何の為に私は生まれたのか?
私は人に最後の快楽を与える存在
夢の姫――その末裔

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-3 Black EDEN−最終楽 ―――





























#6 快楽死



































プルートーが駆ける
託された信頼を果たす為に
鏡面――夢幻のザスコールで始まった戦闘
祐一は祐一、紅葉は紅葉と闘っていた
その中で唯一イレギュラーな人ではない存在

魔物――ナイトメアキャット・プルートー

夢へ誘う『歌声』はどうやら人間にだけ効果があるものだったらしい
その為、最初の時はプルートーに対して強制睡眠は訪れなかった
しかし二度目
あれは人間の波長に合わせた、等という生易しいものじゃなかった
文字通り無理やり、自分の領域に相手を引き摺り込んだのである
その為、効果を回避出来る筈のプルートーまでもが、『小箱』が作り出す異界へと連れ込まれたのだ
しかし、ここでもプルートーはイレギュラーだった

自身の模造が出現しないのだ

祐一と紅葉には出現した自分が望む最強
それがプルートーには出現しなかった
それが相手の望んだ物か、それともその逆かは分からない―――
それでもプルートーは夢幻のザスコールを駆け抜けた

冬華と、祐一救う為に









「ごほっ…!!」

与える弾丸は全てが見切られ
動きも、戦術も、そのどれもが勝つ要因には成り得ない状態

(やべ…ちょーぴんちだな…ははっ)

身体は刺し貫かれ
腕は落とされ
首は斬られ
心臓は穿たれた

復元出来るとはいえ、それは諦めない限りの話だ
人間、拷問などに掛けられれば自ら死を望む様になる
まさしく今の状態はそれだ
痛みでショック死しないだけ、祐一の精神は強い方だと云える
だが、夢幻という名の現実の中で拷問以上の苦痛を味わっている

(拷問訓練…今だけは感謝するよ…ホント…)

ユウイチは祐一を殺す
祐一は何度もユウイチの前に立ち上がる
支えているのは希望と心残り
しかし、それも限界
最後の希望ももう少しで途切れそうになっている

ぐっと、掴まれた首に力が込められた
ぎりぎりと締め付けられ、呼吸が出来ない――そんな生易しいものじゃない――首を圧し折る気でユウイチは祐一の首を絞めている

「君は十分に頑張った…もうそろそろ諦めてもいいんじゃないか?」

ごきっ…

言葉が終わると同時に込められた力によって、祐一の首が圧し折れた
何度目の音か…そんな事を漠然と感じながら意識が飛ぶ
だらりと下がる抵抗の証であった手は下に落ちて、瞬間的に祐一は復元すると、再び抵抗を開始する
かすむ様な思考の奥で、祐一はただプルートーが世界の解放をしてくれる事を待っていた

―――悪循環

幾ら死なないとは言え、流石にこの状況は拙い
首が絞められ、首を圧し折られ、そして蘇生
その繰り返し
唯一の救いは莫大な痛みの量に耐えられず、すでに脳がオーバーロードいている状態だという事
死という現実に対して、認識がついていかない事だけが救いだった
この拷問への後悔は何処から始まったのか?
それは相手の一撃を捌ききれずにリベリオンを落とした事
これでは反抗する術が無い
持ち上げられ、地に足を着いていない時点で溜めが作れず拳に、足に力が行き届かない
殴れば簡単に止められるし、足を上げても碌な威力には成り得ない

せめて、少しでも良い…リベリオンを拾うだけの隙が―――

頭の中を回る言葉は
『プルートー』『リベリオン』『死ねない』『死なない』『冬華』『もう…死にたい』
思考までもが支配されつつある
あとどれだけ自分はここで耐えられるのか?
解らないが、それほど長い時間ではない事は解っている

「だ、れが…諦めるか…」

皮肉気に笑みを作って、強がる位しか出来ない
だから早く、頼むプルートー…









タンタンタンッ!
軽快な音を立てて、プルートーは現実でパーティー会場があった場所へ走りこんで来た
あれから大体十分強といったところか
祐一の表情を思い出して、プルートーはギリッと奥歯をかみ締めると、会場であるホールへと入り込んだ

「………?」

なんて事は無い
異常も無い
普通の、人間というファクターが取り払われただけのホールだ
プルートーはホールの中に足を進める

―――見えた

『幸せの小箱』
それが見えた瞬間再びプルートーは走り出した
次は、周りに人が居る訳でもない
全力で、今使える中で最強の魔法を行使する!

「―――揮性を持つ天の恵み、燃やし尽くす炎獄の紅牢、降り注ぐは紅の雨―――」

第一陣展開完了―――「降り注ぐ爆雨弾(プロージョン・ダスト)

部屋の至る所に出現する紅い礫
プルートーは更に詠唱を続ける

「―――世界を形成、夢見の猫が命令する、その力――指向性を以ってして唯一点の敵を貫け!」

第二陣展開完了―――指向性結界―――…

「吹き飛べ!!融熱の螺旋回廊(メルト・スパイラル)!!」

魔法展開の二段作用
広域用魔法に指向性――収束の結界作用を組み込む事で、一点集中型の魔法に強制的に切り替えてしまうのだ

ホールに散らばっていた紅い礫は、小箱に収束する様に飛び出した
一弾目――――結界に着弾
二弾、三弾、四―――――
そのまま数えられない紅い嵐がそこに挙って収束し、破壊の嵐を奏であげる!
そして―――

ズドンッッ!!

ホールの半分を飲み込む閃光が走った!

「僕だって、時間があれば戦闘中にだって活躍出来るんだ!」

へへっと得意そうに笑うプルートー
破壊の傷痕である煙は段々と晴れて行く
消えて行く破壊の残滓
そして『小箱』――は姿を現した

「うわ…やっぱり僕って役不足?」

目の前に広がる現状に、一転して表情を反転させる
自分の力不足を嘲るプルートー
そこにあったのは、未だ美しき球状の結界を展開させ、傷一つ無い『幸せの小箱』
プルートーは力無くヨロヨロとその場に近付いた

「は、くそ…魔法でも物理でも駄目だなんて…」

しかし、そこで希望を見出した
その美しき結界に走る、一筋の亀裂を――

「結界に―――罅が…ある?」

そうだ、思い出せ
祐一が言ってた事を
紅葉・エスティードが振るった神槍ブリューナクは、何の魔術効果も無い物だった筈だ
元々、紅葉・エスティードは戦争で功績を立てた武人
人間相手に魔力を込めて戦う様な真似はしていない筈
思い出せ…思い出せ…小箱を破壊しようとしていた時、ブリューナクに魔力は込められていたか?

―――答えは、NOだ!!

破壊できる!
あれは魔術性結界だ
弱い魔法では意味が無かったが、今撃った様にそれなりの威力を持たせれば破壊する事が出来る!!

「なら―――倒れるまで撃ち込んでやるだけだ!!」

そして再び詠唱
紡がれる言葉は陣を形作り、極彩の色を放つ
二発目―――――!!

「喰らえ! メル―――」
『待ってっ…』
「――ト・スパうわあぁっ!?」

狙いを定め、収束陣によって一点集中を図ろうとした瞬間、突如目の前に現れた女の子
プルートーはそれに驚き、二段目の指向性結界を霧散させてしまう
そのまま降り注ぐ一段目の魔法降り注ぐ爆雨弾(プロージョン・ダスト)が、敵味方も無く降り注いだ

「にゃ、にゃあああああああぁぁぁぁぁっ!?」









ゴウン、ン、ン…ッ!!

「ッ!?―――これは―――…」

未だ首を折られ続ける祐一の耳に届く破壊の音
祐一の首を絞めていた虚像は、その行為を一度中断すると音がした方向を見た

「城―――まさかっ!?」
「はっ…プルートーがやっと始めたみたいだな…」

侮っていた
あの祐一の横に居た猫には何も出来ないと
非力な存在だと侮っていた

「くっ―――だが、主には結界がある…そう簡単には…」

祐一はその言葉に笑った
可笑しそうに、時折咽ながらも笑ってみせた
ユウイチはそれに眉を顰め、手に再び力を入れ、笑う祐一を睨む

「何が、可笑しい…」

チャンス…
多分これが最後
だったら、精一杯、嵌ってくれ

「結界…ねぇ…それって、絶対に安全なのか?」
「そうだ、主の張る結界は無敵――非力な猫に破壊する事は不可能なんだ!!」
「ふん、それなら何で―――」

くっ、と祐一は唇の端を上げて笑った

「―――体が薄れてるぜ?」
「なっ!!??」

その言葉に動揺が走った
慌てて自分の身体を確認するユウイチ
しかし―――

「冗談っ!!」

一世一代の騙し
隙が生まれた
祐一はその瞬間残る力を振り絞り足を振り上げると、虚像の顔面に叩き込んだ

ゴッ!!

「くっ―――!!」
(しめたっ…)

緩む手を外し、祐一はリベリオンに手を伸ばし―――

「甘い!!」

ズグンッ!!

祐一の腹を貫く閃光―――剣
直ぐに動揺を押さえ込んだユウイチは、持っていた剣を反転
リベリオンに手を伸ばす祐一を貫いたのだ
だが、策はまだ終わらない―――

ニヤッ…

腹を貫かれた状態で祐一は笑うと、自分からズブズブと剣を埋没させた
それに驚くのは虚像の方だ
何をするでもなく、その狂行を目を見開いて見守る
そして

「捕まえた」
「―――あ」

喉から漏れる、小さな後悔の声
根元まで埋まった剣――それは祐一が虚像へと接近していた事を表す
祐一はそのまま虚像の手を左手で捕まえると、右手に持つリベリオンを、虚像の顎下に押し付けた

「まっ――――」

ダンッ!!

一撃目

顎の下から入り込んだ魔法弾はそのまま突き抜け、内部を破壊
その破壊を埋める様に、弾丸が通った跡を、血が溢れ伝う、が

ガンッ――ガガン!!ガガガガガガガ、ガウンッ!!――……チンッ…カチャンッ…

空間を埋めようとした血の流れを無視して、続けて十一発の弾丸が頭部を爆散させた
薬莢が足元で跳ねる音が虚しく響き渡り、意識をハッキリとさせる
弾層に残る全弾丸をぶち込んだ事を地面に着地した薬莢の数は教えてくれていた
ずるりと剣から手が離れ、原型を留めていない頭を地面へと叩きつけ行動を停止するユウイチ
虚像は、その場に転がって止まった

「…っち…」

祐一は腹に刺さったままの剣を引っこ抜くと、遠方に投げ捨て
空になったカートリッジを排出、先程渡されていた弾層を、リベリオンに差し込んだ
そして再び撃鉄を倒し、今は動かない虚像へとポイントする

ここでは自分で認めない限り、死ぬ事は無い

それを自分で実感した上で、祐一は虚像が何時立ち上がっても良い様に、リベリオンを構えていた
この世界で相手を確実に殺すには、即死という手段は問題がある
それは『自分が死んだ』、と認識が出来ないからだ
確実に相手を殺すのであれば、先程首を圧し折るといった事を連続的に続けてやればいい

そして、倒れていた虚像の手が動く―――が

「消えて…行く?」

さらさらと消えて行く虚像の身体
それは手先、足先、身体の末端から段々と光の粒子となり消えて行く
終わったのか…
祐一がそう考えた時、思念が頭に響いた

『―――見事』

元々は復活すると踏んでいた為、この程度の事では驚かない
祐一は「フン」と鼻で笑うと、口を開く

「どうも…」
『まさか剣を抜かずして僕に勝てるなんてね』

自分を嘲る様な、そんな思念
それは自分と同じにして、違う枠から生まれでたことが敗因
あの瞬間、母体を心配するが故に力を緩めた事――それだけしか敗因になる敗因は無い

「ま、やれば出来る…って事だな…」
『そうなのかもね…でも―――』

そこで、一息
思いの他重い空気が広まる

『君は、夢幻で見た夢を手に入れるのだろう? そのまま剣を抜かずして、何時か来る―――心配事…』

その言葉に――どくん、と胸が跳ねる
心配事、それは冬華の事
反転の先、自分の力で助ける事が出来るのか?その心配

完全、という訳ではないが元は同じ存在…ある程度は見抜かれていた様だ
それこそ完全に見抜かれていたらプルートーも今ここで一緒に地獄を味わっていただろうが

祐一は消え逝く虚像の言葉に眉を顰めた

『その心配事を越える事が出来るのか?』

その言葉に返事をせずに、ただ祐一は消える虚像を眺めた
腕が消え、足が消え、胴が消え――
全てが消え―――た

終わった

粒子は消え、ただ破壊された夢幻の町並みだけが残る
祐一は一つ盛大な溜息を吐き出すと、マーブリングされた空を仰ぎ見た

「そんな事は解ってるんだよ…アホたれ…」

さて、後はプルートーに任せよう

祐一はその場にしゃがみ込み、ザスコール王城を見る
幾ら、何度でも復元出来るとはいえ、何度も殺されすぎた
身体はどうにかなっても、精神のダメージが相当でかい

人間、普通の生活を送っていた方が死ににくいとは聞くが
今日、こんなにも異常な生活を送って来た自分に感謝を送りたい気分で一杯です
あー生きてるって素晴らしいぃ…ぃ…

バタッ…

磨耗し消耗しきった精神を休める為、身体は強制的な睡眠を求めた
祐一はその眠気に抵抗する事も無く、すんなりと気を失う様に眠りに着いたのだった









「ぶはぁ!! し、死ぬかと思っ―――あ、何度でも生き返れるんだっけ?」

ふぃーと瓦礫と瓦礫の隙間から這い出たプルートーは安堵の溜息を吐き出した
そして上見て左、右、後ろと確認
首を傾げた

「はて…女の子が出てきた様な気がしたんだけど?」

そう、そのお陰で二段構えである陣を霧散させ
指向性を失った魔法が、辺りを埋め尽くす様に降り注いだのである
確かに、存在した筈だ

『女の子――それは私の事ですか?』
「っ!?――誰だ!!」

透き通る、美しい声
プルートーは声のした方向へ顔を振り向かせる
そこに存在したのは――女の子
先程、目の前に出現した女の子だった

「――――」

その少女は『幸せの小箱』に座り、唯こちらを悲しそうに見ていた
その表情に、言葉が―――胸が詰まる
何て、悲しそうな表情をしているのだろう
これで夢魔としての能力で感応までしてしまったら、そのまま泣き出してしまいそうな感覚に陥る

「君は―――」
『私はリリス―――夢を司る精霊の姫…』

その言葉に、再びプルートーの言葉が詰まる
夢を司るって…知らないけど…直属の上司っぽいなぁ
とか、考えていたり
取りあえず“精霊”という言葉は聞き逃していない
それならば人間よりも、魔物よりも高位な存在という事になる
言葉は選ばなければならないだろう

「えっと――どうしてこんな所に居るんですか?」
『私は最終快楽を作る為の部品と成りましたから―――』

悲しそうに少女――リリスは笑う

「最終快楽とは何ですか?」
『最終快楽――それはこの小箱の名称です…』
「幸せの小箱の事…ですね?」
『幸せ?幸せですか?』
「え?えっと、何か間違って…?」
『“快楽”と“幸せ”は決して同義ではありません…』

悲しそうに笑うリリス
それと同時にふわっとプルートーの目の前に降り立つ

『最終快楽は元々――死刑囚の為に使われる物なんです』
「は? し、死刑囚ですか?」
『そう…最後に苦しまない様に、最後の瞬間まで快楽を与え、泣き叫ばない様に黙らせておく為の物なの…』
「なんて云うか…胸糞悪くなる様な…」
『そう…そして、死刑囚が最後に見る夢なんて碌な物じゃないわ…中には家族との団欒を見守るなんていうのもあるけど…殆どが病みつきになった殺人を繰り返す“快楽”や、女性を犯すなんていう“快楽”を最後に見るの…』

成る程、何となく読めて来た
プルートーは頷く
彼女――リリスは夢魔の姫
肉体を持つプルートーとは違う、今は思念体の存在なのだ
魔物のナイトメアという種族には肉体持ちと精霊体の二種類がある
肉体持ちは食事で栄養を補給する事が出来るが、精霊体は他種族の精神力を吸って生きている
そして、食事に質という物があるように、精神力という物にだって質は存在する
良質な物は、夢や希望に溢れた物
逆に悪質な物は―――

「悪意の感応がリミットオーバーを起こしたんですね?」
『うん…押さえ切れなくなった力は辺り構わず飲み込み、こんな結末を呼んでしまったの…』

そして再びリリスはふわりと舞い上がると、小箱の上に腰を下ろした

『だけど、これでお終い…最後に、誰かと話せて良かった…』
「えっ?」
『貴方の名前…聞かせて貰ってもいいかな?』
「プ、プルートー…です」
『そっか、それじゃプルートー君…私を破壊してくれる?』
「ちょ、ま、待ってよ! 死にたくないから虚像を呼んだりしたんじゃないの!?それだったら―――」

違うの――リリスは首を横に振った
翠色の綺麗な髪が揺れるが、そこに美しさは無い
それは表情が、疲れた物をしているから

『あれは自己防衛機能と悪意、そして私の善意が生み出した影――全てが織り交ざった物…その証拠に―――今、プルートー君と一緒に入って来た男の人が倒した影は、私の善意によって消滅した…』
「祐一…勝ったんだ…」
『女の人の方も次に影が倒れれば決着がつく…』
「そう―――」
『私はただ…最後に誰かと話したかった…ありがとうプルートー君…』
「でも……」
『私の為に悲しんでくれてありがとう…でも…私は―――』
「違う!」
『―――――』

プルートーの咆哮
間違っている
死ぬ、消えるというのは間違っている
他人の最後の苦痛を消す為に捕獲され、組み込まれた存在
自分でこういった結果を招こうとした訳じゃない
無論、創った人間もここまで考えてなかっただろう
一番筋違いなのは、リリス――彼女がその罪を一人で背負おうとしている事だ

「リリスは悪い事を何もしてないじゃないか!」

叫ぶ、不幸な少女に向かって
魔物には不適切な言葉?
違う、生物としての言葉だ
困ってる女の子を助けないで、どうしろって云うんだ!

「リリスが今回の事で苦しむのは違うよ。 僕は祐一が冬ちゃんを導いた言葉は知らないけど――リリスだって同じだ! 勝手に背負わされた罪で傷ついてる…」

冬華と同じ境遇の少女
望まずして背負ってしまった運命
皮肉だ
何時も運命を歪めるのは自分じゃなく他の誰か
決められない道の先に、自分のせいだと後悔する
生まれ、訓練の果てに不用品の烙印を受け捨てられた冬華
生まれ、最後の最後に自分が悪いんだと、全てを背負おうとするリリス

僕は、祐一みたく…上手くは救って上げられない、でも―――それでも…

「泣いてる女の子は見ていたくないんだ…だから、死ぬなんて考えないで」
『でも、私には、もうここから出るだけの力は―――』
「それだったら、僕が肩代わりする! 僕は君と同じ夢魔の血統だ、何とかなる」

リリスは、プルートーの瞳を見て頷く

『それは――肉体の無い私に対しての【 契約(エンゲージ) 】と取って構わないんですね?』
「構わないよ。 冬ちゃんに祐一が居てくれる様に、僕が傍に居るから―――」

リリスはもう一度頷いた
そして、微笑む

『なら、誓って―――私を傍に置いてくれると…愛してくれると…その身体滅するまで、共に居ると―――』
「誓う、僕は傍に居る事を誓おう」

最終快楽の輝きが増して行く
―――エンゲージ
精霊の戯れ
信頼の肯定
絶対の協力関係
プルートーは、それを交わした

『私の名はリリス…太古より息づく生命達の夢を司る存在…この命―――貴方に預けます』

世界が煌く
プルートーとリリスの間に生まれる魔力の流れ
個に存在していた世界は、今―― 一つの世界と成りえん…

ここに、後の世に記される、人に味方する者【 冥主(プルートー) 】が生まれ
最終快楽という名の一つの世界は終わりを告げた

夢の姫は、解き放たれたのだ











to next…

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