愚かにも全てを信じ
国の為に全てを生きると誓った

金髪との出会い。そして、俺が愚かな勘違いをしていた時の話だ
それは、青年が少年だった頃の物語




















――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― stage-7 Distance to of his death - 終焉までの道のり ―――





























#4 騎士-Knight



































王都ファティマ
シャイグレイス勢力圏の首都
そこに長い黒髪の少年の姿があった

「………」

見渡せば人、人、人…
冬のこの次期にも、変わらず人が溢れかえっている
その市民が歩く中に、明らかに毛色の違う者達が見られる
その全てが上位騎士選考を受けに来た者達だろう
兵士が日常を闊歩するこの国とはいえ、彼らの存在は明らかに浮いているといえる
そんな存在を眼の端に捉えながら、祐一は歩き出した
何はともあれ上位騎士選考に出る為には登録が必要だ
先ずはファティマにあるコロシアムに行かなければならない
だが、

「てめぇ! 謝れっつってんだよ!!」
「選考が始まる前にケリつかるか? あぁっ!?」

真横でこういう事態が引き起こる

「はぁ…」

溜息を吐き出し、祐一は回れ右
その現場へと歩み寄る

(騎士としては事態の収拾を図らなければならないだろうな…)

理由はそれだ
騎士として在るべき姿として、祐一はその現場へと近付き――

「通行の邪魔になる、やるならファティマの外でやれ」
「飯が食えないだろうが!戦るならどっか遠くでやれ!」

「―――ん?」
「―――お?」

真横に並ぶ金髪の少年と声を並べたのだった

「何だお前」
「お前が何だ」
「あ? もしかして男か?」
「悪かったな、男に見えなくて」
「別に悪いとは一言も言ってないだろ。俺は世の中にはそういう趣味の奴だって居る事位知ってる」
「…俺は至って普通だ、触覚金髪」
「ああっ? 喧嘩売ってんのか女男」

喧嘩を止める筈が、一転して剣呑な雰囲気へと移り変わる
眼前に立つ少年を見る
金髪に頭の天頂部から跳ねた毛
背中には一振りの大きな―――剣?
そこまで確認して、視線を元に戻せば不敵な表情
流石にお互い街中で抜刀するつもりは無いが、相手の表情にはこちらの怒りを煽ろうとする意思が読み取れる

「んで? どうする? 公認の仕合としてヤるか? それとも尻尾巻いて逃げ―――」
「潤!!」
「……?」

怒声が響く
どうやら潤というのは眼前の金髪の少年らしい
掛けられた声に驚き、離さなかった視線をグルンと真後ろへと向けた
囲んでいた野次馬達をどけて一人の少年が歩いてくる

「き、霧人…」
「お前は…少し目を離すとこれだ…全く…」

黒い髪の短髪に、腰に一振りの長剣を携えた少年が、潤と呼ばれた少年を叱る
まったくもって色々と複雑だ
喧嘩を止めようとすれば、変な奴には絡まれる
罵り合いが始まろうとすれば寸での処で、相手に連れが現れる
これではストレス性胃潰瘍にでもなってしまう

「はぁ…」

溜息を一つ吐くと背を向け、祐一は人ごみの中へと歩き出した
そんな祐一の行動に気付いてか、潤と呼ばれた少年が『あっ』と声を漏らす

「て、てめっ! まだ話は終わって―――」
「いい加減にしろ潤!」
「ぐぬっ!? ぬぅぅ…」
「これから上位騎士選考なんだぞ? 騒ぎを起こしてどうする?」

その言葉に、一瞬だけ歩みを止めそうになる
が、止まりはしない。話を流すように聞くだけだ
どうやらあの金髪も選考会に出るらしい
もしかしたら剣を合わせる事もあるかもしれない

「………フッ」

苦笑―――随分やきが回ったもんだ、と声に出さずに笑う
何処かで何かに期待している自分が可笑しかった
国の為に働こうとしている者を選ぶ為の会なのに、自分は強い相手を期待している

そしてもう一度苦笑すると、今度こそ祐一の足並みは人ごみに紛れた



















「ここに758名の上位騎士選考会参加を認める」

コロシアムに威厳有る声が響く
広いコロシアムの中心に立つのは、ここシャイグレイスの軍務統括者――元帥イグニス・レヴィだ
コロシアムの中には彼の姿しかない
そして、それを囲む様にして観客席には758名の騎士候補が居る
全員が全員直立不動
唯静かに元帥の言葉を聞いている

「では、説明はこれで終了だ。これより第一次審査――実技試験を開始する」

その声と共に、我慢し切れなかった何名かが猛る心を漏らすように咆哮した
その声を切欠に、静かだった会場に熱気が溢れる
心熱くする空気が支配するが、一人―――相沢祐一は静かに席へと腰掛けた

何も騒ぐ事では無い
これはあくまで試験なのだ
賞金の掛かった勝ち抜き戦でも試合でも、ましてやトーナメントでもない
これから始まる実技は仕合
殺しすらも許可される“死合”だ
別に殺す事が絶対という訳では無いが、それでも死者は必ず出る
弱者は所詮そこまで
使えない物はゴミ屑の様に捨てられるだけ
それがこの国の全てだから

『582番――相沢祐一…223番――レキ・ヴァナン…三番リングへ―――…』

だから、呼ばれるまでは静かに
心を研ぎ澄ますだけ
立ち上がり、餓える心を未だ押さえつける

「ここまで、五年…か…」

呟く言葉は誰に聞かれる事も無い
己の心のみで消化し、意志を確認する

「さて…行こうか…」

口元を歪めると、祐一は会場へと降りていった









リングへと足を掛ける
と、同時に視線を前へ

「相沢祐一、レキ・ヴァナン。双方死をも恐れず、ここに立つか?」
「…誓う」
「ああ、誓おう」

“殺し合い”の同意を行うと同時に、審判は手を交差
開始の合図を告げる
試験の―――開始だ

「………」

純白の剣を抜刀し、それを構える
五年の間使い続けたケイテシィ―――投擲剣『墓標立つ戦場(ミリオン・グレイヴ)
結局、この五年の間、師・緋菜菊を負かす事は出来なかった
それは、勝ちたいと思う心が在ると同時に、傷付けたくないと思う心が在ったからだと思う
悔しいとは思うが、それで良かったと思う
彼女は、大切な人だから

「―――」

教えてくれた事を思い出す
【 空握 】、【 鋭殺 】、【 鏡面 】、【 瞬歩 】
空間把握による三次元空間の状態把握に、的確にして確実な戦闘・殺害技術。そして滑らかな体重移動による理想的な歩法。最後に、超神速の移動術
今の自分を形作る技術――思いを反芻し、その支配を解き放った

「おらああああああっ!!」
「…―――ッ!!」

視覚で、万華鏡の中を覗くように不確かな世界の流れを見、そして広がった意識で自分の位置を客観的に認識する
踏み込みが終われば、そこは相手の側面
自分の姿を認識出来ていない横顔がそこにあった
―――【 鏡面 】
足音も立てずに踏み込み―――
―――【 鋭殺 】
純白の刃を真一文字に薙ぐ
戸惑いは無い
躊躇いも無い
俺はこれから人を殺す
そう、コレが最初の殺人だ

ヒュッ―――斬ッ!!!

真っ二つというよりは、大きな衝撃を受けて二つに別れた感じ
紅い残滓が頬へと付着する
余韻に浸る
自分は今、一人の人間を殺した
罪の意識は有るか?
無い
不快感は?
感じない、無だ

どちゃっびちゃっ…

大丈夫、俺はここに完成した
殺せる、躊躇わずに殺せる
そう、俺は―――師以外なら躊躇い無く殺そう
万の前に立ち、万を殺そう

「立ち塞がるなら――死を」

ここに、上位騎士選考の場から―――【 血染めの魔王(クリムゾン・イーブルロード) 】
そう呼ばれる騎士が誕生した











to next…

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