――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― Stage-6 CARNIVAL《--- ----- & knight of night》- 殺戮舞踏祭 ―――





























epilogue- 子供の手を握る天使



































この場所は暗い

冬華が言っていた闇とは、多分ここの事を言うんだと思う
この場所には何も無い
そして死の気配だけが漂っている
生を謳歌する者にとっては、この闇こそが恐れの対象だろう
しかし、それも―――

自分にとっては、慣れ親しんだ暗さだ

本当に馬鹿だと思う
僅か二週間程度で二回も死を体験するとは
本当に、自分は冬華に頼りっぱなしな様だ
彼女が幾ら自分を頼っていたとしても、それはこちらも同じ

ココロの奥に埋まる、闇を覗く

逃げていた
逃げていたのだ
冬華を心の拠り所にして、自分の弱さを捨てたつもりで居た
そう、捨てたつもりで居た
弱さは捨てる事なんて出来ない
捨てようとするだけ、自分は惨めになる
薄くなる
そして―――更に弱くなる

受け入れなければいけない現実を直視出来ず
ただ子供の様に嫌いな物を後回しにしていた
何て無様だろうか?
本当は強くなんてなかった
十分やっていけると思っていた心さえ作り物
それに隠れていた心こそが真実

俺は、自分で否定した―――いや、“拒否”した力こそが俺の弱さだったのだ
だから、ソレを捨てたままにしている自分は、更に弱い
眼を背け、ただ見ようとすらしなかった
唯目の前にある綺麗なものにだけ意識を向けていた

冬華だって、過去と折り合いをつけようとしているって言うのに…!!

情けない
惨めだ
そして本当に愚か

だから俺は負けたのだろう
他人に心の傷を抉られ、取り乱し、暴発した
それであの結末
笑えない、最高に下らない
こんな俺を同情なんかしない
こんな堕ちた俺と闘ってしまった獅雅にこそ同情する
俺が負けたのはある意味必然だったのだろう
過去を直視出来ず、前に進んでしまった自分
全てを受け入れ、在ろうとする思いのままに進む獅雅冬慈
なら、負ける事が必然
今の自分では、アイツに手傷を負わすのがやっと
それ以上には決してなれない

―――納得する―――

この死は定められた負けだった
そう、ただ惜しむらくは
剣を持って相対出来なかったこと

そして―――


また冬華を、悲しませるだろうという事


ゴメン、本当にゴメン
何時も君には心配を掛けさせる
また、泣かせてしまう
こんな俺を憎んでくれて構わない
だから、せめて―――
憎んでいてもいい

俺を、忘れないで―――


幼子が、母を求める様に
恋人が片割れを探すように
手を天に翳した
もう触れない物を触ろうとして
もう感じることの出来ない温もりを感じようとして
その闇に手を伸ばした



















「祐一さん」



















声が―――聞こえた
深い慈しみの声
身体に感覚が戻る
熱が身体を駆け巡る
命の鼓動が芯より響く
それよりも、何よりも
包まれている温かさに、そっと閉じていた瞼を開く
突如戻った視力に、眼が追いつかない
しかし、その存在だけは確認出来た




「ふゆ、か?」

そこに在ったのは冬華の顔
唇を鮮血で濡らした、銀の髪の少女
プルートーは以前語っていた
冬華が自らの血を飲ませて延命を計った事を
それなら、また自分は冬華に助けられた事になる
また自分は――――生き長らえた

「祐一さん…目が覚めましたか?」

冬華の声が聞こえた
それで再び意識を繋ぐ
言うべきは感謝の言葉
ありがとう、と
助けられた、と
そう、感謝を込めて言わなければならない
しかし―――

「バカ…」
「―――え?」
「バカ…何で俺を―――俺を助けたら、お前まで帝国に…」

震える唇でその言葉を紡いだ
感謝ではない否定の言葉
今自分を助けたら、冬華は帝国に狙われるだろう
自分は、戦争でツォアルの兵を殺戮して回った戦犯だ
帝国にとっては、大罪を犯している自分を助けた共犯として冬華を追い立てるだろう
だから、こんな愚かな自分を助けた非難を言葉にして冬華に浴びせた

彼女は泣くだろうか?
また、悲しむだろうか?
しかし、次の言葉は予想外だった

「狙われる、ですか? 構いません」
「え?」

次に呆気に取られたのはこちらだ
冬華は近い距離を更に縮めると、祐一を胸に抱き締めた
そして、子供をあやす様に優しく抱き締める

「貴方の居ない世界になど、意味は在りません。
私は貴方があってこその冬華。
貴方が助かるならば、私は喜んで世界でも滅ぼしましょう」

だから、と彼女は続ける
先程とは違う、一層強い抱擁で

「だから―――死なないで下さい。私を一人にしないで下さい。
貴方が死ぬ時が、きっと私の死ぬ時だから―――」

冬華は泣いていた
捨てられた子犬の様に
泣いていないなんてのは嘘だ
外に漏らさず、ただ内でのみ泣いていたのだ
ああ、自分は愚かだ
本当に馬鹿だ、どうしようもない
そんな冬華を、力が入らない腕で抱き締める事しか出来ない
ああ、今だけは
いや、これからも
彼女が一人で歩けるその時までなんて思わない
思えない
伝えたい、言葉が在る
その言葉は―――


「っと、邪魔しちゃったかな?」
「っ、獅雅…?」

じゃり、という音を立てて踏み込んで来た一つの影
それは腕を吊った状態で景気良く笑う剣聖・獅雅冬慈だった
祐一は冬華に抱きとめられたまま、その鋭い視線を冬慈へと向けた

「ああ、そう睨むな神剣。俺がお前の女を連れてきてやったんだ」
「―――何? どういうつもりだ…」
「最初は死に目に立ち合せてやろうと思って連れて来たんだがな…。しかし結果はありえない程の治癒能力による貴様の復活。少しは俺に感謝したらどうだ?」
「…そうだな。もう一度冬華に逢えた。感謝する」

その祐一の素直な言葉に冬慈は眼を丸くして驚く
そして楽しそうに笑って見せた

「さて、そろそろ行ったらどうだ神剣」
「見逃してくれるのか?」
「ああ、条件はあるがな…」

その言葉と共に冬慈は腰の鞘から魔剣・夜斬りを抜刀
その切っ先を祐一に向ける

「俺は貴様の女まで手配するつもりは無いし、勿論お前を手配するつもりは無い。
だから俺と約束しろ。
お前が再び剣を持つに至った時、最強に近付いたと思えた時、再び俺と闘え」

その言葉を述べた冬慈と、祐一の視線が交錯する
見つめるのは、その裡に在る確かな思い
その内在する意識を視て、祐一は確かに笑う

足を投げ出した状態から膝立ちへ
膝立ちから、冬華に肩を借りて、それでも立ち上がった
血が足りなくてクラクラする
それでも、真正面から冬慈の眼光を受け、そして笑った

「―――は。いいだろう。約束する。俺も今日ので迷いが晴れた…。捨てた弱さ―――再び取り戻してお前の眼前に立とう」

その言葉と視線を交わし、祐一と冬華は歩き出した
薄暗い世界を抜け、表へと帰って行く
それを見ずに冬慈は見送る
そして、嬉しそうに頬を緩めた
それは、自分だけの玩具が、未だ存在している喜び

「今はまだ、ただの【 名無し(ネームレス) 】―――…。さて…貴様はどんな存在になって戻ってくる? 神剣―――」









冬華に肩を支えてもらい、闇を抜けた
幸いにも通路には誰も居ない
これも冬慈が手配してくれた物だろう。本来であれば死体となった祐一を運ぶ為の物であるが

そこになって、直ぐ近くにある冬華の顔を覗いた
美しい顔立ちに、透ける様な青い海を思い起こさせる蒼眼
その存在が、失わず、消えずに、今も直ぐ傍に在る
その事実が、今は堪らなく嬉しかった

「? 何ですか?」
「いや、何でもない」

だから、君に伝えたい事がある
この内に秘めるこの気持ちを伝えたい
だけど、まだ―――

「今回は本当に心配したんですからね」
「いや、それは悪いと思ってるけど」

自分には拾わなければならない欠片がある
祓わなければならない咎がある

「本当に解ってるんですか?」
「解ってるって。本当だぞ?」

だから、それを全て終えた時に伝えよう
声に出して君に―――









「信用しますからね?」
「ああ、任せとけ」

―――愛している、と―――










――― Stage-6 CARNIVAL《--- ----- & knight of night》- 殺戮舞踏祭 ―――

―END―













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