墓標には、ただ銃痕が残るのみ
今日出逢い、今日別れた親友に鎮魂歌(レクイエム)
今日出遭い、今日別れた敵には葬送曲(フェネラルマーチ)

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-2 To the castle floating in the sky−空に浮かぶあの城へ ―――





























#7 貴方には鉄槌を



































ダンッ!!
―――銃声

冬華が頭を下げ、老人―――デルタにお礼を述べた矢先だった
デルタはそれに対して、手で静止を掛けようとしたのだろう
そこを凶弾は、デルタの胸を撃ち抜いた

切り替わる意識
祐一は瞬間的に、宙へ浮いていたプルートーを掴み、冬華を横に抱くと瓦礫に向かって走り飛び込む
浩平は七瀬を左に、瑞佳を右に抱くと瓦礫へと飛び込んだ

「デ、デルタッ!!」
「ぐ、くはっ…っく!!」

プルートーの悲痛な叫びに、デルタが苦悶の声を上げる
デルタ老を拾えなかった事に舌打ちしながら、祐一はリベリオンを引き抜くと、物陰で構えた
浩平、七瀬も同じだ、それぞれの武器を抜くと、その場で構える

「―――――おいおい、おいおいおい! 人が仲良く魔物とお喋りかい!?」
「馬鹿だね、魔物は抹殺対象でしかないのにねー」

キャハハと月光の降り注ぐフロアへ癇に障る笑い声が響く
扉から出て来たのは長身に、大きな包みを背負った男
そして、長い銃身を誇る銃を携えた少女

「あ、真芯を撃ち抜いた筈なのに、この魔物結構しぶといね」

ガッと、笑顔で少女はデルタの腹を蹴り上げる
完全に善悪が抜け落ちている
いや、これが彼らの常識か
デルタは血を流しながらうつ伏せに転がって止まった

「貴様ら、どうやってここまで入ってきた!?」
「あぁ? そんなの開け放たれた家ん中から転移装置で跳んできたに決まってんだろ?」

ははっと長身の男は楽しげに笑い声を上げた
そう、結界は既に解かれているのだ
失策だった
遺産への興味が薄い分、邪魔をするという行為にまで頭が回らなかった
完全なミスだ!

「それで、宝の場所でも訊いておこうか?」
「宝なんぞ、ここには無い…」
「チッ…」

それに長身の男はあっさり引き下がると、視線を夜空に向けた
そして突然、足を振り上げる

「魔物風情が、よっ!!」

ドゴッ!!

振り抜かれる足
その衝撃は再びデルタの腹部を貫く

「ガッ、ぐふっ、ごほっごほっ…!!」
「デルタ!」

プルートーの悲鳴
それに男と少女は視線を向けた後、笑って見せた

「ねぇねぇクルト、この魔物殺しておこうか?」
「あ? そうだな、ま、邪魔になるしいいんじゃねぇか?」

必要無いと判断したのだろう
後はあの喋る猫から聞き出せばいい
用が無くなれば消す、生かして置く価値が消えたのだ

「そ、分かった♪」

頷き、その銃口をデルタ老の頭へと押し付けた
上級の魔物と言えど、さっきのは完全な不意打ち
しかもよりにもよって人間で言えば心臓がある位置を負傷している
再生が―――追いつかない

「やめろっ!!」
「ちぃっ!!」

プルートーが飛び出す
それを追って祐一も一緒に飛び出した
少女はニタッと笑い、瞬時に銃口をプルートーに合わせる
その瞬間に祐一の足が霞み、プルートーを蹴り飛ばす
勿論接触する瞬間に減速し、威力は殺した
後は勝手にどうにかしろプルートー
そんな無責任な考えに思考を張りながらも、祐一もそのままプルートーと共に射軸から外れる
少女の驚きの表情

ガウンッ!!

普通の魔道銃よりも重い音が響き、弾丸はプルートーが居た位置を横切った

「ふっ!!」

宙を舞い、地面に落下したプルートーから目線を外し、リベリオンの銃口を少女に向けた

ガチャッ、カチャリ

「黒いお兄さん、やるね」

そしてまた笑う
鈍い光を放つ銃身は、互いに一撃で死を与える部分―――頭をポイント
少女は軽々と、普通の魔道銃よりも大きな銃を構えている時点で、相当の銃使いだという事が分かる

「―――何故、いきなり殺そうとする」

祐一の呟き
リベリオンを持つ手には自然と力が入る

「いきなりお兄さん達を殺さなかっただけありがたく思ってほしいなぁ」

クスリと笑って―――トリガーを引いた

「くっ―――」

ガウンッ!!

チリッと頬に痛みが走るのを感じて、祐一は横に飛んだ
そして二発目、三発目が祐一が居た位置を、的確に撃ち抜いてくる

「ねぇねぇクルト、私はあの黒いお兄さんと遊ぶからそっちは任せても良い?」
「ちっ、しょうがねぇな…さっさと終わらせちまえよ、アス?」
「うん、楽しんでさっさと終わらせるね」

そして少女は走って祐一を追い始める
そのスピードは中々迅い
そして勢いを足で殺し―――

カ、キュッ

その射線上に祐一を収め―――発射

ガウンッ!ガウンッ!ガウンッ!

銃声が響き渡り
背中を向けていた祐一を狙い打つ
しかし

「えぇ!? うそっ!?」

祐一は背後に目があるかの様にそれをサイドステップで避けると、扉の外に飛び込んだ

「ダメダメッ!! 逃がさないよっ!」

少女も続いて扉の外へ出て行く

「ふん、あの黒コート…中々やるみたいだな…」

長身の男、クルトの声

「………」

そこで浩平は無言で立ち上がる
観念した、訳では無い
何故なら―――

「おいおい、俺に喧嘩売ってんのか兄ちゃん」

浩平は手に持っていた剣を、目の前の男に突きつけていた

「七瀬、爺さんを頼む…その後は瑞佳、治療を」
「分かったわ」
「分かったよ」

隙の無い連携で浩平は二人に指示を飛ばすと、再び目の前の男へ視線を向けた
男は大きな包みを下ろし、それに肘を置いてこちらを見ている

「魔物と仲良くねぇ…どういう神経してんだか…」
「はっ、違うだろ…人も魔物も殺してる様なお前が云うセリフは『殺したい』が妥当じゃねぇか?」

そしてクッと浩平は口の端 を吊り上げて哂った
その皮肉な笑みに、長身の男クルトは顔を引き攣らせると、ガンと包みを叩いて目を見開いた

「おもしれぇ!! 精々楽しませて死ねよ!?」

放たれる禍々しい気迫にも怯まず、浩平は笑った

「こっちのセリフだ、精々楽しませてくれよ? 格下(・・)さん?」









祐一は王の座から出た所で少し距離を取ると、リベリオンをだらりとさげたまま後ろへ向かって振り返った
少女――アスはそれに不思議そうに首を傾げて祐一を見る

「あれれ? もう追いかけっこは終わり?」
「そうだな…終わりだ」

そこで初めて祐一は笑う
いや、哂った
その瞬間、開放されるのはまさに異界
殺気が支配するだけの異界へと成り果てる

ゾクッ…!

その瞬間にアスの背中に寒気が走る
悪寒…恐怖?
これは、目の前の男から?
それは殺界
動いた瞬間、その命の灯火は掻き消えてしまいそうな心細さ

「さて―――いきなりだが最後通告だ」
「っ―――!」

何で私は後ろに下がっている?
何で私は目の前の男を怖がっているの!?

「引かねば殺す、引けば生かしてやる」
「そんなの―――」

最後の気力
こいつは今まで自分に追い立てられた獲物だった筈だ
そうだ!
こいつは私よりも弱い
弱いんだ!!

「そんなの―――決まってるじゃない!!」

圧倒的とも言えるプレッシャーを跳ね除け、アスは魔道銃を跳ね上げる
銃口は眼前の獲物
トリガーは絞られる

ガウン!!ガウン!!ガウン!!

銃口から流れる硝煙
その先に、男は、居なかった

「―――――」

気配は真後ろ
何時、何時だ!?
何時移動した!?
今まで自分は、目線すら外さず、男の姿を捉えていた筈だ!
それなのに何故―――男は真後ろに存在し
そして、その冷たい銃口を、自分の頭に押し付けているのか!?

「悪い、死んでくれ」

理不尽な死刑判決
あっ、と喉の底から声が漏れて後ろへ反射的に振り返っ―――

タンッッ―――……









「さて、始めようか!」

長身の男クルトはそう云うと、包みの端を持って引っ張った
それと同時に、夜光を反射しているタイルにガラガラと白い物が舞い落ちる
それは白骨、頭蓋の顎に鋭い牙が有る事から肉食の何かだと云う事が分かるが

「―――何がしたい?」
「こういう、事さ!!」

【 死霊の踊る庭(リビングデッドパーティー) 】

男の声で、白骨は白いエネルギーでコーティングされた巨人へと成り果てる
出現した三メートルを超えるだろう半竜の巨人は、浩平に向かって構えた

―――能力、か
死霊秘術―――ネクロマンシーに似た能力だ
能力である分、本来必要な【 偽似霊体の固定 】と【 周辺エーテル力場の安定 】を省けるのは強みだが―――

「貧弱だな…」

浩平の目にはそう映った
フンと鼻で笑って、浩平は右手を剣から離して目の前の巨人へ向ける

「行けぇぇ!!」
「下らん」

【 干渉――空間爆縮(エアブレイク・インプロージョン) 】

ドパン!!
激しい音が響いて半竜の巨人の、丁度腹の部分で衝撃圧縮された空間が展開され、空気が爆発した
その一瞬にして、白い巨人は腹部から断裂
上半身と下半身が別方向に飛び逝き
そして

「おまけだ、とっとけ」

パチンと指を鳴らした所で二発目と三発目が爆発
上半身と下半身に使われていた骨を粉々に砕く

「―――――」

何が起こったのか解らない男へ向けて、浩平はわざとらしくニコリと笑うと咳払いを一つ
そしてゆっくりと口を開く

「さて、自己紹介がまだだったな…俺は折原浩平、世間では【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】と呼ばれている」
「トワイライト…ブレイブ…ッ!?」

やっと気付いたのか
愚かなこって…
はぁ、と溜息を吐き出しながら浩平は顔を上げる

「ま、後の相手は俺じゃないが…頑張ってくれ」

そしてそのまま選手交代と言わんばかりに、浩平は踵を返して歩き出した
その途中ですれ違うのは白銀の髪にスカイブルーの瞳の少女
冬華は先程受け取った剣を抜き放ち、視線は下へ向けていた
その表情に色は無い
しかし、その瞳には怒りと悲しみの色が浮かんでいる

「―――訊きます」
「な、に?」

目の前に映るのが浩平じゃ無くなった事からの余裕か
クルトは幾分か余裕を取り戻して話を聞く事が出来た
こいつを殺せば逃げられる!
精神がそう叫び訴える中で、狂気の笑みを浮かべる
腰にはまだ剣がある
大丈夫、目の前に居るのは何も世界五指に名を連ねようとしている化け物――折原浩平じゃない
冷静に、殺して、道を拓き、逃げればいい

「誰かが傷つく事」
「………」

一度、空気を大きく吸い、そして吐き出す
大丈夫、大分落ち着いた

「―――死ぬ事を―――…」
「………」

後は目の前で何か喋っているこの女を殺せば
それで、俺は―――

「どう、思ってますか?」
「どうもこうも…」

クルトが動く
冬華も動く

「こう思ってるのさ!!」

タンッ!!
距離は一瞬にして詰まった
その手には剣
それは冬華の腹部へ、吸い込まれ―――

ガグンッ

「ゲハッ!?」

―――吸い込まれ、そして冬華の虚像(・・)は消えた
歩法・落葉
相手に虚像を見せる事で実体の潜む位置をずらす歩法
刺し貫いたのは冬華の虚像
本体の存在する位置はクルトの真後ろ
そして、喉にはしっかりと―――冬華の腕が回され、固定されている

「それが貴方の答えですね…残念です…」
「が、あ、ぁ、ぁ…」

くっと締まる冬華の細腕
しかし、そこには恐ろしい程の力がかかっている

「貴方の魂が、神に祝福されん事を…」

その言葉が背後から囁かれた所で
クルトは解放され、そしてドンッと背中を押されて前のめりに倒れ込む

「が、っはぁっ!!っはあ!っはあ!!」

呼吸を得て、そこで今一度―――思い出す
自分は、何故、解放されたのか?
その考えに至った瞬間、クルトの首は真後ろに居る筈の冬華をその視界に収める為、凄い勢いで振り向いた

「あぁ――――」

突きつけられるのは絶対死
機工魔剣サクリファイス・ドライブの切っ先はこちらを向いていた
雷光が地面に当たりタイルを弾き飛ばす
それは、相手に喰らいつく前の餓狼の昂ぶり

「私は、私の壁を越える為に、今、ここで、貴方を殺します」

その瞳に何時もの優しい輝きは無い
そこにあるのは、罪を裁く断罪者としての輝き

「さようなら…。 恨むなら私を―――」

「そして、悔やむなら自分の愚かな行動を悔やんで下さい」

恐怖
―――死…

「あ、あああああああああああああああ!!!」

【 滅する蒼銀の閃光(グランド・フィナーレ) 】

キュ、イ――――――――ンッッッ

放たれた蒼銀の悪魔
それは敷き詰められたタイルを破壊しながら荒れ狂い
立ち上る魔手は、易々と天井を貫き、破砕し、消し去っていく

ガアアアアァァァァァァァァァッ!!

指向性を持ったその破壊の奔流は、目の前でだらしなく叫び散らすクルトを呆気無く飲み込むと、そのままタイルと岩盤を抉りながらフロアの壁へ到達
そのまま壁を光が浸食すると貫通し、夜空に一筋の線が走った

「――――っは―――あ…」

そこに残ったのは雷光が破壊し、作り上げた道
そして、旧時代の傷痕の横に並ぶ様に傷付けられた、新たな傷痕だった

「………」

ヒュッ―――
冬華はサクリファイス・ドライヴを一度横に振ると
封印処置――鞘に剣を納める
そして目線は前へ
新たに出来た傷痕へと向ける

「―――私に掛かっている筈の“絶対道徳”は外れました…」

切なそうに、そして悲しそうに冬華は呟く
それは、大切な姉妹との共通点を捨てたと言う事
それは、過去を、完全に捨てたと言う事

「所詮は殺しの道具、なのかもしれません―――だけど…」

フッと笑い、月を見上げて冬華は囁きかける

「その“道具”が持つ力は…私が、信念を持った戦いにだけ、使います」

―――私が最初に殺した人、貴方の事は忘れません―――……

その言葉は夜風に乗り、宙に消えた
物悲しくも、確固たる信念
この日、冬華は真の意味で“冬華”という存在になった











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