波間に揺れる箱舟の中で出会い
彼らは一時を共有する

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-2 To the castle floating in the sky−空に浮かぶあの城へ ―――





























#3 世界五指



































瑞佳の後ろについて二人は歩く
まずは瑞佳が逸れたという仲間を捜そうと言うのだ
その後に船内のレストランで食事をご馳走になる予定だ

「長森さん」
「あ、はい、なんですか相沢さん?」

瑞佳の後ろを歩く祐一が声をかける
その問いに瑞佳は律儀に止まって振り返った
歩いたままでいいからと云うと、また三人は歩き始める

「捜している人の事を訊いていなかったと思ってね」
「あ、そう云えばそうでしたね」
「どんな人なんですか?」

冬華の言葉に見えない位置で瑞佳は眉を顰める
今捜している人物は、とても表現しずらい人間なのだ

(な、何て云えばいいんだろう)

う〜んと瑞佳は悩む

「どうした長森さん?」
「あ、いえ…うーん…そうですね…」

今度こそ立ち止まって瑞佳は口を開く

「一人は折原浩平って言って私の幼馴染なんです」
「へぇ…幼馴染か。 んじゃずっと一緒に?」

『ずっと一緒に』の部分で瑞佳は頬を染めながら頷く
その部分で祐一は何となく察知した

(なるほど…)

いや〜若いっていいねぇ、と心の中でうんうん頷く祐一
勿論、過剰演出。 芝居だ
祐一は二十一歳
瑞佳達ともそれ程年齢が離れている訳ではない
祐一がニヤッと笑ったのに何かを感じたのか、瑞佳は慌てて口を開く

「そ、それでもう一人が七瀬留美って言って、エル・ファルナの学校時代からの友人なんです」
「エル・ファルナか、帝国からは少し離れてるけど豊かな国だと聞いた事があるな」

エル・ファルナ
中央大陸ノスティードの大半を占める帝国を構成している国で、ノスティードの六分の一程の島国である
帝国領は裕福な土地が多いが、その中でもエル・ファルナは特に大地の質、気候とも富んでおり、人が暮らすにはとても良い地域である

祐一はそんな土地情報を思い出しながら頷く

「とても良い所ですよ。 見るから相沢さんと冬華さんは冒険者ですよね?」
「そうです、私は最近なったばかりですけど」

えへへーと冬華が笑うのに瑞佳は微笑む

「そうですか、なら一度訪れてみてはどうですか? 観光にも困らない場所ですから」
「そうだな…気が向いたら行って見る事にするよ」

祐一の言葉に「そうですね」と冬華は相槌を打つ
そんな時―――

「おーい、瑞佳ーーー!!」

こちらまで響く声
その声を聞き、三人は通路の方に目を向ける

「こ、浩平! 恥ずかしいからやめてよ!!」

走って近付く瑞佳を二人は見送り
顔を見合わせた後、祐一と冬華はゆっくりと歩き出す
向こうでは、浩平と呼ばれた人物が「いやー、最近お前の耳が遠くなったと風の噂で…」等と云っているのが聞こえる

「何だか祐一さんに似てますね」
「いや、俺はもっとビューティフルでクールだから」
「祐一さんは優しくて暖かい人ですよ」
「………」
「?」

全くもう、この娘は…
ボケた筈なのに素で感想を返される祐一
しかもそれが不意打ちで赤面する内容だから尚、性質が悪い

「どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ…それより―――」
「それで、後ろの奴は誰だ?」
「あ?」
「え?」

突如かかる声に、祐一の言葉が止まる
声のした方向に顔を向けると、どうやら浩平がこちらを見て発した言葉らしい事が分かった

「し、失礼だよ! 浩平!」
「うおっ!? な、何だ瑞佳? そんなに怒って」

瑞佳が発した言葉に浩平が驚き一歩引く
その後ろに居た少女――おそらく七瀬という少女も驚き一歩引いた

「相沢さんと冬華さんは、私が攫われそうな所を助けてくれた人なんだよ!」
「は? 攫われ…? え?」

その光景を眺める祐一
心の中で、厄介な事になりそうだなぁ…俺の腹の具合が、等と思っていたりする
何はともあれ済んでしまった事である、それに最悪の結末にならなかったのだ
祐一にとってはどうでもいい

「あー…長森さん」
「だから浩平もって…はい?」

きょとんと掛けられた声に呆ける瑞佳
祐一はそれに苦笑すると口を開いた

「別に構わないよ、済んだ事だ。 それに一々気を遣って貰ってたらこっちが疲れる」

ふぅ、と一つジェスチャー付きで祐一は話す
それに対して何故か浩平が頷いているのは祐一にも謎だ

「だから気にしなくても良いよ、最悪の結末は迎えなかった訳だしね」

祐一が云い終わると、瑞佳はそうですかと一歩引く
中々物分りがいいな…等と思いながら祐一は一歩前に出た

「それじゃ改めて…俺は相沢祐一。 冒険者をやらしてもらってる。 それでこっちが―――」
「冬華、です。 よろしくお願いしますね」
「―――だ。 そちらも自己紹介して貰えれば助かる」

祐一が三人組、瑞佳を抜いた二人に振る
そこで浩平はフッと笑いながら前に出た

「俺の名前は折原浩平…人は俺を美男子とぐべぁっ!?」

ドゴンッ!!
響く破壊音
突如吹き飛ぶ浩平
顔が壁に当たって跳ねる様ははっきり言って異常だ
祐一と冬華は呆けながら視線を元の位置に戻す
そこには、良く見ると今の今まで浩平の顔があった位置に七瀬の拳があった

「はぁ、はぁ…全くこのバカは…」
「………」
「あ、ごめんなさい。 私は七瀬留美っていいます、相沢さん、冬華さん、よろしくおねがいします」

差し伸べられる手
握手を求めているのだろう
「あ、あぁ…」とどもりながら祐一は握手を交わす
冬華が微妙に怯えていたのは印象深いが、今は忘れる事にする
微笑を見せる七瀬の表情は浩平の顔を殴ったとはとても思えないほど綺麗だった…









「そうか、そんな事がね…。 すまん、世話を掛けた」

さっきとは打って変わってシリアスに浩平は話す
祐一はそれに「構わない」と返し、眼の前の料理に手を伸ばした

現在は船のレストランの中
中華テーブルを五人で囲っている
先ほど殴られた浩平を瑞佳が神聖魔法で治癒した後、レストランに入ったのだ

「そう言えば、相沢と冬華さんは冒険者なんだよな? 長いのか?」

とった春巻きを食べ終わった所で声がかかる
祐一は水を少し口に含んだ所で目を向けた

「そうだな…俺は三年とちょっとか…冬華は三ヶ月だ」

祐一は冬華に目を向ける
完璧だ…思わずそう呟いてしまいそうなほど、綺麗にステーキナイフを使って、皿に移した海老をカットしては優雅に口へ運んでいる冬華
これを見ると少し自信があったテーブルマナーがチープに思えてくる
この光景に先ほどから七瀬が目を光らせて観察しているのは置いておこう

「へぇ三年か…俺達は学園を卒業してからだから後少しで一年って所だな」
「うん、そうだね」

一年…
冒険者の一年目は、まさに新しい発見の連続
自炊や野宿、森や砂地の歩き方等、沢山の“初めて”を体験する事になるのだ
冒険者になった者は大抵この時点で耐え切れなくなり辞めてしまう者が多い
しかし、一年という壁を越えると大体の事が身体と頭に沁み込んで来て、慣れで行動する事が出来る様になる
それによって旅に余裕が生まれ、宝を探す場合も的確な判断が出来る様になるのである
つまり、冒険者という職業で実績を残す為にはここからが本番なのだ

「それなら相沢は先輩って所か、やっぱり『先輩』って呼ばないと駄目か?」

くっくっくと低く笑いながら問いかけて来る浩平
それに対して祐一は鼻で笑うと「よしてくれ」と云う

「がらじゃないっての」
「そりゃ良かった。 俺もあの二人以外は先輩って呼ぶのは憚れたんだ」
「ん? 二人?」
「あぁ。 故郷――エル・ファルナに住んでた頃のな」

懐かしそうに目を細める浩平

「へぇ…」

半目、にやけながら祐一は浩平を見る

「何だ、その『似合ってない』って云う目は」
「事実だろ」
「事実ね」
「浩平なら仕方ないよ」
「?」
「ぐはっ…」

ばたん、とテーブルに頭を打ちつけ顔を伏せる
先ほど冬華が似ているという言葉を発していたのが今なら理解出来た…
祐一は心の中で溜息を吐く

(俺って周りからだとあんな感じに見えるんだな…)

こんな所で自分の在り方に悩むとは…

そんな事を考えていると浩平が顔を上げる
どうやら復活したらしい
それと同時に「あっ」と小さく何かに気付いたように祐一へ顔を向けた

「そういえば相沢、ギルドには登録してるのか?」
「ん? あぁ…情報提供は欲しいからな…それに換金するのにギルドメンバーじゃないと時間かかるし」

それが? という感じで祐一は浩平に返す

「いや、登録名を知っておきたいと思ってな。 もしかしたら相沢って実は有名かもしれないだろ?」
「登録名ねぇ…」
「ん? どうした? 何か知られると拙い名前なのか?」
「いや…違うんだけどさ…」

ふぅ…と祐一は息を吐き出す

「………だ」
「え? 何だって?」
「【 名無し(ネームレス) 】だよ…」
「はぁ?【 名無し(ネームレス) 】?」
「登録する時に、偽名考えるのめんどくさくてそのまま提出したらそうなった」
「だぁーはっはっはっは!! 何だよソレ! 笑えるー!!」
「うわ、無茶苦茶笑ってるしこの人…」

はぁ、と溜息を吐き出す
本当の所、最初に登録する時に祐一は、必要事項を書き終えると使用する偽名を書くのを忘れて提出したのだ
それならば普通、ギルドの受付が『ここ空いてますよ』の一言でも云うのだろうがその時は違った
何を勘違いしたのか、『空欄→名無し』と判断したのだ
それ以来、祐一は「めんどくさかった」を貫き、プライドを守っている

「―――そういうお前はどうなんだよ」

くっはぁ、と白い息でも吐かんばかりに祐一は浩平に問いかける
もしこれでショボイ名前なら笑ってやろうという魂胆だ
しかし―――

「あーはっはっは…あ、あぁ、俺か? 俺は――【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】だ」

ピシリと空気が凍る

「―――いや、ちょっと待て…【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】って」
「あーちなみに『偽者』じゃ無いからな」
「マジ?」
「マジだ」

そこでガクンと力が抜ける

「チクショー、かっこ良くてバカに出来ないじゃ無いか…」
「いや…え…?」
「あー…お前ならどんな珍回答が飛び出すのかと期待してたんだがなー…ショックだ…」

ガガーンと祐一の顔に縦線が走った

「………」
「………」
「マジで云ってるのか相沢?」
「はっはっは、やだなぁー冗談に決まってるじゃないか、冗談」

ふぅ、と息を吐き出す

(しっかし…【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】ねぇ…こんな所でお目にかかれるとは…)

そんな事を考えている服の裾が引っ張られる
冬華だ

「ん? どうした冬華?」
「祐一さん、それってそんなに有名なんですか?」

今度こそ三人が目を丸くする
その光景に祐一は額を押さえて呻きたくなるが、何とか平静を装って踏ん張った

「冬華さん…分からないんですか?」
「え? 何が―――」
「あーいやー、冬華って今までグラストールの奥に居たからさー…外界の情報には疎いんだよねー」

表で平静を装う祐一
背中では物凄い量の冷や汗が流れ落ちて行っている
明らかなミスだ…そう思わずにはいられない
もう少し常識について講義しておくべきだったと心の奥で思う

「そうなんですか? 冬華さん」
「はい、確かに『今は』グラストールと呼ばれる大陸に私は居ました」
「今は…?」
「だああああああああああああ!!!」
「う、うおっ!? どうした相沢!?」

コマンド叫ぶ
突如叫びながら立ち上がった祐一に全ての会話所か、周りの客からの視線まで集中する
最後の手段はリスクがでかいぜ、と心の中で祐一は思いながら「すみません、ちょっと白い物体が見えたもので…」と笑顔で謝りながら祐一は着席した

「―――はぁ…いいか冬華? 【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】ってのは、まず…そうだな…本来ならギルドネームじゃ無いんだ」
「そうなんですか?」




現在の生活圏
中央大陸ノスティード、隣接する大陸ルベリアとエル・ファルナ
そして北方大陸ホワイトランド
その全てが現在の『全世界』だ
その『全世界』で最強と謳われるのが【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】と呼ばれている
現在、その世界五指にランクしているのが

中央大陸北・シャイグレイスの騎士【 金色紅衣(ゴールド・オア・クリムゾン) 】

中央大陸中央・聖帝都市ツォアルの剣聖【 剣聖夜帝(ナイト・オブ・ナイト) 】 獅雅 冬慈

放浪の旅人【 月喰い(ムーン・イクリプス) 】

中央大陸南・ザスコールの戦乙女【 戦場を染めし者(デッド・レッド・ヴァーミリオン) 】 紅葉・エスティード

中央大陸東・ウィニシーアの魔道王【 極死(ワールド・エンド) 】 ルザナス国王

―――と、なっている
しかし、これは自分で申請した物ではない
民が、周りの人間がつけた呼び名なのだ
そしてそれは世界五指《候補》にも当てはまる
その内の一つが折原浩平の【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】なのだ




「と、まあ、こんな感じだ。 要約すれば『世界的有名人』って事だな…分かったか?」
「つまり浩平さんは『世界的有名人候補』って事ですね」
「ん、そうだな」

冬華が理解してくれた所で、祐一は一つ息を吐き出す
冬華が物分りが良くて助かったと思わずにはいられない

「でも祐一さん、名前が出てない人と出てる人がいるのは何でですか?」
「あぁ、それはな。 まず放浪者【 月喰い(ムーン・イクリプス) 】の場合は、姿形は知られているんだが本人が名前を名乗ってないんだ。 次に中央大陸北・シャイグレイスの騎士【 金色紅衣(ゴールド・オア・クリムゾン) 】は――――…」

そこで一瞬だけ――
本当に一瞬だけ祐一の表情が曇る
誰にも分からないほど、勿論眼の前の冬華にすら分からないほどに

「シャイグレイスは一種の閉鎖社会が成り立っていてな……外部に情報漏洩が無い様に厳重に警備されてるんだ」
「相沢の云う通りだ。 四年前の【 灼陽帝(サン・シャイン) 】が消えた時も、三年前の【 神剣(ゴッド・ブレード) 】処刑も、他の国ではかなり遅れて知ったからな…」
「そうだな…」

フッと祐一は笑う

「ま、そのお蔭か【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】に二つの穴が空いたのを知られるまでは、国の地位も安定してたからな…」

各国に情報が流れるまで――それまでは、シャイグレイスに【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】の三人が集結しているという異常なパワーバランスが出来上がっていた
これに対して帝国側は獅雅冬慈を筆頭として、当時は候補でしかなかった紅葉・エスティードと魔道王ルザナスで対抗していたのだ
現在では中央大陸ノスティードの半分以上を領地としている帝国だが、昔はシャイグレイスに存在している三人――顔すら白い仮面(デスマスク)で隠していた事から【 血で染まる悪魔の仮面騎士(ブラッディ・マスク) 】として恐れていた

「ん、それで次に欠員が出れば―――」
「候補の一番上である折原が【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】に選ばれる訳だ」

凄かろう、と胸を反らす浩平
瑞佳と冬華が「おめでとう」と云うが、祐一はグラスに注いだ水を飲みながら思う

(凄い名誉だが…解ってるのか? これからは問答無用で命を狙われる立場に立つって事)

祐一は少し視線をずらし七瀬を視界に収める
頬を染めながら「頑張りなさいよ…」と小さく呟いているのが聞き取れた
その光景に目を細める

(美人二人に慕われて…)

折原浩平がどれ程の強さかは分からない
しかし、世界五指候補になるほどの強さである事は『名前』からもよく分かる
次に七瀬留美と長森瑞佳
実力の程は良く分からない
分かっているのは七瀬が近接戦闘タイプで、瑞佳が後方支援タイプだという事
二人はどちらかというと集団戦闘で実力を発揮するタイプだろう
ずっと三人で闘っていくならそれでもいい、しかし―――

(さっきみたいに人質が出たら…)

その場合は最悪だ
バッドエンドしか待っていない

“名”を持つというのはそういう事だ
どんな手段に対しても常に対応出来る様にしておかなければならない
側に人を置いておくならば尚更だ

基本的に【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】に手を出していけないという暗黙のルールが世界では成り立っている
世界最強が下克上でないのはその辺も手伝っている
国や組織で喧嘩を売れば、逆に滅ぼされかねない――それが“世界の認識”…ある意味、格が違う化け物扱いなのだ
だが、それはあくまで国家レベルでの話
個人間――捨てる物が何も無い人間はそうでもない
最強の称号を狙う者は決して少なくない
その中には真っ向から力同士の競い合いを望む者が居れば、勿論どんな手段を用いてでも、その地位を狙う者も居る
【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】に求められるのは―――

異常なまでの戦闘能力、そして誰にも負けない精神力、それを証明する“功績”

だからこそ、どんな手段を用いてでも最強の名を冠した者を倒すだけで箔が付くのだ
―――それだけ、とは言わないが、これだけで十分世界に名を売る事は出来る
国はそれだけで護り神として雇おうとするし
最高位の地位を約束される事も少なくない
しかし、国で処分されなくなっても違う危険性が出てくる
それが罠
長い歴史、この制度が始まってから罠に嵌められ“名”を奪われた【 世界五指(ロード・オブ・ロード) 】は少なくない
大事な物を抱えたまま強くなるというのは、それだけで覚悟が必要なのだ

「――――折原…」
「ん? あぁ――何だ? 相沢?」
「二人、ちゃんと守ってやれよ?」
「え?」
「―――さて、飯も食ったし、大分話し込んじまったな…そろそろ俺と冬華はお暇するとしよう」

真意をさり気無く告げ祐一は立ち上がる
行くぞと冬華に云い、それに分かりましたと云って立ち上がると冬華は祐一の側に立つ

「ミストヴェールに着いたらまた逢うかもしれないな…その時はよろしく頼む」
「失礼します」

それだけ云うと祐一と冬華は立ち去った
呆ける三人を置いて









備え付けのベッドに入り寝る準備を整え終わる
横から冬華が入ってくるが、もはや気にする事でもない、慣れた物だ
祐一は微笑むと黙って冬華に抱きつかれる

「祐一さん」
「ん、何だ?」
「さっき―――」
「………」
「いえ、何でもありません。 お休みなさい」
「そうか…お休み」

分かっている
冬華が訊こうとしたのは多分あの事
―――【 灼陽帝(サン・シャイン) 】…

全てを憶えている
あの事を覚えている
この手に残る感覚を―――
剣を握る度に―――思い出す

「お休み…冬華…お休み…父さん…」

ミストヴェールまで後一日
夜は深け逝く











to next…

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