虚しかった
それは、楽しみを失う子供の様

それは、青年と少女の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-6 CARNIVAL《--- ----- & knight of night》- 殺戮舞踏祭 ―――





























#7 幕を下ろす役者



































「終わったのか」

そう呟く冬慈の瞳に感情は無い
長年に渡る決着をつけたからといって、浮かれる事は無かった
ただ、無念だけが募る

「少しだけでいい、その少ない命…永らえていろ」

小さく、自分に聞こえる程度に呟き、冬慈は地下の空間を出た









「冬慈」
「アリスか…」

聞こえてきた声に、相手の名を呼ぶ
そこで待っていたのは金髪に碧眼の女性だ
寄ってきたアリスは、ダラリと下がる力無い左腕を見て眉を顰める

「―――冬慈、その左腕は」
「ああ、神剣だ。参ったね、砕かれたよ。これでアイツが剣を持っていたなら上半身の左全部が吹き飛んでたな」

その時だけ、本当に嬉しそうに冬慈は笑う
狂っているとも言えるだろう
その痛みを感じ、冬慈は笑っているのだから
そんな楽しそうに笑う冬慈を見て、より一層アリスは表情を険しくする
本気で怒っている証拠だ

「―――冬慈」
「ああ、解ってるよ。お前が言いたい事は解ってる」
「だったら、少しは自分の身体です。御自愛下さい」

それに一つだけ頷くと、冬慈は歩き出した

「それで状況は?」
「『戦闘趣向者(ピースメーカー)』、『朱き魔剣立つ荒野(フランベルジュ)』が交戦。弐級位二人と参級位を一人殺害、そして―――」
「成る程、討ち損じた奴がここに、か」

その声と共に、一人の影が現れた
黒いタキシードを着込んだ、会場に居る客に見えない事も無い人物だ
その青年は、冬慈とアリスの姿を確認すると、一瞬だけ驚いた様な表情を作り、直ぐに笑顔になった

「あ、もしかしてナイト・オブ・ナイトの獅が―――」
「下手な芝居はやめろ三流。今の俺はやる事があるんでな、このまま尻尾を振って逃げ帰れば見逃してやらん事も無い」

完全に空気が凝結する
青年の表情も笑顔から能面の様な無表情な物へと変質
冬慈を前に、白を切る事が出来ないと踏んだのだろう
戦闘者のソレらしい気迫を持った面へと変わる

「よく解りましたね。私が敵だと」
「阿呆か貴様。ここに通じる通路には五人の警備を巡回させている。その警戒を抜けたのか片っ端から殺したのかは知らないが、一般人ではここに辿り着く事はありえん。目的を持った、それなりの力を持った奴じゃなければな」

くっと口の端に笑みを貼り付けて冬慈は哂う
余りにも下手な演技
敵は本気でここ―――ツォアルを落とす気でいるのだろうか?
戦士は上等でも指揮官が屑か
または―――

誰かの思惑通りに動いているのか

「“龍”の構成員で間違い無いな?」
「ご名答です、剣聖。私は一級位、ロード候補第六位【 静音の処刑鎌(クラシック・サイス) 】」
「ほう、それで?」
「貴方の命、貰い受ける」

そう相手は告げて、その手に“何か”を握った
―――エネルギー量操作による物体形成か、光学屈折による得物の不可視化か
まぁ、そんな物はどうでもいい
冬慈は、前に出て冬慈を護る様に立つアリスを見ると、その肩に手を掛けた

「アリス、俺が相手をする」
「しかし冬慈。貴方は腕が―――」
「関係無い。ここから先は俺の友とも呼べる男が眠る場所、それを冒そうという者は、俺が直々に抹殺しなければならない。それに―――」



















「俺が殺れば、三秒で終わる」



















「何?」

クラシック・サイスを名乗る青年は、不快そうにその声を上げた
そしてアリスは、そうですか、と唯一言だけ言うと一つ礼をして冬慈の後ろに下がる

「私はロード候補の六位だ。貴方はそんな私を三秒で殺せると?」
「そうだな。一秒で殺れない事も無いが、少し凝った趣向で殺そうと思うのでね。三秒がお前の限界だ」

その、虚偽も何も無い、本気でそういっている冬慈
その言葉に、今度こそ男は激昂した
それに冬慈は哂う
愚か、と
解っていない、こいつは何も理解していない
なら教える必要がある
まぁ、気付くのはあの世でだが―――

そして禁は解かれる

全開放(フルドライヴ)だ。消滅を決定付けろ―――夜斬り」

いつしか握っていた乳白色の刀身
それに文字が纏わり付いた
現代語でも旧時代の文字でもない―――もっと古い時代の文字
―――原典文字―――
誰かが呼んだその文字
“最初”に生まれた文字達で綴られた魔術的意味
それが宙を舞い、刃を覆っていた

「それが何だ!!こちらは知っているぞ!貴様の遺産は魔術を解除するだけだという事を!!」

叫び、青年が駆け出した
自分の特性を知っているという事は、彼が使っている能力はエネルギー操作ではない
多分、光学屈折だろう
解除されても、それならば得物は手元に残る
だが―――

「無意味」

歩き、霞み、揺れ、刃を振るう
相手はギリギリで気付いて刃を避けるが、その切っ先が腕を掠めた

「それが――――」
「………」

男が勝機を見出し、己の勝ちを宣言しようとする
だが、冬慈の眼光は何処までも冷ややか
射抜く先は、小さな掠り傷
そう―――刻まれた、幾何学模様の十字傷

「その程度が剣聖夜帝たる貴方の力か!!」
「刻み付けた聖痕(スティグマ)より標的固体指定、【存在率】解析、構成存在解析終了―――」




「死ね剣せ――――」
自己崩壊(ブレイク)―――塵に還れムシケラ」




すかっ…

「え?」

眼前に佇む冬慈、それに鎌を振り落とした筈だった
しかし、間合いすらも完全に計って討ち込んだ一撃は中る事は無かった
冬慈はつまらなそうにこちらを見ている
そして、何となく異変に気付き、手元を見た

「あれ?」

腕が無かった
可笑しい、自分は何時の間に光の屈折を身体にまで施したのか
いや―――違う
肘から先には、慣れ親しんだ重みが無、い?

「あ、ああ!! ああああああああああああああ!?」

その現実に恐怖した
よく見れば肘から上も消失が始まっている
さらさらと、さらさらと、まるで身体が砂で出来ていたかのように
徐々にだがそれは侵攻し、やがて二の腕にすら到達した

「い、やだ! と、止めてくれ! コレを、身体が零れるのを止めてくれえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

泣き縋る男、崩れ落ちて行く男
それを見て、冬慈は冷酷に哂う

「聖女様の名の下に。クタバレ雑魚」

にいっと楽しそうに冬慈は哂った
それを見て、完全に絶望する
格が、違いすぎる
余りに圧倒的だ
言い表すならばそれは―――

「化、物…」

その言葉を最後に、崩壊は心臓部と脊髄にまで至った
それを見届け、冬慈は冷たい、暗い瞳でそれを見る
祐一の瞳から除ける闇が、そこに在った
内在する罪が、その世界に棲んでいた

「知らないなら教えてやる…ロードは全員、半分人間の面を支払ってるんだぜ?」

つまらなそうに冬慈は告げる
それを後ろで控えていたアリスは悲しそうに見つめた
アリス・R・獅雅
彼の妻は、その男の背中を見つめ続けた
彼が背負っている物、その全てを聞き、見届けてきた女性は、ただその光景を眺めていた
やがてそれも終わり―――
崩壊が完全に終了すると同時に、冬慈の瞳に光が灯る
それと同時に、冬慈はアリスに振り返る事無く歩き出した

「アリス」
「はい」
「俺はこれからやらなければならない事がある」
「…はい」
「後処理…任せた」
「私が、その役目を負っても良いのですよ?」

ピタリ、と歩みを止め、そのアリスの言葉に冬慈は笑みを深めた
優しい笑みだ
先程の暗い物とは違う、本当に優しい―――

「―――いや、そう思ってくれるだけで…俺は十分だ」
十分俺は幸せなのだから
「だから、そちらは任せる。後の指揮、頼んだぞ」

そして、白い外套を翻し、彼はコンサートホールへと歩き出した
その役を終える為に











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