――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-1 The girl of an inheritance-遺産の少女 ―――





























epilogue - 飛び立つ小鳥



































「ほれ、もう少しだ」

祐一の声が遺跡の一階に響く

「待って下さい」

祐一に手を握られ歩くのは白銀の髪にスカイブルーの瞳をした少女
その身体には黒のドレス―――では無く、黒のコート

下層から通路を席巻するセキュリティシステムを逃げるように走り抜け
時には撃ち、時には跳び、時には切り裂き
お蔭で結局剣を失った祐一と少女は上層の―――窓の無い建物の中を歩いていた

少女にも逸る気持ちあったが、祐一も何だかんだで負けていなかった

―――少女に世界を―――
―――色々な物を見せてやりたい―――

祐一の思考は今、殆どがそれで埋め尽くされていた
そして―――

「あっ―――」

―――見える光
人工の灯ではない
自然の、太陽の光

祐一は少女の手を握りなおし、優しく微笑む
少女もそれに頷き微笑み返すと、二人一緒に走り出した

「―――――っ」

差し込む太陽の光
飛び出した少女は、明るさに慣れない目を段々と開けていく
祐一は少女の手を離すと一歩後ろに下がって腕を組む

「……これが…世界…」

裸足の少女は施設から一歩を踏み出し。地面に足を乗せる――白い世界に
足には雪が付着し、少女は冷たさに一歩引き、施設の階段に戻った

「冷たいです…」

そしてむむっと地面を睨む少女
祐一はその光景に微笑む

「それは雪だよ」
「!、これが雪…」

祐一の言葉に、何時か見たディスプレイの先の風景
“雪景色”が思い出される

それは誇張された旅行先に使われる様な映像だったが、その美しさは知っている
そして目の前に在るのは雪
今―――本当に…

「私は、外の、世界に、居る…」

一言一句、噛み締める様に口に出す
顔は太陽の光を浴び、身体は風が撫でて行く
確かに私は今―――

初めて―――

世界を―――知った!

そして嬉しそうに笑い出す、もといはしゃぎ出す少女
祐一は今、雪の地面に転がった少女を見て思う

暖かき冬と、そして―――

「あぁ―――」

何の疑いも無く
生きていた、“あの頃”を

「………」

フッと祐一は笑う
どうでもいい事だ
今の自分には何の関係も無い
それよりも―――

「ほれ、もうそろそろ行くから負ぶされ」

その言葉に少女は「え〜」といった感じの表情を作るが祐一は無視して背を向ける

「それだったらせめて歩かせて下さい」
「裸足で森林地帯をか?」
「だったら『 舞踊る詩翼(レビテーション・マジック) 』で……」
「飛ぶな。 魔物が寄って来る」

その言葉にう゛っと詰まり、少女は渋々祐一の背に負ぶさる

軽いな…

余りにも軽い少女に一瞬驚くが、祐一は直ぐ歩き出す

「歩きたかったです…」
「その為には靴だ、それと服」

少女は現在、下着無しで祐一のコートを着込んでいる状態だ
これでは自分が変な趣味の人に間違われる
切実な悩みだ

しかも少女には羞恥という物が一部欠けている
施設で検査・測定の為によく裸で居たのだろう、その影響で服と言う物に頓着が無い

うあ…教える事ありすぎ…

祐一は表情を歪めた

「祐一さん」
「あん?」

耳元で放たれる言葉に祐一は意識を取り戻す

「靴と服が手に入るまで、世界の事教えて下さい」
「あー…」

大変ではあるだろう
でも、俺が選んだ道だ
きっと楽しい事だろう
悩んでる暇は無さそうだ

祐一は、ははっと笑い、先程の事を思い出した

暖かき冬、そして―――

「どうしたんですか?」
「ん? あぁ―――」









「名前…プレゼントするって、云ったろ?」









「あ、出来たんですか? 名前」









「…ばれてた?」









「分かりますよ」









「そうか?」









「そうです」









「ま、いいか、それで名前だけど―――」









「はい」









「冬の華―――冬華(フユカ)なんて、どうだ?」





























それは出逢い

全てが始まった時だった

今、青年は歩き出す

少女を連れて歩き出す

それは物語

名も無い御伽噺









今、歩き出す―――











――― Stage-1 The girl of an inheritance-遺産の少女 ―――

―END―













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