ふと、考えた
最初は何の為に強くなろうと思ったのか
今は、何の為に力を欲しているのか

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-6 CARNIVAL《--- ----- & knight of night》- 殺戮舞踏祭 ―――





























#6 朱界に沈む躯



































ガキュッ―――インッ!!

薄暗い世界に甲高い金属音と閃光が舞う
世界は完全な闇に閉ざされている訳でも無いのに、舞台に上る役者は見る事が出来ない

ギッ、ガキュ、ギギ―――ガ、ガガガガガガン!!

四方八方から飛び出す魔法弾が射出される時の閃光が闇を照らす
ギリギリ視認出来る、それでもほぼ線でしか確認出来ない七条が闇を穿った、が

「甘い、ぜ!!」

闇に男の声が響く
その瞬間に現れた男は、その七条の閃光を、唯剣を掲げるだけで無効化してみせる
消え去った魔術的概念である魔法弾は、夜帝・獅雅冬慈の持つ魔剣の力により、その効果をキャンセルされたのだ
それに対し、相手の感覚を錯乱させる様に、三次元立体空間を上も下も無く駆け抜ける祐一は舌打ちをした
相手との武器の相性が悪すぎる
祐一の、魔力の弾丸を射出する魔道銃に対し
その魔力、魔術的効果を全てキャンセルしてしまう魔剣――夜斬り(ファンタズムイレイザー)を持つ冬慈
いや、武器だけの相性ではない
その冬慈が持つ特性は、今の祐一を殺す為にあるといっていいほどに最悪の物だ
現在の祐一が持つ戦闘手段は、魔道銃による攻撃と、魔法による攻撃である
つまり現在の祐一にとっての相手を倒す手段は、クロスレンジで相手を直接殴らなければならないのだ
そんな無理な話は無い
だが、冬慈が祐一の天敵である様に、冬慈にとっては祐一が天敵なのだ

イ――――ッ

細かい、床と金属との接触音を聞いて、祐一は真後ろにリベリオンを流す
次の瞬間には、二人の眼前では閃光が舞い散る

「流石、流石だ。俺の動きをここまで見切るか!」

歓喜する顔
冬慈の顔が歪むと同時に、祐一はリベリオンに添えていた腕を下に差し出す

ゴッ!!

相手を断ち切る様に、近距離で放たれた蹴撃
それは祐一の腕に食い込み骨を軋ませるだけに留まると、再び距離を開ける
霞む様に祐一の眼前から消える冬慈
それと同時に祐一は死天の業【瞬歩】を使い闇を駆けた
地を蹴り、天を蹴り、壁を蹴って、冬慈が存在する空間を舞い過ぎる

「………」

視覚で確認出来る限り、そこに立つ冬慈の“数”は“十二人”
その全てが冬慈であり、全てが死を届ける告死の存在だ
冬慈の使用する戦闘技術――『水面舞葉』
特性としては冬華の使用する暗殺歩術・落葉に近い
否、冬華の使用している業が原点であり、その流派が極め、代を重ね、磨き上げたのが『水面舞葉』なのだろう
進化した点は、蜃気楼が殺傷性を持った事だ

「さて神剣、次は十二閃だ。――――――中るなよ?」

冬慈が口の端を吊り上げた、と同時に祐一は意識を“見”から“視”に80%の意識を預ける
焦点の合わなくなった眼光は、既に勝負を諦めた様にも見えるがそれは違う
祐一の感覚内で増幅された“意識”は完全に三次元空間を心中に投影し、その物体・流体・歪曲の情報を世界より引き摺り出す
その感覚により、空間を斬り裂く十二条の白刃の軌道を視た
それが、祐一が冬慈という存在の天敵である理由
全て気配を持ち、殺傷性を兼ね備えた死すら見切る事さえ可能な【空握】という業を持つ祐一の特性

「ぐ、あっ―――」

口から漏れる苦悶の声
割り出した白刃を全て避ける為に、祐一が身体に急制動を掛けて無理矢理止まる為に漏れた悲痛だ
距離を開ければ必殺の危険性を冒す事も無いのだが、それでは相手を倒す事など不可能だ
一歩距離を開けば、一瞬立て直すのが早くなり、
二歩距離を開ければ、冬慈レベルの人間では確実に追加斬戟を放ってくる
なら、一歩でも二歩でもなく相手の間合い境界でギリギリを狙い、カウンターで敵を仕留めるしか方法は無い

ひゅ、ゴウッ!!

瞬間―――繰り出された十二条の白刃が祐一を囲う牢獄と化した
空を裂き穿つ一撃は空気を弾き、真空を伴って祐一の真横をすり抜けて行く
それだけで血が流れる
伴った真空は身体中に刃の後を残し、必中であれば死んでいただろうと思わせる程の威力を思い起こさせる
十二条を避け終えると同時に冬慈が“一人”に戻った
乱れ狂う大気の余韻を感じながら、祐一はリベリオンを振り上げる!

ッガキ ィ ィ ッン!!!!

「チッ…」
「くくっ…」

神速で繰り出された鈍い色の銃身は、されど弾かれ届く事は無く
その必殺の状況に仕留められなかった自分に対して祐一は舌を鳴らす

冬慈が幾つもの実体を持った幻影を操っているのは歩法のお陰だ
揺らめく緩急自在の動きはそれだけで残像を生み出し
“氣”で以ってして刃に殺傷性を持たせているに過ぎない

―――獅雅冬慈は魔術を遣えない

魔力を練り、鋭化する魔術という物は、“氣”の概念とは酷く相性が悪い
冬慈が遣える魔術は、唯相手を解析し、攻撃するでもなく、構造(ロジック)介入を行うだけの物なのだ
『獅雅』の名を持つ人間は、根本的に魔術を使えない
それなら魔術師というのは語弊がある
彼らは【 仙人 】と呼ばれる、今は殆どが絶滅したとされる“流派”を受け継ぐ者達
今の世には廃れた言葉を掲げる一族
血の繋がりは無く、先代が気に入った者を養子として迎え、その業を伝えるのだ
その中でも獅雅冬慈は天才であり秀才であるだろう
能力を持つ要素を自ら捨てたとはいえ、それを上回る要素を、今は廃れた誰も彼もが使わない“魔術”から極めたのだ
氣を所有すれば、根本的に魔力を持つ事が出来ないにも関わらず、だ
彼はやってみせた
殺傷性すら持たない筈の魔術で敵を無力化し、その業を以ってして敵に絶命を与える
そんな特異な存在だ

「―――葬奏閃穿乱菊、第十二条連―――次にステップアップしようか、神剣!!」

歓喜を吼え、再び冬慈が歩き出した
一歩、二歩、そして

「次は二十四か…」

足音が無音の領域に還り、それと同時に冬慈の数が増す
眩暈を感じる様な現実に、祐一は深く息を吐き出し低く腰を落とす
先程は十二、今は二十四、そして過去の映像内では三十六が最高の伎だった、と思う
死亡確率は単純計算で二倍
それなら、こちらもそれに対応して意識を研ぎ澄ます他はない
別に動きが衰えているという訳ではないのだ
それなら、付け入る隙は在る

ユラユラと揺れる蜃気楼が視界を満たす
どれが本物かは氣という概念が邪魔をして割り出す事が不可能だ
だから先程の様に冬慈が業を放った瞬間の、歩みを止め、一人に戻る時を狙ったのだ
しかし、それでも相手を仕留める事が出来なかった
なら、速く、もっと疾く、神速の一を極める一歩を―――

「第二十四条連―――」
「―――――ッ!」

搾り取られる様な感覚と共に、全ての意識を空間把握に傾ける
眼で見える世界は完全に色を亡くし、モノクロが浮き彫り立つ
心の中に捉えた空間中の情報を極限にまで把握し、障害の位置を計測し、軌跡を読み、影響を推測し、完全なる唯一つの“路”を割り出す

左右前後斜めから襲い来る白刃
空に逃げても追撃は必至
だから祐一は、情報通りに身を捻る

ひゅ、ガウンッ!!

大砲の弾丸が空を穿つ様な音を聴きながら、初戟の太刀――六刃を避ける
樽の中に剣を刺し込んで行く遊びの如く、刃は世界を侵し逝き掻き乱す
その暴力の中を、唯祐一は視える光景通りに動き、走り、身を投げた

ビ、ヒュガンッ!!

二十三条目を避け、そこになって意識を戻した
見える
二十四条目を視覚し、それに対して鈍器を構えた
的を穿つ為の最終戟は、絶命を狙う刺突
それをリベリオンに当て、静かに逸らす

ギッ、ギギギギイギギギギギギギッ―――――!!

耳を劈く狂音を抜け
完全に間合いへと入った
最後の一戟を打ち出すと同時に、その身体に残像は収束
その本体を晒した

―――行ける!!

突き出すそれは、刃を思い起こさせる程に鋭い一撃
狙うのは中心、心臓部
空を裂き、その銃口が突き刺さ―――――

ビッ――――

「なっ――――」

外、れた?
タイミングは合っていた
相手の終了モーションに合わせた筈だ
しかし、何で、外れた?

ガギッ!!

「ヅ、ハッ!!?」

呆けていた瞬間、頬に何かが接触した
意識がぶれると同時に、しかし呆けていた意識が覚醒する
眼前スレスレまで迫っていた灰色の石畳を前にして、祐一は咄嗟に手をつき回避
何とか顔面から接触せずに身体を庇う
どん、と身体の一部が接触すると同時に身を爆ぜて身体を起こす
勢いのついた身体はザザッと地面を進みながら止まった

「はは、今のは一瞬だけ驚いたぞ?」
「何で…」
「ん?」
「何で、どうやって今のをかわした?」

祐一がその言葉を発すると同時に、冬慈の眼光は細まる
ダラリと下げられた魔剣は持ち上げられ、その切っ先が祐一に向けられた

「解らないか、神剣」
「何?」
「俺とお前の持つ得物の長さは?」
「!!」

冬慈が放った言葉で意識が飛びそうになった
なんて、事だ…なんて…

「無様だ…」

絞るように、恥じる様に言葉を紡ぐ
間違いは露見した
余りにも、無様すぎる

「貴様のリーチは、未だ剣を携えていた時の間合いの様だな? それによって目測を誤った、か。無様だな」
「黙れ…」
「貴様が何故剣を持っていないかは不思議な処だが、何にせよ武器を変えた処で未だ間合いは剣の物…愚かなのにも程があるぞ? それが嘗て名を馳せた人間の姿か? とことんまで堕ちるか―――」

やめろ、言うな、云わないでくれ
覆い隠してきた現実に罅が入る
水圧に耐え切れず、ココロの水槽が嫌な音を立てて軋む

「黙、れ…」

眼前の、手で覆う闇の向こうで冬慈が口を開くのが解る
ああ、壊レ、て、シマ、う―――

「―――神剣(なまくら)が」

ピシリ…

「黙、れえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」

絶叫
それは咆哮というよりは絶叫だった
両手を耳にあて、頭を振って事実を否定しなければ全てが終わってしまう

違う、違う、違う、違う、違う!!
俺は、間違ってなんか、いない!!

だらしなく頭を振り、頭髪を掻き毟り、無様に頬を伝いそうになる涙を拭う
否定、否定、否定、否定、否定、否定―――――――!!
自分は剣を捨ててもやってこれた
間違ってなんかいない
正しい判断だったと云える筈
魔道銃だけでも大丈夫だ

そうは云いながら、最近まで、北川に圧し折られるまで、お守りの様に剣を持ち歩いていた
ああ、そうだ、俺が剣を持たなくなったのは新たに歩む為にではない
冬華に頼り、冬華の存在に安堵して、その存在を“切り捨てて”いたのだ
頼られていたのではない
俺こそが真に頼っていたんだ

表の入り口には笑いあう自分と冬華の姿
裏口には、そこら中のモノがブチマケタ紅を被り、薄汚れながら立つ自分の姿
世界に罅が走る
押さえ込んでいた劣等感が爆発する
恨みが、妬みが、羨望が、全ての憎悪が鎌首をもたげた
唯冷静に、冷徹に、怜悧に、―――――殺せ
忠実に、疑問無く、速やかに、――――殺せ
誰に責任が在るって?
否定なんかするな、向き合うしかない現実だ
誰のせいで彼の人は死んだ?
お前のせいだろう
お前のせいで、お前が殺した
お前が首を刎ねた
そのどす黒い血で汚れる、薄汚れた罪人のお前が!

その、黒い刀身の剣で、



















―――実父の首を刎ね殺したんだろうが!



















「あ、ああああああああああああああああああああああああ!!!」

瞬間的に祐一の身体が霞んだ
その光景を視認しながら冬慈は笑った
待っていた、これだ―――これが、闇と光を同時に内包する男の本質だ
肌を直接切り裂く様な殺気
薄汚れた、世界を腐敗させるほどの禍々しい瘴気
ただ、惜しむらくは…

「剣を持っていない事か…」

悲しく残念に呟く
瞬間、横殴りの一撃が空気を弾きながら襲い来る

ガギンッ!!

「っ――――!」

衝撃が刃を持つ腕を伝って芯に響く
痛い、しかし、先程よりも“重み”が欠けていた

「悲しいな、神剣」

振るわれた一撃を弾き返し、今は既に視認出来ない祐一に呟いた
こうなってしまっては、神剣の内を見る事は出来ても本来の目的は達成出来そうにはない
―――長年に渡る決着を
他人の傷口を少々深く抉りすぎた様だ
まさかここまで取り乱すとは思いもしなかった
だが、なってしまった事はしょうがない

「止めるぜ、今すぐな」

また一つ、小さく呟く
そして冬慈は歩き始めた

一歩、二歩―――世界が揺らめく

―――葬奏閃穿乱菊・終・第三十六条連―――

ゆらり、と世界が揺れ、告死の者達は姿を現した
しかし、コレが本命ではない
これはあくまで相手を囲う為の牢獄
唯の猛獣と成り果てた者を捕らえる為の檻

ヒュ――――

来る
そう感じて刃を振り下ろした

ガギッギン、ガガギィ――、ガガガガガギ、ギン!!

金属と金属の接触音
ただ耳障りな不協和音が奏でられ、その場に全ての斬戟を流し、捌き、直進してくる祐一が姿を現した
その姿は傷だらけ
まず間違いなく、あの頃の、一番最初に出逢った戦場の姿だった
冷たい瞳をして、ただ忠実に殺戮を叶える魔人
しかし―――混沌を内包し、何かに戸惑う思いを持つ、その色は…

景色が高速で流れる
ぶれそうになる意識で、終わりを告げに来る死神を直視した
何も祐一にとって冬慈が死神だという訳ではない
互いに互いが死神だ
その事実に冬慈は全身の肌が総毛立つ感覚を得る
歓喜とも狂喜とも恐怖とも取れる感情で

ガギン ン ン ッ――――

三十六条目と、仕留める気で繰り出されたリベリオンが宙で火花を散らした
今ので祐一の持つリベリオンは使い物にならない位に破損しただろう
幻想期の遺産と、現在の金属では結果そうなる
恐らくは、いや、予測しなくても次が最後の一撃
互いに襲い来る衝撃に身を任せ後退
地下に広がる空間最大に距離が開く

「―――――ッ!!」
「がああああああああああああああああ!!!」

―――告死・出神ノ太刀(いずるかみのやいば)
―――穿殺・天栄魄想戟

冬慈が纏う空気が一遍する
大気は揺らめき、体内を巡る氣が解放されたのだ
魔術的概念を阻止する刀身は成すがままに氣に纏わりつかれ、その乳白色の刃を金色に染め上げた

それに対し祐一
身を屈めると同時に、爆発的な加速で初歩を踏み込みその場から消失
床に蜘蛛の巣状の罅を入れて、超低空で地面を舐める様に疾る

冬慈が上段に刃を構えた
そして迫る祐一を見ながら今更ながらに思う
もし、互いに遺産や呪器の力を以ってして本気で闘っていたら?
それはもう、会場は崩壊し、大変な事になっていただろう
だからか、人間的な力で以って闘えた事には感謝する!

ぎり、と一際強く、その柄を握り冬慈は刃を落とす
ガゴン、と震脚で踏み込み、祐一が手に持つ壊れかけのリベリオンを差し出した
流星を思い起こさせる金色の一撃と、最早光学兵器を思い起こさせる程に鋭く疾い一撃
交錯し、互いの命を―――――穿つ!

―――斬!!
―――轟!!









ぱきゃ…









「―――ご、ほっ…」

ばしゃあ、という音を立てて祐一の身体に斜めの線が走った
手に持っていた魔道銃リベリオンは既に役目を終え、柄と半壊した銃身しか残っていない
その壊れた武器を握りながらも、手は力なくダラリと下げられ

ふらっ…

もたれかかる様に冬慈の身体に祐一は倒れこんだ

「………」

全身を紅に染め上げる祐一を唯静かに返り血を浴びながら冬慈は静観する
終わった…
余りに呆気ない終わり方だった
冬慈は左肩が砕けた感覚に眉を寄せる
刺さり、本来であれば魔術的能力で爆裂四散する筈の肩は、殆ど骨折のダメージのみで終わってしまった
叩きつけられる痛みを感じながら振り下ろした一撃は、簡単に最後の一撃を放ってきた祐一の身体を裂いた
肩口から入り込んだ刃はそのまま胸部を裂き腹部までを裂く裂傷を与えた
それだけで軽く致命傷でありながら、裂く際に氣の威力でもって体機能を完全に麻痺させている
加え、即死させない程度に、胸骨にまで裂傷は届いているのだ
俯くその姿には既に覇気は亡い
永くせずして、祐一は死に至るだろう

びちゃ、ぴちゃりと音を立てて、冬慈の身体から滑り落ち地面に膝を付く
流れ落ちる血液は床に広がり鮮やかな血溜まりを作り上げていた
そのまま膝立ちだった祐一は横に揺れると、横になるようにして血の海に臥した

―――永くて、後二十分程度の命

そう、崩れ落ちた祐一を見ながら冬慈は思った、その時

「……か…?」

祐一の唇が動いた
それを見て、冬慈は肩膝を付くと倒れ臥す祐一に顔を寄せる

「俺、は…無様、だ…か?」
「………」
「無様、な…まま、終わったか、獅、雅―――?」

絞り、顔面を蒼白させている祐一
その表情を見ながら、冬慈は云う

「いや…最後の攻撃、過去に逢った時程に良い一撃だった」
「そう、か…」

顔面の半分が血溜まりに浸る状況で、祐一は騎士の様にその言葉に頷いていた
彼は剣を捨てても未だ騎士のまま
それを感じ取り、その高貴な存在が消えてしまう前に訊いて置きたい事が冬慈には存在する

「何故、剣を?」
「………」

無言―――拒絶
冬慈が放った言葉に、一瞬だけ祐一の目が大きく開かれたが、それ以外には何も無い
否定と取った無言に唯「言えないか」と呟き冬慈は立ち上がった
そして去ろうとする、その背に祐一が声を掛けた

「俺は、このまま、死ぬ、のか…?」
「…その傷と出血量だ。もう助かるまい」

そしてまた無言
それは受け入れる為か、それとも否定する為か
多分前者だろう
冬慈の中で祐一とはそういう在り方をしている
それに一度だけ悲しそうに眉を寄せ、冬慈は背を向けたまま所々破損した天井を見上げて呟く

「何か言い残す事は? 聖女アルミオネの名の下に、その言葉を聞き届けてやろう」

それに祐一はもう殆ど動かない腕を上げ、照明輝く天に翳す
それは―――もう触れられない物を触れるかのように

「生憎と、残す言葉は無い。…伝える、言葉しか…持ち合わせちゃ―――」

そして、翳していた腕は―――堕ちた
最後に冬華、と呟く声が聞こえた様な気がした











to next…

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