導かれるままに、それは進む
その出逢いは出遭いを生む

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-6 CARNIVAL《--- ----- & knight of night》- 殺戮舞踏祭 ―――





























#2 “死”神の思し召し



































ツォアル、第八区画

商業区から外れ、貴族達が住む場所から外れた区画
一般レベルの人間達が住む場所だ
そこからもう少し行けば貧民街が存在している
そんな区画を、一般人が経営しているだろう宿を探して祐一達が歩いていた
結局のところ、商業区に存在している宿は取ることが出来なかった
考えてみれば当たり前である。大規模な祭りの前日に宿を取る事など無謀以外の何物でもない
本来であれば祐一達も一週間前にはツォアルに到着し、宿を取って祭りの日まで過ごす筈だったのだ
しかし、その予定は祐一の負傷という原因から狂う事になった
つまりは自業自得
祐一は理不尽な怒りを天を仰ぎながら溜息と共に吐き出した

「ここで見つかれば良いんだけどな…」
「大丈夫ですよ。どんな無理にだって穴はあります。きっとみつかります」
「そうだといいんだけど…」

冬華の言葉に苦笑して、祐一は真っ直ぐに伸びる道の先を見た
ここが中心街から離れているとはいえ、それなりに人通りはある
祭り前とはいえ…だからか、この場所は何時も通りの賑わいを見せていた
そんな折、道の先から何かが近付いてくるのが見える
アレは―――

「人?」

人だ
物凄い勢いで走りながら、こちらの方へと近付いてくるのが見て取れる
その後ろにもう一人
その人物は銀の髪を中に舞わせ、その背には―――羽が存在していた―――

「っ!?」

祐一が息を呑む
冬華が驚愕するのが理解出来た
しかし、何時までも驚きに止まっている訳にもいかない
祐一達の空気が停止していたのは数秒、しかし、その数秒で人影は何メートル物距離をこちらに詰めているのだ

「―――ッ!!」

追いかけられている、何でも無い服装をした男が冬華を見て驚くのが解った
どうやら自分を追っている銀髪の少女の仲間とでも思ったらしい
その身体は進む方向を変え右折、貧民街の方へと地を蹴った
それと同時に追いかけていた少女はこちらに眼もくれず、相手を追いかけ、その路地へと身を滑らせていく

「冬華…あれは…」
「解りません…私の他にオリジナルは生きていない筈。それなら、生き残った者の血統か―――」
「それよりも追いかけた方が良くない? 余り楽しい雰囲気じゃなかったし」

今まで黙っていたプルートーの発言に祐一と冬華は頷く
悩んでいても解決はしない
それなら手っ取り早く本人に訊けばいい
プルートーの言葉に苦笑を一つ漏らし、祐一が駆け出し――冬華とプルートーは後に続いた









「居たっ」

程なくして、先程の二名が見つかった、が

「囲まれてますね…罠――だったんでしょうか?」

銀髪の少女、いや先程は良く分からなかったが――女性が囲まれている
周りに居るのは先程追われていた男を含む十人の集団
全員が何かしらの武装を携え、その顔に卑らしい笑みを貼り付けていた
手に持つのは魔道銃が殆ど
それと同時に飾り程度でナイフを数人が所持している

「どうする? 女の子の方に加勢するの祐一?」

プルートーの質問に、祐一は頷く――事はしなかった
物陰に隠れる二人と一匹の間に疑問を浮かべる空気が漂う
プルートーと冬華には感じとれなかっただろうが、祐一は違う
その空間把握という網に、ソレは確かに引っかかっていた

「よく見てみろ…彼女の周りに存在している空気を…」

祐一の言葉に冬華とプルートーがそちらを見る、と

「―――陽炎…? まさか―――」
「能力の展開待機、だね。どんな物かは判らないけど…」

それは薄膜の様に存在していた
通常、能力の展開待機状態では現象が既に空間上に視認可能状態で存在している
それこそ、祐一が入院中に相対した殺人鬼の能力の様に、空気を直接操る様な物で無ければ視認不可の能力等、そうありはしない
今の彼女が行っている状態は、無理矢理待機状態の能力を視認不可にしている様な物だ
それに加え、生来の魔力の高さが邪魔しているのだろう
抑えきれない力が、陽炎となって空気を歪めている

「―――動くぞ」

小さく、しかしはっきりと祐一が告げた
同時に、

バチンッ!

空気の爆ぜる音
指向性を持った雷撃が相手に中り、その動きを無効化するのが見て取れた
先手は女性の方だ
それと時を同じくして、彼女の背後に構えていた男二人が動く
スムーズな動きで魔道銃を構え、

「!!」

そのまま動きを止めた

「なっ…」
「【 捕縛 】の能力? いや、それならさっきの雷撃は―――」

驚きの声はプルートー
しかし、それを発していたのは聞こえなくても男達でも同じだろう
その意味は祐一が代弁している
人が能力を二つ持つ事はありえない
いや、もしかしたらあるのかもしれないが、そんな存在は今まで確認された事がないのだ
少なくても【 雷 】【 捕縛 】の能力を同時に持つ存在なんて今の今まで会った事すら無い

女性が動く
帯電した手が相手に触れ、炸裂
体内に流れた電流は、神経系を完全に麻痺させ、その動きを完全に奪う
一度の能力行使で並行しての使用はむりなのだろう、再び構えていた男二人が動いた
漏れ出す魔力よりも、男二人がトリガーを絞る方が圧倒的に迅い

タタンッ

乾いた発砲音が響き、それは的確に女性の身体に吸い込まれようとした
だが―――

ガキッン ン ン ―――

その魔道弾は呆気無い程簡単に弾かれた
通常、人が無意識に展開している魔力の盾は、何の力も無い弾丸の威力を殆ど殺す事が可能だ
その魔力の盾を貫通する為の魔道弾
しかし、それさえも跳ね返したのだ
なんて高い魔系資質
魔道銃では冬華にダメージすら与えられないが、まさにそれの焼き増しの如き光景がそこに存在していた

そこからは迅かった
魔道弾が効かないと判断し、他の戦闘方法に切り替えるという判断までに半数
やっと腰からナイフを抜くも、既に遅い

「【 爆ぜる銀の煌き(サンダー) 】!」

がん!、と空気と大地が振動した
先程に使用していた雷掌の威力なんて比べ物にならない
女性を中心とした空間に銀の煌きは放射され、辺り構わず、その景色を銀で塗り潰す
閃光が走ったのは刹那。しかしそれで十分
蔓延った銀の触手は、十人居た全ての人間の意識を刈り取った
完全殺傷出来た筈のその力は意識を刈るだけに止められたのだ

それを確認してか、女性が展開していた羽が収められる
今になって気付くが、冬華の展開出来る羽とは根本的に違う事が見て取れた
冬華の展開する翼は、その形をエネルギーの放射運動そのままの形にしているが、こちらは違う
完全に出来上がった形の羽、三対六翼の羽だ

ふぅ、と溜息を吐き出すのが判った
その光景を見届けると、もう安全だと祐一は腰を上げ―――異変を察知

「!!」

女性を囲んでいたのは十人だ。しかし、それで全員だと、誰が断定出来るのか?

少し離れた建造物の上に一人
男が女性に掌を向けていた

―――女性は気付かない

収束する魔力の流動
発動されるのは魔法、それか能力だ
それなら、碌に魔力を付加出来ない魔道弾では貫けなかった“盾”すらも貫く事が出来るだろう

「っ! 伏せろ!!」
「えっ!?」

祐一の咆哮に女性が顔をこちらに向けた
駄目だ、顔をこちらに向けていたら間に合う物も間に合わない
女性は事態を理解出来ていないのか、呆けた表情で祐一を見ている
それはまだ敵が残っていたと判断したのか、唯単に祐一の言葉を理解出来なかった為か
祐一が走り出し、冬華も同時に駆けた
祐一が走る方向はこちらを狙う男
冬華が駆ける方向は、未だこちらを向いている女性へ、だ

ドンッ!!

駆け出した瞬間と同時に、男の掌から青い炎が迸った
炎が映す色というのは、その炎自身が持つ温度と関係している
温度が低い順から赤、青、そして白となるのだ
それなら宙を滑り肉薄する青い炎は、普通の術士が使用する物よりも格上
普通より優れているだけの魔系資質しか持っていない祐一には、一瞬間で打ち落とす事は不可能
ならば、

「冬華っ!頼む!!」
「はいっ!」

祐一の声に、冬華が了解の声を上げた
それと共に、冬華の口元に笑みが浮かんだ

「《圧縮言語》、魔術消滅領域展開(イレイザーファンタズム)

空想防護を応用した魔法否定術が女性と冬華を包む様に展開され、不可視の鉄壁をその眼前に晒す
魔法に対してはかなり高い対抗力を持つこの魔法だが、その分対物理障壁――ミスティック・ガードよりも直接的な攻撃には酷く弱い
だが、この場所で展開する魔法の中では、一番賢い選択と云えるだろう

冬華の、全ての詠唱が圧縮され詰め込まれた発動言語によって展開された魔法は相手の放った魔法と接触
短縮詠唱と同じで、圧縮言語で放った魔法も威力が若干落ちるとはいえ、冬華という存在と、普通の人間では根本的な魔系資質が次元違いだ
接触した青色の猛威は、呆気無い程簡単に不可視の壁の前に霧散する

「なっ!?」

男の顔が驚愕に歪む
しかし、本当の驚愕は未だ訪れては居ない

「《詠唱短縮》、与えよ! 翼を纏う権利! 身体に纏う風の衣(レビテーション)!!」

男が居る建造物の足元で、祐一が飛翔魔法を唱える声が響いた
それと同時に祐一の身体にかかる重力の束縛が緩む
普通の術士よりも優れているとはいえ、祐一は飛翔魔法を極めている訳では無い
よって、自由に空を飛んだり出来る訳ではないが、これだけで身体を鍛え抜いている祐一にとっては数メートルの高さなど簡単に飛び上がる事が可能だ

武器を選択―――
刷り込まれた意識は手に魔道銃リベリオンを手繰り寄せ、その手に鈍い感触の金属を握らせた

「っ―――――!?」

眼下から高速で飛び出してきた祐一に相手が怯む
高速で対応を行おうとするが最早遅い

ガガンッ!!

二発の発砲音が響き渡り、それは宙を滑り、空を切り裂き肉薄
洗練された射撃精度で放たれた魔法弾は、寸分の狂い無く男の右肩と左膝に着弾する
接触――爆砕
貫通する際に魔法弾は予想以上の破壊を行い、この場での男の活動全ての権利を根こそぎ奪い去る
突き抜けた傷口からは一瞬送れた後に血液が噴出し、即興の噴水が出来上がった

「があっ!?」
「―――っは」

歪に口元を曲げて祐一は哂う
その―――噴出す紅い液体を眺めて
その、紅い光景は、記憶に潜む闇を呼び起こす
だが、闇は起き切らない
まだ、それを起動する為の鍵が足りない

タンッと軽快に屋根を蹴り、再び宙に身を投げ出す
重力制御されたその動きは、祐一の身体を緩やかな速度で地面へと送り届けた

ここまで、僅か数秒―――

大地に降り立った祐一は、自身に掛けている重力制御を解呪
それと同時に普段から慣れ親しんだ自分という重さが身体に心地よい重さを掛ける
それと同時に一つだけの溜息を吐き出すと、祐一は背後に居る筈の、二人の銀の少女を見やった

「ナイスだった俺、そして冬華。感謝感激だな、うん。そうは思わないか?」
「…は?」

ぴっと人差し指を名も知らぬ銀の女性に向けながら、祐一は変な事を口走った
これはアレだ、つまり自身が敵ではないと知らせる為の物だ
だけどこのアホな対応は逆に怪しまれる物だと祐一は理解―――してない、と見せかけて理解している
北川と別れてから馬鹿トークに餓えている祐一は、怪しまれない為に釈明する為の場面でボケたのだ

バリィッ!!

「にゃー!!」
「ぐあっ!! いてぇ!!?」

助走をつけて跳んだプルートーが祐一の顔面に横一文字の紅い線を引いた
流血しながら地面に転がる祐一と、それを見て人の言葉を喋らない様に息を荒げているプルートー
それを見ながら「痛そうです…」と呟く冬華の後ろで、銀の女性は溜息を吐き出した

「大丈夫…別に疑ったりしないよ…」

ぴぴっとご機嫌な電波をキャッチ
それを聞いた瞬間に祐一は身体に着いた埃を落としながら立ち上がった
今一本気でやったボケなのか計算なのか判らない
この動作に、早くも女性は二度目の溜息を吐き出す

またこれは…変なのに助けられちゃった、かな?

その溜息には少なからず、何か悲壮なものが含まれていた











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