「奇跡の花束」













ザスコールとツォアルの間にある街で爆発的に売れた童話
それを執筆した少女――いや、女性は、とある会場の前に立っていた

「遅い…やっぱり来れないのかしら?」

小さく呟いて、懐中時計を確認
時間はもう直ぐ十一時を指そうとしていた

「後一時間…」

それまでに来なければ、一番良い時を逃してしまう

「あの二人にはどうしても、あの子の晴れ姿を見て欲しかったんだけど…」

数年前まで大病を患っていた妹
その妹を治したのは勿論医者だ
しかし、あの二人と――今、愛するあの人が居なければ――

もしかしたら手術は失敗していたかもしれしれなかった―――そう思う

だからこそ、来て欲しいのだが…

「美坂様…その人達は来るんですか?」
「根が浮いてる人達だから…」

根無し草
それに相応しい、旅をしていた二人だった

外見が目立つ二人
黒尽くめの目つきが悪い男
銀髪にスカイブルーの瞳を持った美しい女性
そして謎の黒猫…

そんな二人を待っていた

「どんな方達なんですか?」
「うん?――そうね…」

そこで二人を思い出してみた
思い出されるのは少しの間だが行動を共にした時間
楽しい、そんな日の出来事

「絵本のモデルになったのは知ってるんですけど…」
「ま、私の部下なんだからソレ位知っていてもらわないと困るんだけど」

そうね―――それなら少し語りましょうか

私の隣に立っている部下に

「時間もまだあるしね…少し話しましょうか?」
「いいんですか?」
「良いわよ。 そうね―――物語は街で出逢ったのが切欠だったわ―――」









語ろう、少し昔の物語を









「最初はバカかと思ったわね」










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