「相沢、良い物やろうか?」














思い返してみれば、折原が口走ったこの一言が全ての始まりだったのかもしれない

そうそう、確かあの時は冬華が長森さんと七瀬さんに抱きついて泣いていた時だった
俺は女の友情っていうのも美しい物だと、柄にも無く感動していた訳だ
頭に黒猫プルートーを乗せて

そんな時に、あの見た目はアホで中身は世界五指(ロード・オブ・ロード)候補の折原に声を掛けられたんだ
最初の一声は「相沢、良い物やろうか?」だった
それだけは今でもはっきり憶えている
あの空中都市群がある場所で数日間一緒に過ごしたが、本質がアホな筈の折原が、それこそ……
冬華の話を聞いた時や、デルタ老が亡くなった時の様な
意気消沈した表情で近付いて来たんだから、嫌でも記憶に残っている

そこで俺は折原に訊いたんだ「どうしたんだ?」って
そしたらあいつは云った

「ああ、こんな物があるんだけどさ…」

そういって折原が懐から出した封筒
それについていた手紙を、あいつは渡して来た
そこに書いてあったのが―――




【 黄昏の剣(トワイライト・ブレイブ) 】殿へ

此度、我が国で遺産の展示会を開く事になった
それには今までに発見された遺産が、かなりの数出展する
そんな中、ザスコール城で貴族を集めた特殊展覧会が開かれる
出来れば、その場で少し余興として私と手合わせをしては貰えないだろうか?
返答はどちらでも構わない
参加したとしても、無理に闘えとは云わない
気軽な気持ちで決めて欲しい
それでは、出来るだけいい返事を待っている

――――【 戦場を染めし者(デッド・レッド・ヴァーミリオン) 】 紅葉・エスティード より




驚いたね
まさか現役から候補への誘いがあるなんてさ

まぁ、そこは俺がクールだからそのまま「それで?」って聞き返したんだけど
そしたら折原は云った

「この招待券やるよ」と

まぁ、確かにミストヴェールから中央大陸のザスコールに着いたらサヨナラで
三人はエル・ファルナで開かれる『先輩』と『後輩』の劇を観る為に帰るとは云っていたが
流石に俺も驚いた

思わず頭にプルートーが乗っているのに
自分で自分の頬を殴って
その反動でプルートーが落ちて
思わず折原に「精神に病は?」と真面目に聞き返してしまったのは記憶にも新しい

短い付き合いだが、あいつの本質にはアホ・ボケ・迷惑・人情・偶にシリアス等のスキルの他に
隠れ戦闘狂というスキルがあるのに何となくだが気付いていた
多分理由はそれだろう
紅葉・エスティードと闘えないのが残念なのだ
それでも大事な『先輩』と『後輩』の劇を観るのを止められる筈も無く
その無料招待券を俺に差し出していた訳だ

「それで、俺達は知っての通りこの展覧会に出席出来ないんだが…要るか?」

そこで俺は折原にクールに云ってやったんだ

「下さい」

……
まぁ、そこら辺はおいておこう

それで、涙と鼻水を流す冬華と、器用に片足だけ上げて相手を見送るプルートー、そして俺は
紆余曲折を経て、城のパーティーに参加した訳だ

「いい思い出だよねぇ…」

だが、問題はその先だった
あの忌々しい小箱
アレがあの事件の発端だったんだ…










Prologue - 天使に膝枕をして、目の前の黒猫と焚き火を囲う黒尽くめの若者の思い出 inserted by FC2 system