――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-3 Black EDEN−最終楽 ―――





























epilogue - 談笑する夢人



































「ああ、ほんとに今回のは疲れたよ…」
「確かにね〜」

焚き火を囲う黒猫と黒尽くめ
そして、男の膝を枕にして眠っている銀髪の少女

黒尽くめ――相沢祐一は、冬華の頭を撫でながら、木々の切れ間から見える夜空を見上げた


―――最終快楽の解放―――

遺産の破壊によって、罪を肩代わりする筈だった紅葉・エスティード
しかし、意外にも何のお咎めも無く彼女は解放―――
もとい、礼を述べられていた
今回の『最終快楽』の暴走は、余りにも範囲が広く
対処が遅れていたら一国が滅んでいたかもしれないからという事だった
王も責任を取る立場――善意ある王であって嬉しいと紅葉は語っていた

その後、紅葉に対して今回の件での賞が授与される事になったが、彼女は拒否
受けるべき人間は他に居るとの事で断った
その受けるべき人間というのは―――

「星が綺麗だな…」

そう、祐一だった
最終快楽が作り出した夢幻世界で失神した祐一は後日目を覚ますと逃亡
プルートーと冬華を連れてザスコールの街を後にしたのだった

理由は簡単

名が売れて行動に制限が掛かるのが嫌だったからだ
もう少し気ままな旅暮らしがしたい
売れれば売れるほど狙われる確率が上がるのがこの世界の法則
だから祐一一行はトンズラをかまして逃げたのだ

しっかりと紅葉・エスティードにその存在は知られているが…


「それにしても…」
「うん?」

星空を見上げていた祐一は、視線を戻すと焚き火の反対側に居るプルートーへと目を向けた
プルートーはその大きな黄金の瞳を一回瞬くと、不思議そうに首を傾げる

「召喚魔法、ね…お前って本当に変な猫だよな」
「ふん、祐一みたいな人種に云われたくないね」

リリスと契約を交わしたプルートー
そのお陰か、【 呼協詠呪(ハウリング) 】――召喚魔法を習得したのだ
五行の精霊や、エレメントの精霊といったメジャーな者であれば、偶に使役出来る者は居るが…

「だけど夢姫リリス…だっけ? 直属の上司を配下に置くってどうよ? それに、ねぇ…?」

大自然要素以外の精霊――しかも、【 夢 】を属性とする精霊を使役出来る猫
元々中級の魔物であったプルートー
これだったら早い内に上級に成り上がり、人化を使用できるようになるかもしれない
そんな映像を思い浮かべて、祐一は皮肉気な笑みを浮かべた

「うー…まぁ…確かにそうなんだけどさ…リリス?」

プルートーの呼び声

――召喚――

それに呼応して、プルートーの身体から光が溢れ
小さな影が生まれた

『はい、お呼びですか?』

身長140センチ程の少女
翠色の髪の毛にピンとはった長い耳
その美しい声色
夢幻に出現したそのままの姿で、リリスは姿を現した

「やっ、こんばんはリリス」
『あ、これはこれはご丁寧に相沢様』

ペコリと可愛らしくお辞儀するリリス
祐一はそれに微笑むと頷いて見せる
リリスは顔を上げてプルートーを見た

『それで、どうしましたかあなた?』

あなた…
あなた…
あなた…

リフレインする言葉―――あなた

「ふむ、プルートー…結婚式には是非とも呼んで欲しかったんだが?」
「だからさ祐一、これは違うんだって…」
『何が違うんです?』

何度もやっただろそれは、使い古したネタはやるなよ
どういう事ですかあなた
様々な言葉が氾濫するなか、祐一は小さく笑い声を上げた

夢幻世界で、エンゲージしたプルートー
その条件に『愛する』と『傍に居る』という言葉があったのは記憶にも新しい
リリスは召喚契約と同時に、もう一つの意味でのエンゲージ――結婚したと思っているのだ
つまり上司が配下になったとは云え、詰まるところ祐一の前に居る黒猫と少女は夫婦なのだ
祐一はそれを聞いてから、何度か『結婚式行きたかったよ、なぁ? プルートー…くっくっく…』
と、からかっていたのだ

「いや、あのね…リリス? 未熟者の僕には結婚は早いかな〜…なんて思って」
「未熟者は精霊とエンゲージなんか交わせんぞ〜」
「う、うるさい!」

くくっと、突如出来上がった修羅場を見て笑う祐一
まさにそこは異世界
「この子は貴方との子なんです!」「ち、違う!」
そんな空気が流れている

『確かに…そうかもしれません…』
「あ、やっと解って…?」
『けど、大丈夫です! あなたが人化が出来る様になったら直ぐに正式な契約を交わしますから!!』
「良かったな、操を立てる相手が決まってるぞプルートー?」
「にゃ、にゃあああああああああああああ!!」

深夜の森に響く一匹の猫の咆哮
悲痛な――けれど何処か楽しそうな声は、風に乗って消えて行く

「くくっ、さて…俺も寝るかな」

祐一は冬華の身体を微妙にずらし、眠る体勢をとり、空を見上げた
快楽を与えていた小箱―――最終快楽
どうやら、出来うる限り最善の結果が迎えられたようだ
祐一は耳に一匹と一人の会話を挟みながら目を閉じた

記憶に刻む“夢”であった現実の話
そして―――




次の物語を夢想して、相沢祐一は意識を手放した…












――― Stage-3 Black EDEN−最終楽 ―――

―END―













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