パーティーは何事も無く進行する
そしてクライマックス
夢という名の快楽を見せる小箱は姿を現した

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-3 Black EDEN−最終楽 ―――





























#2 誘いの夢檻



































立食パーティーの形式で始められた特殊展覧会
数多くの貴族に囲まれながら、祐一達は遺産の鑑賞を行っていた
様々な物がテーブルの上に展示され、それを眺める客
パーティーが最高潮を迎えた時、全ての視線を集めるだけの拍手の音が鳴り響いた

「――――――」

ザスコール王が姿を現したらしい
祐一はそう判断すると、今食べていた物を飲み込み、口元を拭う
流石にそこまで礼儀知らずでは無い
冬華も同じく食事を終了させると、視線を貴族達が集まっている方へ向ける
ザスコール王――その横には紅葉・エスティード
その手に持つのは…

「あれが戦乙女の象徴――神槍ブリューナク」

四メートルを誇る巨槍
戦場では、一振りで多くの敵に絶対死をもたらすとして恐れられている槍だ
しかし、槍自体に特殊能力――幻想遺産の様な能力が在る訳では無い
超重量の金属との合金で精製され、現代の魔術効果により比較的に武器としての硬度と柔軟性を上げているに過ぎない
こう言った人工魔法祝福(マジック・ブレッシング)を享けた物を、一般には儀礼祝器(ケイテシィ)と呼んでいる
中には特殊なマジック・ブレッシングを享けた物も存在し、唯一幻想遺産に近付ける物も存在するが、それらの存在数は極めて少ない
―――結果を出すとすれば、紅葉・エスティードは己の実力だけであの位置――ロード・オブ・ロードに立っているのだ

「―――ん?」

ザワザワと会場の喧騒が高まって行く
王の周りには、挨拶を欠かさない貴族達
その横で、会場に何かが運び込まれた

「皆様! どうかお静かに!!」

“何か”を台に乗せて運んで来た者の代わりに紅葉が声を張り上げる
その一声で会場には静寂が訪れ、全ての者の視線が前を向いた

「王…どうぞ…」
「すまない」

恭しく礼をして一歩引く紅葉
それと同時にザスコール王が前へと出て来る
ゴホンと咳払いを一つすると、言葉を発した

「今日はこの場に来てくれた事を感謝する――」

少し視線を動かし、台に乗せられた物を見――

「本日は、ザスコール国内で手に入った『幸せの小箱』を御覧頂こうと思う」

王のその言葉で、台の傍に居た男が頷き前に出た
説明、だろう
その説明を要約するならば、あの黒い小箱は、人々に幸せな夢を見せてくれるらしい
幸せ―――
それは人によって趣向性が違ってくる
普通の幸せならば、それは大金を手にいれるだとか、好きな人と結婚するだとか
しかし―――物事には何時だって裏が存在し
人の不幸は蜜の味と言った言葉だってある

直感が告げた
アレは危険な物だ
しかし、体は動かない
祐一はその事を恨めしく思う
この場に留まっているのは怖い物見たさと――

「凄いですね祐一さん。 “幸せ”を見せてくれるなんて!」
「そう、だな」

冬華の笑顔があるからだ

ここで直感を信じて何も起きなかった場合、単なる損でしかない
第六感という感覚を信じるには、ファクターが少なすぎた

「それでは、『幸せの小箱』の起動を」

ヴンッ―――

機械の駆動音にしては低く
そして、腹には響かない様な不思議な音が響き渡った

「―――――」

歌が、聞こえる
何処で、聞いた歌だったか…
瞼が下がった、意識が落ちる
結局自分は去る事もせずにここに居るらしい

「祐一!」

おい…プルートー…何喋ってんだ…見つかったら言い訳出来ないだろうが…
まどろむ思考の奥で、祐一は目の前に居るプルートーに語り掛けた
目の前?
可笑しい、何で四足歩行の猫で明らかに普通の猫サイズのプルートーが目の前で喋っている?

「くっ…これは―――――」

聞こえないよプルートー
何も聞こえない
ほら、皆床で横になっているんだ
お前も寝ればいいだろう?
何時も俺が冬華に抱かれて寝てるんだ、こんなチャンスは無いぞ?
――――…?
そうだ…俺は寝ようとしてるんだ
それなのに何故、冬華に抱きつかれていない?

祐一の思考がそこに到達
ここ約四ヶ月ですっかり日常となってしまった事を思い出した
意識が覚醒、瞬間的に体を起こそうとするが体の自由が奪われた様に指先一本動かす事が出来ない

「っ…俺は―――」
「祐一!」
「プルートー…くっ…駄目だ…ねむ…い…」

戻った意識が再び落ちる中、祐一は確かにフロアを確認した
あそこに居た者、全てが床に倒れている
冬華が目の前で倒れている
せめて、冬華の傍に…
そこまで考えた時、何かが頭に響いた

祐一!今から君は夢に引き摺り込まれる!
これは明らかに暴走だ!
祐一さーん何処ですかー…?
いいか祐一!それは夢なんだ!騙されるな!
このままじゃ…被害はザスコールの街中に―――…
あれー…祐一さん何処行ったのかな…?
僕じゃ夢魔としてのレベルが違いすぎる! だから頼む、戻って来てくれ!
くそ、何だ!? 研究中は一度もこんな事―――!!
祐一さん…何処…ですか…私を…置いて行かないで…

ごちゃごちゃの思考言語
最後に考えられたのは、冬華を悲しませたという事

そして祐一の意識は、完全に落ちた

(全く…ついて…無い…なぁ…)











to next…

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