃って来ないでしょう」

いいですね、と最後に強く祐一に言う
祐一はそれに頷き、銃を構えた

「行く、ぜっ!!」

ダン!!

立ち上がった祐一は扉の前から飛び出しキリングドールの前に飛び出す
勿論それは直線上にマザーコンピュータが存在している位置にだ

ドンドンドン!!

発射された銃弾は三発、それはキリングドール間接部へと向け突き進む

ギン、ガキュ、ドンッ!!

「三発撃って一発か…っ!?」

ブオンッ!!

轟音
気付いた瞬間に頭を下げた祐一の頭上を、掠める様にしてキリングドールの足が通り過ぎる
その際に発生する風に煽られながらも祐一はリベリオンを流すように撃ちまくる!

ガガガガガガガッ!!

セヴン・ビュレット
一点に七発の魔道弾が着弾、それは爆発的な威力を生み出した

ドンッ!!ドガンッ!!

破壊された関節部は吹き飛び、足のパーツが白い世界にスローモーションで落下する
それを見届ける本体と傍観者
祐一はそれに半笑いの表情を浮かべて、再び銃を構えた

「これで足は残り五本、さて――――って!?」

ガコンと音がしてキリングドールの一部がへこむと、それと同時にスライド
腹部から重厚なガトリングガンが飛び出した

「おいおい!! マジか!!?」

半笑いから一転、祐一の顔が驚愕に歪む
ガトリングガンは祐一に目標を定め――

キュイィィィ―――

駆動、そして回転――

「ちっ!!対物理障壁(ミスティック・ガード)!!!」
ィィィィガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!

祐一は横っ飛びしながら弾雨を避けるが、その幾つかは確実にミスティック・ガードに着弾
跳弾した弾丸は、白い世界に不釣合いな黒い傷痕をそこら中に残して行く
だが、敵の攻撃はそれで終わらない

「祐一さん!! そっちは―――」
「ちっ!」

幾らミスティック・ガードには通常弾が効かないとはいえ、完全な万能という訳ではない
削られ薄くなった障壁は、段々と防御力を落とすのだ

横に飛んで、出来るだけ避けようとした祐一はそこで初めて嵌められたと気付く
マザーコンピュータのライン上から外れてしまったのだ

ガンガンガンガンガン!!

激しい音を立て五足は固定
背部に取り付けてあった砲台が祐一の方を向く
それはバチバチと音を立て帯電し、エネルギーを高めて行く!

―――初弾――――――ッ!!

「―――――ッ!!」

「祐一さん!!!」

少女の悲鳴が響き渡った瞬間―――爆音

ドガアアアアァァァァァァンン!!!
ドオオオオオンン!!

「っ!!!」

着弾音、衝撃波、排気音、全てが混ざった様な破壊音が響き白い世界に巨大な空洞を穿つ
祐一が居た場所には破壊痕だけが残る

「そん―――」

少女の瞳が悲しみに揺れる
だが、それと同時にキリングドールの上方から声が響いた

「死ッ!!」

祐一だ
発射の数瞬前に壁を蹴り上空へ逃げた祐一は、衝撃波に煽られる形で白い天井に張り付いていたのだ
祐一は衝撃が収まると同時に落下、リベリオンを構えながら落ちてくる!

ガガガガガンッ!!

撃ち出された弾丸はキリングドールの背部装甲にぶち当たり、傷を穿つ
だが、未だ稼動限界に達するダメージを与えきれない

タンッ!

祐一が着地すると同時にレールガンの照準が祐一を捉えた

―――絶望

少女が祐一を助ける為眼の前に手を出し発動言語のみの詠唱―――!

それでも間に合わない!!

少女は今度こそ絶望して祐一を見た

「えっ?」

祐一は笑っていた、可笑しそうに笑っていた

「―――――」

レールガンが発射される瞬間、祐一は今まで抜きもしなかった剣を抜いた
だが少女はそんな物でキリングドールが止まるとは思えない、しかし―――

「灼け斬れろ」

ビッ―――斬!

「え…?」

祐一が剣を薙いだ瞬間、数メートルの閃光が下から上へ走り抜けた
それは白い世界に黒い切れ目を残し
キリングドールの身体を切り裂き
帯電したレールガンを――――引き裂いた

ドゴオオオオオオォォォォォォンン!!!

「………」
「あーくそ…本気出しちまったじゃないか…」

立ち上る爆炎を背後に祐一は悠々と少女に歩いてきた
遊び終わった、そんな顔を祐一はしている
その手に握られた剣は未だ煌々と輝いていた

「ゆ、ゆ、ゆ…」
「おう、どうした?」

はっはっは、と祐一は笑いながら少女に近付く
そして爆発した

「祐一さん!!!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」

少女は肩をいからせ白銀の髪を揺らしながら祐一に近付く

「何ですか! 最初からそういう手段があるんなら使って下さい!!」
「い、いやぁ…これは…」

ぽすんっ…

「あ………」

近付いてきた少女は祐一の胸に額を当て、俯いた
祐一はどうして良いか分からず唯立ち竦む

「心配…したんですよ…」
「――――すまん…遊びが過ぎた…」

祐一は少女を抱き締めると、その白銀の髪を優しく撫でる
少女はそれに、少し落ち着いたのか祐一の胸元から身体を離した

「すまん…」
「もういいです…今度からそんな事しないでくださいよ?」
「解った…」

祐一のその言葉に満足したのか、少女は一歩下がって祐一を見た
その時に右手に目が行く

「それで祐一さん、“それ”は何ですか?」

少女が指差したのはもう既に輝きが収まった純白の剣
今はただ白色の表面が眼の前の少女を映しているだけだ
それに祐一は「あぁ」と返事すると鞘に仕舞う

「唯の丈夫な剣だよ」

その言葉に少女は首を傾げる

「唯の剣なんですか? 私は何か特殊な処理が施されているのだと思いましたけど…」
「違う違う、“アレ”は別に幻想期の遺産でも旧時代の特殊な武器でもないよ。 アレは俺が引き継いだ能力」
「引き継いだ?」
「そゆこと」

そして祐一は少しだけ悲しそうに笑う
少女はその表情に押し黙ってしまった
祐一は一度少女の頭を撫でるようにポンポンと軽く叩くと後ろに振り返る

「ま、俺の父親が死ぬ時に引き継いだ能力だからな…少し思い入れがあるだけだよ、気にするな」
「ごめんなさい…」
「いいって」

そして振り返り少女に笑ってみせる祐一
ニッと笑う祐一は本当に気にしてない様に云う
少女は少しだけ、その裏に在る背景を気にしながらも微笑を返した

「あー…だけど、使わなかった理由は他に在るんだよ」
「何ですか?」

内心、思い出の力だと思っていた少女は聞き返す

「あの力…【 灼陽 】って云うんだけどさ…あれを使うと剣が持たないんだよ。 能力に剣がついて行かないんだ。 一本の剣で能力開放は数十秒が限度、それに機械仕掛けの殺戮者(キリングドール)相手には魔法弾を撃ちこんだ方が効率いいだろ? だから最後まで使わなかったんだ」

祐一の説明に「そうなんですか」と少女は頷く
祐一の力【 灼陽 】は魔法剣の類という事になる
しかし、魔法剣というのは剣の材質にもよる物である為、非常に使いにくい
高名な刀匠が打った剣でも普通の鋼鉄製の武器であれば、火属性の魔法剣を使った後に氷属性の魔法剣なんかを使った瞬間、剣は音を立てて崩れ去る事になる
祐一の力は単属性だが、力が非常に強い為に剣の方がついて行かないのだ

「まぁ…剣を使わなくても出来るんだけど…まだ慣れてなくてな…時間がかかって戦闘中には無理なんだ」

はぁ、と祐一は溜息を吐く
その仕草に少女はくすりと笑う

「―――なら、これからは大丈夫ですよ」
「何でだ?」

少女が微笑みながら云う

「これからは私が居ます。 一緒に戦えますから」
「………」

その言葉に祐一はフリーズした後、頬が赤くなるのを感じた

「恥ずかしい奴だ…」
「?、何か云いましたか?」

小声で囁いた言葉は宙に消え、完全には届かなかった様だ
何でもないと伝えると、祐一は少女に手を差し伸べた

「―――それじゃ、改めまして…」

ニッと祐一は笑う
憂いは断ったんだ、こんなとこで恥ずかしがってる暇は無い
そう、今はもっと大切な事がある
少女はその手を見て少しだけ驚いた表情を作った後、意味が分かったのか微笑んで手を握った

さあ、手は握られたぞ俺
離すなよ? 大事なお姫様だ
これから困難もあるだろうが、決して離したりするな
OK、誓おう
それじゃ行きましょうか―――

「―――外へ!」











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