――― To the children of an INHERITANCE - 遺産の子達へ ―――
――― stage-8 The knight of shine - 灼陽貴 ―――





























epilogue-2 世界の影、そして表



































―――和平会談の一週間前
―――水瀬の屋敷前


「それじゃぁ、行きます」

祐一が皆を前に別れを告げる

「祐一さん…また、戻ってきて下さいね?」
「勿論ですよ。ここが俺の故郷ですから」
「それなら安心です。その時は、国で雇いますので」
「はは…考えておきます」

次に、

「何泣いてるんだ名雪」
「う、う〜。だって…」
「アホ。別に今生の別れじゃないんだ。それに何時か必ず帰って来る。それにお前には斎藤が居るだろう?」
「それとこれとはきっと別だよ…祐一も、私にとっては大切な人…」
「誤解されるだろ…お互い…」

苦笑して、その横に立つ斎藤に視線を向ける

「相沢…」
「名雪の事、頼むよ」
「言われるまでも無いさ。それは、もうずっと前に決めている事だ」
「頼もしい返事だ」
「さっきの言葉は正直妬けたがな」
「“一番”が何を言うか」

くつくつと互いに笑う

「兄さん」
「春人も、名雪に限らず、頼むな」
「ああ、任せておいて良いさ。護って、変えて行く」
「ノイエさんも、春人の事、頼みます」
「はい。お義兄様も、どうぞお身体の方をお大事に」
「ははっ…うん、お互いに」

ひとしきり挨拶を交わして、決意を固める
死ねないな、と苦笑しながら
そして、

「祐一…」
「母さん…」

母を見つめる
互いに憎悪は無い
唯、二人共に困った様な笑みを浮かべて笑う
話す言葉がありすぎて、何から話せばいいか分からない
逆に、この視線を交わしただけで全てを伝えてしまった様な気さえする
だから、一言
さよならと、再会を誓う言葉を吐き出せばいい

「行って来ます」

苦笑いで、言葉を呟く
それ以上の言葉はいらなかった
そうだろう?
だって、家族とは―――

「いってらっしゃい、祐一」

―――そういう物の筈だから














―――北川潤の一幕
―――【 ウェノ 】に帰り着いた後の情景


美坂家の階段を軽快に上る音が一つ
金髪の頭から生える、癖っ毛を揺らしながら北川は二階へと辿り着く
怪我の治療を行い、祐一に協力して掃除を行った後はさっさとシャイグレイスを出たのだ
その際にかつての副団長には泣きつかれはしたし、遊びに来ても良いと答えたのは早計だったかもしれないが
ともかく、彼にとっては慣れ始めた元の生活に戻っていた

「おーい、夕飯だぞー」

こんこんと軽くドアをノックしながら、北川は部屋の主に夕御飯が出来た事を知らせる
だが、返事は無い
寝ているのか? とも思うが、それならちゃんと起こさなければ拙いだろう
そう考えると、北川はノックするのを止めると、ドアノブへと手を掛けた

「………」

かちゃりと音を立てて開く扉
鍵が掛かってなかった
…別に下心は無いからな?
心に言い聞かせながら、部屋の中を覗く
ベッドには―――居ない
視線を巡らせば、探していた主は机に向かって何かを読んでいた

「よっぽど集中してるのか…」

普通に声に出して言ってみる、が気づいてない様子
はぁ、とため息を吐き出すと、北川は気配を殺した
ふふん、驚かせてやるぜっ
等と要らない決意を表明して、ゆっくりと北川は主の背後へと近づき

「へー、新しい絵本を読んでたのか?」
「ひゃっ!?」

ポン、肩に手を乗せながら北川は唇の端を吊り上げて笑う
主、美坂香里は悲鳴を上げて振り返った

「よう、美さ―――」

ギロリッ!

「―――香里」
「よし…それで?」

香里の視線が、刺す様な物から、普段の視線へと戻る
シャイグレイスに出かける前に約束した事ではあるが、殺気をぶつけるのは止めて欲しい
美人が睨むのは怖いのだから

「さっきから何度も呼んだんだどな…夕飯出来たから降りて来いってよ?」
「あら、そうだったの。気付かなかったわ」

ふぅ、と香里が息を吐き出して絵本を閉じた
彼女は絵本の作家を目指しているのだ
似合わない、と言う人の方が多いだろうが、北川にとってはそうでもなかった
そんな事を言ってしまえば、自分の夢は平穏無事な普通の生活という、“外”ではどうかと思われてしまう夢なのだから
その時、北川の目に絵本の表紙が映りこんだ

「―――しにがみさま…?」
「ん? 何? 興味あるの?」
「あ、いや、えらく物騒なタイトルだと思ってな…」

北川が正直な感想を述べると、香里は苦笑する
まったくその通りだ、と彼女も思っているのだ

「そうね。だけど、これ…『しにがみさま』は隣のルベリアではポピュラーな話らしいわよ?」
「うえっ…輸入本ですか?」

ふへーと声を発しながら、北川はその絵本を手にとって眺める
表紙には黒いマントを纏った、デフォルメされた男が鎌を持って立っている
その上に、白い字で『しにがみさま』と綴ってある

「どんな話なんだ?」
「んー、ホント簡単に言っちゃえばよくある悪い奴を懲らしめる物よ。魂をとるぞ〜、って感じね」
「ふーん…」
「その“しにがみさま”ね、なんだがロード・オブ・ロードの【 月喰い(ムーン・イクリプス) 】を元にしてるらしいわよ?」
「うわ、そりゃロードにとっちゃ複雑な気分だな」
「ふふ…そうかもしれないわね」

香里が苦笑しながら北川の手から絵本を受け取ると、丁寧に机へと置く
北川はそんな絵本へと視線を向ける
絵本になったロードの話か…
そう言えば、ムーン・イクリプスの話は聞かないなと思う
これでは、その内ロードから外れるだろう
自然消滅、かね? 何処で何をしているやら…
自分が存在していたロードの枠には、折原浩平という人間が納まったらしい
どうでもいい事だが
それよりも、ギルドの更新された上位ランキングに、友人の名前を発見した方が大きかった
思わず人前で爆笑してしまった位だ
それでも、それは何処か普通だと思う
友人―――相沢祐一とは、自然と上に居る人間だから
それは自分にも言える事かもしれない
しかし、決定的なのは自分が功績を挙げようとしない事であり、祐一が功績を挙げようとしなくても挙がってしまう生活を送っているという事だろう
これなら、再び祐一の名がロードに連ねる事もあるかもしれない

「?、どうしたの急に笑って」
「いや、何でもない」
「そう、それじゃ行きましょう北川君」
「………」
「嘘よ。行きましょう潤君」
「了解っ」














―――秋子と冬慈
―――和平会談の休憩中


「これで大体の事は話し終えました」
「…ありがとう御座います秋子殿…」

冬慈が丁寧に頭を下げ、秋子に礼を述べる
秋子は構いませんと言う様に首を横に振った

「知っておいて欲しい事も、色々ありましたから、いいんです」
「………」
「私と娘の名雪は血縁であるし、後ろに控えている春人さんは祐一さんの弟です。霧人さんは友人です。ラクトさんは直接の関わりを持ちませんが、騎士としては祐一さんの後輩になります。ここに居る皆は、少なからず彼を知り、そして大事に思っています。だから、貴方には知っておいて欲しかった」

それは殺し合いをするなという事だろうか?
いや、違う。冬慈は穏やかに微笑む
殺し合いをする事は構わないのだ
唯、互いを穢す様な真似はするなと、
―――背後関係を知った上で、思いを直接ぶつけられる様にしたのだ
勿論、簡単に命を奪う様な真似はしない
あんなに面白い人物の命を簡単に奪ってしまっては、きっとこの先退屈する

相沢祐一が歩いている道はそういう道だから―――元より命を落とす覚悟はしているだろう
唯、生き続けようとしているのは、それなりの重みが彼を押さえていてくれるからだろう
それは、お互い様か…

アリスは自分を止めるだろうし、殺されそうな時は捨て身で自分を護るだろう
相沢祐一が連れていた銀の女も、少なくても相沢祐一が殺されそうな時は止めに入るだろう
結局、強くなりすぎると親しい第三者が絶対抑止力になる
ブレーキを“壊されなければ”きっと自分も相手も命を奪う真似はしない事だろう

考えた思考に笑い、そして、それを見越しているシャイグレイスの代表に、冬慈は多少の驚きを覚えた
流石、元はロードの地位に居ただけの事はあるという事か…

「私も何か大切な物が欠如し、壊れているのでしょうが…秋子殿、貴女も理解できているという事は相当ですね」
「そうですね。しかし、私は抑止の力が強くなりすぎて、もう戦場に出る真似はしないでしょう…」

強者を求めた事がある事を秋子は否定しない
それは覆りようの無い事実だから
呪器を受け取り、技術を鍛え上げ、戦場で戦果を上げる
だけど、出逢いは自分に緩やかな停滞を齎してくれた
最初に愛した人はもう居ない
二番目に愛する事になった娘しかいないが―――自分は結構、満足しているのだと秋子は思う

「子供が生まれれば、貴方もそうなるかもしれません」
「そうですね…そうかもしれません…」

互いの顔を見ながら、穏やかに笑う
理解はされないかもしれないが、それも一つの考えた方

こうして、和平交渉の場は穏やかに過ぎて行く














―――何処か彼方


「システム、オールグリーン。事象演算機構、組成アルゴリズム、共に問題ナし」
「しステむ《エリュシオン》、56番かラ233番、612番カら869番までヲ展開。第一世界構成事象から、第七世界構成事象ヲ復元」
「全展開を確認。全、七世界の組成に必要な時間を報告―――14616時間と54分40秒と確認」
「第七事象世界にオイて、@#$%#&¥、ギ、ギギg―――」
「エラー確認。割り込まれた命令により、優先順位を下げこれに対処」
「《異世界接点(クロス・アルカディア)》の発動プログラム損傷にヨり、命令サレた事象を優先」




「祝福されし、地上を生きる子等に楽園を」














―――相沢祐一の一幕


「うん?」
「どうしました? 祐一さん」
「あ、いや、何でもない」

太陽が輝く下、祐一達が徒歩で歩く
その途中で、祐一は何かの音を聴いた気がした
それは何処か―――心臓の鼓動に似た深い音
どうしてそんな音が聴こえたのか、何処から聴こえたか判らない
だが、何故か、腰に下げている漆黒の刃が原因ではないかと、そう思った

「………?」

旅は続いている
今日も明日も、歩みは途絶えない

―――まだ、崩壊の兆しは訪れない










――― stage-8 The knight of shine - 灼陽貴 ―――

―END―













next to stage-9





あとがき

蒼月「はい、という事で舞台裏です」
祐一「これで一区切りか…ま、おつかれさまという事で」
蒼月「ここまで来るので約一年。いや〜長かった長かった」
祐一「そうだな。一年で8章だろう? 予定では後何章だったっけ?」
蒼月「あぁ、当初の予定では23章で終了の予定〜」
祐一「単純計算で後2年か…」
蒼月「…続くのか?」
祐一「いや、あんた次第だろう?」
蒼月「無理だろ」
祐一「見切りが早いぞ作者」
蒼月「えー…だって後2年だぞ? 無理っぽくない?」
祐一「あんた次第だろ?」
蒼月「LUNA SAGAと、後オリジナルやんなければ何とかなるかなぁ…あとヤル気」
祐一「ま…LUNA SAGAもあるからなぁ…多少は伸びるか」
蒼月「多少じゃなくて存分に?」
祐一「さっさと仕上げろボケ」




祐一「一つ質問していいか?」
蒼月「はいはい、なんざんしょ?」
祐一「『遺産』での俺達の戦闘能力ってどの位なんだ?」
蒼月「は? 戦闘能力?」
祐一「ああ。雑魚はごみの如く散るし。滅茶苦茶強い奴は強いだろ?」
蒼月「あ〜…確かに」
祐一「だからちょっくら数値化してくれ」
蒼月「えー、めんどい」
祐一「やれよ。つーかやれ。読者も知りたい筈だ」
蒼月「…、まぁいいや。じゃ、やるかなぁ〜…」




見習い冒険者ステータス
DAM(ダメージ・ヒットポイント):2000
SP(スキルポイント・魔力):500
攻撃力:100
耐久力:100
筋力:100
敏捷:100
魔術能力:100
耐魔術能力:100
総合戦闘技術:100

ギルド評価:D




祐一「今のは?」
蒼月「世に出る冒険者のラインだと思って」
祐一「殆ど100なのは?」
蒼月「基礎ランクなんだよ。比較しやすいだろう?」
祐一「ふーん…」
蒼月「それじゃ…そうだねぇ…君の弟さんでも比較するか?」
祐一「春人か?」
蒼月「うむ。それでは行ってみよう」




相沢春人
DAM:12000
SP:10000
攻撃力:980
耐久力:200
筋力:330
敏捷:800
魔術能力:2600
耐魔術能力:2000
総合戦闘技術:2600

ギルド評価:S




祐一「えらく跳ね上がったな…」
蒼月「ギルドランクで言えば、確実にナンバー一桁台だろうねぇ…」
祐一「確かに春人は魔術能力が桁外れだからな」
蒼月「それじゃ、次は君と北川君でも計るかね?」




相沢祐一
DAM:14500
SP:12000
攻撃力:2000〜即死
耐久力:250
筋力:500
敏捷:1600
魔術能力:1800
耐魔術能力:1500
総合戦闘技術:3800

ギルド評価:SS+




北川潤
DAM:16200
SP:8200
攻撃力:3000〜即死
耐久力:320
筋力:500
敏捷:1000
魔術能力:1500
耐魔術能力:2200
総合戦闘技術:3900

ギルド評価:SS+




蒼月「魔術能力は【能力】を考慮してない物、どれ位の威力が出せるかですので祐一君が北川君を上回ってます」
祐一「つーかさ、即死って何よ?」
蒼月「うん、これは武器の特性も入れてるからさ」
祐一「まぁ、俺のは死だし、北川のは破壊だからな…」
蒼月「そう言う事」
祐一「そういやさ、DAMとかSPは跳ね上がるけど、耐久とか筋力が跳ね上がらないのはどうしてだ?」
蒼月「これは、人間という生物が出せる限界値が君達が立っている場所なのよ、既に」
祐一「人間を半分捨ててるとか言ってるけど、そこら辺は変わらないんだな」
蒼月「…筋肉を鋼に変換したいのか?」
祐一「…いや、やめとこう」




獅雅冬慈
DAM:15500
SP:1000
攻撃力:1300〜即死(氣を纏った状態・仙術:3600〜即死)
耐久力:320(仙術:460)
筋力:500(仙術:650)
敏捷:1100(仙術:1400)
魔術能力:0
耐魔術能力:2000〜キャンセル
総合戦闘技術:4200

ギルド評価:SSS




祐一「……魔術系が駄目な代わりに、他が凄いな…」
蒼月「彼は魔術、はっきり言えば解析しか使えませんので」
祐一「だけど相手の魔術キャンセル出来るじゃん」
蒼月「君にはトリプルブレイクがあるだろ?」
祐一「能力は未だショボイからなぁ…」
蒼月「んじゃ、次は冬華嬢に行ってみようか」
祐一「冬華は根本的に人間のポテンシャルを上回ってるからな…」




冬華
DAM:23000(オートヒール:弱)
SP:600000(オートヒール:強)
攻撃力:2300
耐久力:600
筋力:1250
敏捷:1200
魔術能力:10000
耐魔術能力:10000
総合戦闘技術:1200

ギルド評価:S




祐一「………」
蒼月「………」
祐一「SPが六十万て何?」
蒼月「魔術ばんばん使っても底が来ない位の量。しかもオートヒール掛かってる」
祐一「無茶苦茶だな…」
蒼月「だけど、冬華嬢が使える『ネーム・カオス』はSPの消費量四十五万だからね?」
祐一「………。まぁ、いい。他の欄も、冬華の身体の事から考えれば納得出来る。だけどギルド評価がSなのは?」
蒼月「んー、祐一君、君が冬華嬢と戦ったら勝てるかね?」
祐一「まぁ…戦闘を始める間合いによるけど、勝てるが?」
蒼月「そうだね。冬華嬢が遠距離から大魔術を使わなければ、君の場合簡単に勝てるかもしれない」
祐一「成る程…だからか。だけど『かもしれない』ってのは?」
蒼月「おっと、そこは秘密。次のチャプターのお楽しみだ」
祐一「?、まぁ、いいがな…」
蒼月「んでは、気になる人でもやっとくかね」




レヴァルス
DAM:3500
SP:22000
攻撃力:500〜即死
耐久力:80
筋力:130
敏捷:150
魔術能力:2000
耐魔術能力:2000〜無効化
総合戦闘技術:700

ギルド評価:?




水瀬秋子
DAM:9800
SP:11000
攻撃力:1300
耐久力:180
筋力:360
敏捷:700
魔術能力:1800
耐魔術能力:1700
総合戦闘技術:3200

ギルド評価:S




折原浩平
DAM:12300
SP:8800
攻撃力:3500
耐久力:270
筋力:440
敏捷:1100
魔術能力:1900
耐魔術能力:1600〜空間障壁による無効化
総合戦闘技術:2100

ギルド評価:S+




祐一「へぇ、レヴァルスって唯のボンボンでは無かったんだな」
蒼月「ま、それなりの教育の賜物かね」
祐一「秋子さんもさることながら、折原も強いし」
蒼月「実はな。ま、一応ロードに入っちゃったし。これ位の実力はある訳よ」
祐一「浮遊城編では、一撃しか能力使わなかったけどな」
蒼月「ま、一撃で相手の能力無効化したんだし」
祐一「強いには強いってか」
蒼月「まぁ、総合戦闘技術は君達の半分程度だけどね」




祐一「はい、これであとがきの方は終了させて頂きます」
蒼月「次のあとがきは…何時になるんだろうね?」
祐一「次の一纏まりが消化された時だろうけど…」
蒼月「まぁ、気長に待ってて下さい。それでは、失礼します」
祐一「また次の機会に」


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