――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-2 To the castle floating in the sky−空に浮かぶあの城へ ―――





























epilogue - 別れを告げる羽音



































「爺さんっ……」
「お爺さん…」

投げ掛けられる言葉
それは弱々しく目を開いている魔物の老人へと掛けられる

「―――駄目です…傷を塞いでも、命の灯だけは段々と弱まって行ってます…」

瑞佳が顔を伏せ、悲しそうに現状を呟いた
その悲しげな声色に、倒れたまま夜空を見上げる老人は口を開く

「核が破壊され…血と、魔力が流れ出すぎた…もう長くは持たんよ…」

カラカラと、最後の最後まで、老人は笑う
その笑顔の何と弱々しい事か
見ている者の方が、心が痛む

「デルタ…」

チロッと、年季の入った頬を舐める黒猫
デルタは視線だけを動かしてプルートーを視界に収めた

「プルートー…そうだな、何て云って別れを告げれば良いのか分からんな…」
「別れ、なんて、そんな…」
「ほれ、泣くでない…」
「だって…」

涙を流すプルートーに対して、デルタは笑って見せる

「お前はワシの魔力を使って生まれた、云わばワシの分身じゃ…泣いてると、本人に失礼じゃぞ?」

くくっとデルタは笑い、もう上がらぬ手に顔を顰めながらも、それでも―――
ただ、唯一、自分の孤独を癒してくれた相棒に、笑顔を見せた

「それに…全盛期を過ぎた、老い過ぎた身…別れを告げるには少々生き過ぎたとも思っておった所じゃ…悔いは、無いよ」

デルタは過去を視る
二千年前に生を受け、自分達の平和の為に戦った時代がそこにあった
夢を継ぎ、対魔戦闘者と戦った時代があった
隠居し、月を見ながら無を過ごした時代があった
ほんの気紛れで、生意気な黒猫を創り、共に生活した時代があった

「あぁ―――…」

どれもこれもが懐かしい思い出
本当に、悔いが無い
唯一つ、あるとするならば…それは自分の分身
プルートーの成長を見守れない事か

「―――――」

息が止まる
瞼が落ちる
世界が暗転していく

振り返った記憶はどれも懐かしくて
辛い事も、悲しい事も在った事を思い出させる、けど―――

それでも

多くの同胞の死を看取り
ライバルとも云える、対魔戦闘者と闘えた事は良き記憶だ

そして、面白い相棒と生活を共にし
何も残らない魔王城の最奥を気紛れで護り
下界で人間に紛れての生活は、それはそれで楽しかった

特に、この世界に別れを告げる今日
可笑しな人間と出逢えた事は、案外、世界に優しく無い神の気遣いかもしれない

あぁ―――…
良き、今までの幸福と不幸に乾杯を
そして、別れを告げる相棒に、幸が大からん事を

ここに願い、サヨナラを――――……




「―――――デルタ…」
「………」

最後を、ここに集まる五人と一匹が看取る
何度見ても、思われた人物が去るのを見るのは心に罅を入れそうだ
全員の表情を見、そして自分自身の心を覗いて、祐一はそう考えながら溜息を吐き出す

「………」

敬意を払おうか…
何となく、これも気紛れ―――かな?
そう考えて、祐一は手をデルタ老の、前に差し出した

「相沢…何を…?」
「何…俺の故郷での習慣さ…」

そして、祐一は魔力を手の平に集め、呪文を詠うかのように口ずさむ


「―――我は偉大なる友人に敬意を表す―――」

「今宵、この場で、貴方の顔を見れた事を、私は神に感謝します―――」


祐一の詠う歌が虚空へと消え行く
それは、魂に別れを告げる為の詩
世界に別れを告げる者への賛歌


「貴方を導く灯りは、頼り無くも、貴方をちゃんと導く事でしょう…」

「それは、貴方を思ってくれていた者からの、力ですから…」


祐一の手の平から光が零れ出す
それは、蛍が発する光の様に
寂しくも、だが優しく、彼らの顔を照らしてはデルタ老の周りを飛び交っていく
弱々しい光に照らされる終末の戦地
そして、詩は、終わった

「蛍火」

ぽぅ…

優しく輝いていた光は、不規則にだが集まると、段々と…
段々と夜空へ登って行く

皆が皆、その光景を眺めていた
聞こえない筈の、蛍の羽音
それは優しく響き
死者の霊の道標へと成り行く

「デルタ…バイバイ…」

五人の足元で、夜空を見上げる黒猫は呟いた

大丈夫、僕は元気に生きて行く
デルタの様に、笑って生きて行く
それでも、天国でも、地獄でもいい
何時か立派に成長するその時まで
見守っていて…


言葉に成らない、思念だけの語りかけは終わった
歩き出そう
悲しくないと言えば、嘘になる
それでも―――



















「僕は今、笑顔だから」



















御人好しの黒尽くめと姉妹から『花束』を受け取り『個』を得た天使は歩き出す
一匹の黒猫と三人の冒険者は、それに続いて歩き出した

新たな物語を求めて












――― Stage-2 To the castle floating in the sky−空に浮かぶあの城へ ―――

―END―













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