―――『浮遊石』最終章・第二編―――









「ふぅ…疲れたなぁ…」

何があった、と言う訳では無い
ただ自分は、かの高名な冒険者――魔道銃を発見したワイス・ラクターに憧れただけだった

「冒険者になって、五年か…」

ただ毎日を西へ東へ歩くばかり
ハンターズギルドの遺跡紹介情報を訊いて向かうも、その殆どが既に攻略され
そうでなかったとしても、偉業を成し遂げられる様な《遺産》は全く無かった

「潮時…なのかな?」

五年という月日は長い
店を出せば繁盛するか、衰退するかの程度が分かるし
赤ん坊だって成長して言葉を話し、走り回る
分からない物が見えてくる年月なのだ
しかし、未だこれといった発見は成し遂げられず
日々を貧しく過ごしながら歩くだけ
その時は既に、冒険者という物を諦める寸前だった

「店を継げって云われてるしな…」

そんな諦めている時に、新大陸発見の報告を受けた
ノステティードから一ヶ月の航海で着く大陸
今まで何で発見されなかったのだろうか?という場所に、その大陸はあった
それは地元の漁師達が、海流が速く、危険だと云っていた先
ある商業船が遭難し、そして辿りついた大陸
そこから帰ってきた彼らは、森林にある果物と動物で生を繋ぎ
船を修理して海流を渡って来たという話だ
その時の話によれば、酷く憔悴していたらしい

そこまで揺れる物なのかと思っていた私だが
乗って納得、最新鋭の大型船でも死ぬような船酔いに襲われた
五年と言う月日の集大成
冒険者を止めるにしても、何かを発見して偉業を掴むにしても
帰りにはまた船に乗らなければならないと思うと、酷く憂鬱だった

新大陸・ミストヴェール

名前の通り、年中の殆どが霧に覆われている場所
それでも果実が実るのは正午から日没までは霧が晴れるからだろう

私は、まだギルドに何の情報も無い“ここ”に、一種の賭けで訪れた

未だ荒らされる事無く存在する森林地帯
だが、所々に岩盤が捲れ上がっており酷く歩きにくい
私は、新興の港町で買い揃えた食料を持って、この中を三日程歩き回っていた

「…はぁ…」

何処まで云っても霧と森
生憎と浮遊魔法は、この場所では何故かキャンセルされる始末
と云っても、私はソーサラーでは無い為
浮遊魔法は体重を軽くしてジャンプ力を上げる程度だったが…

「ん…もう直ぐ昼だな…霧も晴れるし、もう少し奥へ行ってみよう…」

もう少し…
あとちょっと

それは女々しい事なのかもしれない
しかし、私は後悔していなかった

「霧が―――晴れる」

そして私は発見した

追い求めていた――夢を

「こ、れは…」

森が開けた先に見えた物
霧が晴れ、しかも雲ひとつ無い晴天が良かったのだろう
私は、上空に浮かぶ“ソレ”を発見した

「城…?」

浮いていたのは城
始めは自分の眼を疑った
まさか城が浮いてるなんて…そう思った
しかし違う、それは間違いだった

それは動かない
しかし、在ると――感じた

私は急いで駆け出した
荷物を投げ
城の真下へ移動しようと走り出した

「凄い…」

見上げれば城の底
それが幾つも幾つも浮いていた
そして私は気付いた
辺りに浮く、不思議な石に

それは私が追い求めていた偉業だった…










Prologue - 『求道の冒険者』スナフ・ルクの冒険譚『浮遊石』より抜粋 inserted by FC2 system